見出し画像

非線形光学とは SHG/THG

レーザーなど強い光を物質に当てると、そのまま透過するのではなくて物質との相互作用により少し歪みがでます。この歪を詳しく解析すると元の光の2倍であるとか3倍などの周波数を持つ高調波が含まれています。電磁気であればよく知られた現象ですが光においても見られるのです。この2倍の周波数の光を発生されることを第2次高調波発生(SHG)、3倍だとTHGなどと呼び、これを効率よく発生させる物質であるとか方法を研究して光デバイスに役立てようとしていました。類似の現象に電界により屈折率を変える技術などもありますが、原理的にはどれも関連のある事象です。

こんな研究を大学時代にやっていました。このうちSHGに関しては物質に対象性があると互いに打ち消し合ってしまうので金属などの対象性のある物質ではうまく発現せず、もっぱら非対称な物質を作ることが出来る有機材料が使われました。そこで材料となる分子を設計し、これを何とかして結晶化するなどしてデバイスとして使えるような材料に仕立て上げるのがテーマでした。

非線形光学

第二次高調波発生

説明には何だか手におえなさそうな数式もたくさん出てくる世界ですが、実験的には物質にレーザーを当てて、透過光から元の波長を除いた上で、どのくらいの光を出しているのかを測れば良いわけです。

SHG (Second harmonic generation: 第2高調波発生)

SHG光学
https://annex.jsap.or.jp/photonics/kogaku/public/23-01-kougi.pdf

LEDが緑や黄色の波長までしか作ることができず青が出したかった時期にはSHGを使って短い波長を出せるのではないかと、それなりに期待がかかっていました。まだまだ効率よく高調波が出るような物質は作れていなかったので、まず強力な光を使います。一番出力が出るのは炭酸ガスレーザですが、これは波長が長すぎて、この波長で透明な道具が揃えられません。そういうことで1ミクロン程度の波長を持つNd:YAG(ネオジウム・ヤグ)レーザを使っていました。それなりのサイズがあってパソコンであればフルタワーの2~3倍くらいのサイズで、測定機器を載せる防振台には何とか載せられるくらいでした。

これで測るためには材料の結晶が必要になるのですが、有機物の結晶を作ることは思いの外、難しいのです。そこで結晶を作らずに材料となる分子の向きを揃えるために、材料を溶媒に溶かし強い電場を掛けるということをしていました。

鉄板に穴があけられるほどのレーザーと1万ボルト以上の電圧をかけて、溶液は舐めれば死ぬような有毒物質で、構造を調べる時にはX線をバリバリ当てるなんていう何とも危険な実験で、装置もやたら高価なものが多く、実験屋としてはなかなか楽しい毎日でした。

研究室は海外からの留学生や企業から派遣された社会人の院生も多く、大学というよりも研究所めいたところもありました。大学での私の部屋は日本人が他に助手だけで、英語がダメな私なのに部屋で日本語が通じないという過酷な環境でもありました。

あたかもマンガ「動物のお医者さん」で「応電はハワイだ!」という形で登場した、あの研究室っぽいといえば、通じる人には通じるかもしれませんね。緑のメガネもしていましたし秘書さんもいましたし。

動物のお医者さん

まあ分子設計に使ったMO(分子軌道)法と、大型機をバリバリと使った、その計算についてであるとか、光学的な測定のアレコレに多軸ステージを制御するソフトを書いた話など、そんなこと書いてもきっと誰も分かる人はいないような話はいくらでもあるのですが、今は計算機も桁違いの性能になりましたし、装置もビックリするくらいに進歩をしたので、あまり役に立つようなことも無さそうです。

思い起こせば、そのときに「こんなことが出来るかもしれない」「これをこう使ったら便利だよね」と思っていたことが、結構、実現していているのですが、そこまでは実に長い道のりがあったんだよねぇ。凄いなぁとも思うわけです。アイデアを思いつくことはありましたが、それを実現するまで根気よく研究を続ける力って、本当に敬服します。

ヘッダ画像は、以下のものを使わせていただきました。https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Lasers.JPG
彭嘉傑 - 投稿者自身による著作物, CC 表示 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=60733412による

#非線形光学 #SHG #THG #レーザー #動物のお医者さん

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?