「巨人の野球」第2話

36光年先の地球に、もうすぐ到着するという。
アンドロイドには、まだ名はないそうだ。
そこで、対応してくれたこのアンドロイドに名前つけてあげることになった。
アンドロイドなので「アンドロイドン」とつけてやったが、「安直すぎませんか?」との返答だった。
そこで、我々の星ではその名前の二枚目俳優がいると教えてやった。
試しに言ってみたら、「それなら、いい名前ですね。」と意外にも納得していた。
もちろん、そんな名前の二枚目俳優などいないが、36光年先なのでバレるはずもない。
奇妙な笑いを提供するアンドロイドと派遣選手達には、すでに奇妙な関係性ができていた。
嘘がバレていない様子に、ほくそ笑んでいた。
これは、今までのお返しだったか。
彼らは野球選手のはずだが、そんなことを考えるのか。

その後、大気圏に突入するので、アンドロイドンから再びシートベルト着用を促された。
大気圏突入後は大きな重力がかかる。
そして、目的地へ着陸したと告げられる。
本当に36光年先に来たのかは、分かるはずがなかった。
この地は大きな重力なのか、今まで無重力だったためか、一同はとても立っていられなかった。
なす術もなく、一人づつアンドロイド達に機内から運び出されていく。
情けない状態だが、これは仕方がない。
こんな状態で野球などできるのかと問うと、「すぐに慣れます。」とのこと。
一同は機内から外へ出た。

機内から出ると、宇宙船の着陸基地のようだった。
一人に一体アンドロイドが付き添う状況であの男が現れた。
あのビデオメッセージの佐藤と名乗る男だ。
皆が余裕ない状態だが、近づいてきたこの男をよく見ると「ああああ」と声を上げた。
映像では分からなかったが、こいつはでかかった。
見上げるような大きさの大巨人といったところだ。
(だいたい3メートル位)
佐藤は口を開く。
「ようこそ我々の地球へお越しくださいました。」
この男は現地人なのか。なぜこんなにでかいのか。
いや、よく見ると他の人、全ての人、そして全てのものがでかい。
ようやく分かった。渡航した先は、巨人の惑星だった。
こんな巨人と野球で対戦するのか。
多くのことが混乱する。

説明を受けると、こちらは36光年先の地球でここも日本という国だという。
それで日本人の氏名を名乗っており、ここの言語も日本語だった。
宇宙人のはずなのに、道理で流暢な日本語で語りかけてくるわけだ。
謎に思えた部分が、少し解けた。
そして、本当に野球で真剣勝負したいとのこと。
体格差は大きいが、技術力ではこちら(巨人側)の方が発展途上で劣っているとのこと。
ちなみに、変化球はほとんど使わないという。
これでいい勝負になるというのが、大方の予想だそうだ。
この辺は、意外と包み隠さず話してきたのだった。
そして、せっかく来たので野球の技術を教えて欲しいと懇願された。
それが本当の目的なのか?は分からなかった。
国民からの関心は高いので、報酬ははずむとのこと。
それは嬉しいが、報酬を何で貰えるのか?不気味さも残る。
今後はこちらの重力に慣れるまでは体を休めて、その後調整することとなった。
ちなみに、佐藤はアンドロイドンに変わったことはなかったか尋ねていた。
アンドロイドンは、特になく二枚目俳優と同じ名前を付けて貰ったことを報告していた。
横で聞いていて大笑いしたかったが、気付かれないよう必死に笑いをこらえていた。

全てが規格外の大きさの国で、移動はスカイカー(空飛ぶ車)だった。
体調面を考慮し、重力に慣れるまでは病院に入院の運びとなった。
佐藤はこの旅で、派遣選手達に同行してくれるという。
住む星が異なると常識も異なるため、その点は理解して欲しいとのことだった。
そして、移動の際に質問してきた。

まず、今回の選手団に二刀流の選手はいないのか聞いてきた。
二刀流をこなしている選手はいないことを告げると、かなりがっかりしていた。
サインだけでも頼みたかったと落ち込んでいたが、後の祭りだろう。
ならば、観客のために違うところでインパクトが欲しいとのことだった。
少し考えた後に、「そもそも二刀流とは両手に刀を持つことじゃないですか。」と言い出した。
誰かバットを2本持って、これが本当の二刀流ということで打席に立って欲しいと提案してきた。
遠い星では、無茶な要求をしてくるものなのか。
そんなことをできるはずもないし、聞いたこともない。
ボールは1つなのにバットを2つ持つ意味はないだろう。
しかし、この星では観客を楽しませさえすれば、それでいいとのこと。
こちらの感情からすれば、誰だってそんなことしたくない。
試したことなどないが、おそらく三振だろう。
必死の思いでそれは断った。
そして、投手野手それぞれに集中していることを説明すると、渋々納得してくれた。
この星でも一般的には投手と野手は分業とのことだった。
今回、両軍ともに二刀流の選手はいなかった。

次に奇妙なことを聞いてきた。
「皆さんの中のどなたかが、今の大きさから巨人化することはありませんか?」とのことだった。
大巨人が一体何を言っているのか。
こちらの人間からしたら、お前らこそ巨人だろうと言ってやりたかった。
詳しく説明を受けると、10光年先の星では巨人化できる民族がいて、その民族は争いを繰り返しているとのこと。
巨人化とは10メートル位かそれ以上ある巨人のことを言っていた。
彼らにとっては、その大きさの人が巨人らしい。
そして、その民族をこの星に侵入させると大問題になってしまうとのこと。
巨人がさらに巨人の心配をしていた。
そんな能力はないこと、強く否定しておいた。
この星の住人からすれば、我々の方が宇宙人ということになる。
そういえば、地球にやって来た宇宙人が巨大化する映像は見たことがあったが、そういうことだろうか。
確かにあんな宇宙人が来たら困るが、そんなのと一緒にされるのも困る。
そもそも自分達から招待しておいて、何を言っているのか。
遠い星のことは分からないが、ここの住人は変わった人ばかりなのかもしれない。
しかし、スケールは大きいが、野球で対外試合をしに来ているはずだ。
どちらにしても、今は休息するしかない。


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