藤本和剛

ふじもと・かずたか/編集・文筆/京阪神エルマガジン社所属、poolside books…

藤本和剛

ふじもと・かずたか/編集・文筆/京阪神エルマガジン社所属、poolside books主宰/プールサイド(poolside books)、大阪の生活史(筑摩書房)、CULTIVATE BIBLE(株式会社カルチベイト)、SUUMO TOWNエッセイほか ご依頼はSNSのDMより

最近の記事

自分ほかし 240924

骨折からまるひと月が経った。 伝えられている全治の半分まで来たが、骨の空隙の様子は一進一退だ。歳のせいか使い過ぎか、いやその両方が焦燥の原因だろうが、大きな病院ならどういう診たてだったろうかと今さら思う。どのみちもう、日にち薬一択の時期になってしまった。 旧い住宅街の整形外科は、どうしても高齢者のリハビリ所という属性が濃くなる。いずれ自分もお世話になるのだろうし構わないのだが、レントゲンを角度バラバラで撮影したとて、正確な様子などわかりっこないと思っているのも実際のところ

    • 骨折登山 240914

      スパゲティはやけどするほどアツアツに限る。 と、事務所を出て隣のビルの地下へ降り、小さな食堂街のガラス戸を押し開ける。月に1回くらい訪れる、ピッツェリアのランチがお目当てだ。 アンバーな薄明かりの下には、チェックのクロスがかわいいテーブル席があり、壁中にワイン農家のサインがある。オフィス街に忽然と現れた現地の食堂のようなその店の、しっかりと量のあるトマトスパゲティのケレン味のなさにずっと惹かれている。 最近、骨の亀裂が少し狭まったお陰で、カチカチのギプスから、ハイブリッ

      • ほぺ毛の脱落 240909

        「ほぺ毛」が寂しくなった。 「ほぺ毛」は「ホペゲ」と読む。 その名の通りほっぺたのひげである。 うぶ毛をうっすら生やした紅顔の少年も、大学で顎ひげを、社会人で口ひげを蓄えて、やがて口角が繋がり白髪交じりになった。 ほぺ毛はひげメンとしての存在を確立させるだけでなく、中年太りを誤魔化すシャドー効果も期待できるひげ界のいぶし銀だ。私の場合、ひげは月に一度行くバーバーで整えるほか、様子を見て自らトリミングしている。 昨晩は、果敢にも慣れない左手にハサミを持って風呂場に向かうも

        • 手で飯を食いたい 240831

          毎日、手で飯が食いたいと思っている。 すり傷が癒えて、噂のカチカチのギプスとなった自分は、腕を吊る布の圧力で首が壊れたために、重たい腕をぶら下げて生活をしている。 不便なことは数え切れないが、親指と人差し指の間に渡された白いカチカチのせいで、箸やスプーンをうまく使うことができない。一時はアウトドア用のフォークやスプーンのセットを持ち歩いていたが、使った後に洗えないと気づいてやめてしまった。 うどんそば混ぜそば冷やし中華といった夏の昼飯のスタメンがうまく食べられないのがく

        自分ほかし 240924

          骨折生活、始まる 240823

          生後初となる骨折をした。 通勤のため、いつも通り最寄り駅に向かう道中のこと。俯いて狭い路肩を歩いてくる白い服のおじいちゃん。 旧いが現役の鉄工所から腹に響く音がしていて、白や紫の百日紅が泡立つようにたわわに揺れていた。路面電車の踏切の音が遠くで鳴って、少しギアを上げる。 学童に向かう黄色い帽子の女の子が坂の先に見えた。そんな何気ない夏の終わりの朝、後ろから迫る車の音が彼の耳にはどう響いたのだろうか、急に幅寄せをしてきたおじいちゃんを避けようとした自分は、壁際の側溝に突っ込

          骨折生活、始まる 240823

          ペリドットの魔力 240815

          息子が栞(しおり)を覚えた。 全国のキャンプ場が載ったカタログ、ドラえもんのひみつ道具大全、関西の電車図鑑といった彼の愛読書にはそれが付箋と併用されていて、今の自分に必要な情報を逃すまいとする思いが、ピラピラの見てくれからも伝わってくる。 自分はよく行く書店のひとつ[toi books]でもらえる厚紙のしおりを愛用しているが、仕事の資料本を含め常時4冊ほど併読するゆえに、気付けばどこかへやっているのが常だ。代役は公園の落ち葉や木の枝、手近なクリップやティッシュ、一番多いの

          ペリドットの魔力 240815

          ヨーロッパの少年 240808

          通り雨のたびに、暑さのカドが取れている。 少し前まで蝉が鈴なりだった青紅葉も静けさを取り戻して、思わず全身で真似したくなる枝ぶりでそこにある。 夏だ一番・ドラえもん映画祭をひとり開催している息子と、家事に動き回っている妻が揃って散髪していた。なんと妻にいつぶりかしらん前髪が誕生して、吉瀬美智子風シルエットに変化している。ええやんかいさヨーロッパの少年風、におてるねと言うと、照れて無言なのが趣深い。 年齢を重ねるほど、身の回りの「一生これでええわ」は増えていき、悪くいえ

          ヨーロッパの少年 240808

          誕生日、未来のエスキース 240805

          「あのさぁ、サンタさんっておとうさんとおかあさんだったりするの?」 「パッと見旅館」と言われがちな年代物の和風住宅の一角には柳の古木があり、春に爆発的に萌え広がる様子は、頼んでもいないのにシンボルツリーの風格である。 初夏の虫食いにもめげず、真夏には枝垂れが伸びきって地面を掃く。風にそよぐ様子は一服の涼を届けてくれ、居間で啜るつめたい麦茶がそらうまい。でも、知られていないが柳は本気の落葉樹。気温が下がるにつれ、人間は柳が豪快に落とす葉の掃除夫となるのだ。 今朝も妻が出て、

          誕生日、未来のエスキース 240805

          生活者になりたい 240802

          時間を見つけて書いていたものが行き場をなくしている。 誕生月で、カレンダーをめくるなり夏の終わりを感じさせる8月が好きだから。 読む専門だったnoteに手を出した事の次第はこんなところで、座礁した船にもまた沖に出る日和や風があるだろうと、日常を綴ってこころを練っていられたら、そう思い立ちました。 これからお示しするのは私的な「生活」です。 落ちた瓦を修繕するためにコーナンで買ったコーキングガン。 買いたてのマキタのスティック掃除機は、充電しただけで放置されている。 弁当

          生活者になりたい 240802