食人鬼ホラーから人種問題の歴史に風刺したリブート【映画「クライモリ(2021)」】
食人鬼が出てくる「クライモリ」シリーズのリブート版となるが、今作は人間同士の争いになり評価が別れる。
バージニア州のとある森でハイキングしていた若者6人が忠告されていたコースに外れら結果、森に住んでいた狩人らに襲われていくというB級ホラー。今作は人間の争いと言うことでアメリカの歴史になぞらえられた凝った設定になっている。
その森の狩人らは1859年の南北戦争前に世捨て人となった人間が森に建国した新たな国家の住人でありその末裔の人々であった。
南北戦争は奴隷制や関税性を理由に争ったアメリカの内戦であるが、森の舞台もバージニア州だったことから奴隷制についての皮肉はどうやらあるようにも見えた。
1859年のバージニア州といえば反奴隷制だった活動家が北部の武器庫を襲って黒人の蜂起を促したことで、反逆罪や殺人罪などで絞首刑にされた歴史がある。この後にリンカーンが大統領に選ばれ南北戦争に発展していった。
クライモリによる森の民は外の世界とは隔絶し己たちの自由を確立して過ごしていた。
森の不法侵入にあれほど敏感だったのは己の自由を縛られてきた人々が逃げ込んでその人間だけで形成してきた歴史しかないからということだろう。至る所に、力の象徴である鹿の顔や面をしてる人が多かったのも強い意志を感じさせる。
街の人々も家族が彼らに殺されてきた過去があるだけに森の民への排他意識は強い。外の人間らが来るだけで職業差別するほど冷たさを持っていたのは奴隷制から逃れた歴史を意識させる彼らの領土がすぐに隣にある場所で済んでいるだけに差別意識の名残が残っている一つの象徴だったと思える。
結局森の国に捕らわれた若者たちは独自の裁判にかけられ死刑と感覚を消される「闇に葬られる」というある種の奴隷制と59年の裁判によるメタファーを感じさせる復讐が行われた。
終盤、生き残った主人公の女性は父親と逃げるが黒人の彼氏はあの国に馴染んでしまい残る選択をしたのも皮肉に見える。
逃げる途中で闇の罪に葬られたもう一人の黒人の友人を主人公は銃で撃っていたのも彼女なりの解放の手段だったのだろう。
最後は森の村長が少女と共に、逃げた主人公を取り戻しに彼女の家まで来るという人間らしい執念の怖さを感じさせる最後で終わっていった。白人の彼が長だったのも違和感だったが、そういう国になって支配していくのは白人だったということだろうか。
あの少女はおそらく村長の元妻との娘だろうが、半分主人公を助けていたのも元妻と境遇が同じだったからだろう。閉鎖された村を変えるのも最後はよそ者か未来の子供だというオチに見えた。
名の知れたB級シリーズだけにグロさを表現する美術や見せ方にしても予算がかかってて見やすい映画だった。
ごりごりのスプラッター好きは物足らなさもあるんだろうが、人間争いにしただけあってこれだけ二重に背景が見えるようなストーリーになってたのも田舎ホラーのリブートとしては新しい作品だったと思える。