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「サブカル仏教学序説」拝読

 三浦宏文さんの著作「サブカル仏教学序説」を拝読しました。

サブカル仏教学序説/三浦宏文

 僕が「読んでみたいなー。」と話していたのを覚えていてくれて、職場の同僚の方からタイトルが語られたという偶然も相まって、娘が僕の56歳の誕生日プレゼントに選んでくれた本であり、それはとても楽しい読書体験でした。
 ここでは一読者の読後感を記したいと思います。稚拙な文が著者に失礼にならないことを切に祈ります。

 本書では、サブカルチャー作品の中に現れる仏教思想の考察が試みられています。
 考察の流れは、サブカルチャー作品の概要 → 作品の背景に現れる仏教的なものの提示 → 仏教的なもの(たとえば、菩薩思想、四十八願、バガヴァッド・ギーター、共生思想などなど)に関する概要の説明 → 作品の中に現れる仏教思想の例示の順に進みます(章(テーマ)によって進み方が異なります。)。

 仏教全般に関して一般常識程度の知識すら持ち得ていない僕は、まず、ここで提示される仏教に関する用語に抵抗を感じました。
 そこで、「大乗仏教」(僕がよくは知らなかったこの用語をATOKは一発で変換しました。)、「三蔵(経蔵・律蔵・論蔵)」、「菩薩思想」、「四十八願」、「大悲闡提」から「六根清浄」、「生死一如」など次々に現れる僕が意味を知らない用語に黄色の色鉛筆でマークをしてみることにしました。
 読み進めていくと、「仏教的なものに関する概要の説明」に当たる箇所で、僕がマークした用語はするすると解説されていきます。そこでは気持ちが良いくらいに「仏教的なもの」の概要が説明され、その姿が作品の中に現れていきます。

 第1章における膨大な情報を読者の興味を削ぐことなく伝えていく説明の作業は相当に骨の折れるものであったと想像しますが、これらの説明にストーリーをもたせることによって、「作品の中に現れる仏教思想の例示」に当たる箇所においては、仏教思想のストーリーとサブカルチャー作品のストーリーが見事に符合します。

 そして、それぞれの章で掲げられるサブカルチャー作品の紹介が愛にあふれていること!

 インド哲学・仏教学、現代若者論を専攻する著者が、愛すべきサブカルチャー作品達を見続け、長年にわたって考え続けていたであろう事柄と、だからこそ思いつく作品の中に現れる仏教的なものが読者に示されます(想像)。
 ひとつひとつの作品の沿革と時代や状況に係る背景、場面や台詞に関する細かな根拠を伴った丁寧な筆致。

 御専門のインド哲学・仏教学に関しても確認・検証がなされています(膨大な参考文献よ!)。参考文献に文庫を多くお見受けするのは、ひとつの「ガチの証」かもしれません。

 古典中の古典であるインド哲学・仏教学の思想は、姿形を変えて脈々と時代をたどり、後の思想・芸術に影響を与えてきたのでしょう。
 そして、その影響は知ってか知らずかのうちにも現代の文化に表出し「サブカルチャー作品の中に現れる仏教思想」として本書で紹介されるに至りました。

 本書で紹介された仏教思想のストーリーは、仏教全般に関して一般常識程度の知識すら持ち得ていなかった僕でもどこかで見聞きしたことがあるものであり、それが、現代のサブカルチャー文化の中に在るということは、充分に刺激的で、これまでなじみがなかった仏教思想を少しだけ垣間見ることができましたし、今後、より深化して行くであろう「サブカル仏教学」の展開が楽しみでもあるのです。