【短編小説】『ピアノ』第一章
きのうは卒業式だった体育館も、いまや閑散としている。
その空間を占めているのは、たとえば、ボールの弾むおとを待っているような静寂。
その静寂のなかに、ひとりの少年と、ひとりの少女が舞台のうえのピアノの前に座っていて、やがて、一緒に音楽を奏ではじめた。
少年の調べは、ある種の完成形に近いような精緻な演奏で、忠実に、音のます目へ感情を書き入れていた。
法則や、必然性。
あまりにも普遍していて、だれも存在を気にしないほど、うつくしく、正しいもの。
それらの一部として、少年の調べは