「マイセック」パソコンの目指すもの
中学生の頃にパソコンを使いはじめて、最初はプログラミングを覚えたり、ゲームを作ったりプレイしたりしていたのですが、基本的な仕組みがわかってしまったらプログラミング言語自身やハードウェアとのインターフェースを作り始めたわけです。高校生の頃は売られているアプリと呼ばれるソフトを使うようにもなり、文書や印刷物、グラフやグラフィックスを作ることを覚え、OSの仕組みやUIとも呼ばれる人間とのやりとりに興味を持つようになりました。
そうしてコンピュータ自身を覚え使いこなせるようになると「そもそもコンピュータには何をやらせるべきか」ということを考えるようにもなるわけです。昔は大きな部屋の中に鎮座していて、使いたい人はそこに出かけてやって欲しいことをお願いするものであったのが、パソコンの登場でコンピュータを自分の部屋に置いて、使いたい時に使いたいだけ、そのすべてを自由に使えるようになったわけです。そしてコンピュータはさらに小型化が進み持ち歩きどこでも使えるようになる未来はもう見えていましたし、コンピュータはありとあらゆるものに接続されて使われるようになるとは思っていました。もっともいわゆるインターネットのような使い方は、まだ見えていませんでしたが。
さて、その時代の世の中の仕事の仕方がどうなっていたのかというと、コンピュータ(計算機)を使った仕事というのは一部の専門職などで限られた使い方をされているだけで、先人たちの仕事のやり方を見様見真似で肌で覚え、同じ仕事を続けることで、いわゆる一人前となっていくという極めてアナログな世界でした。アメリカではダイナミックな会社の成長のために、どんな人でも短時間で仕事ができるようになるため業務手順のマニュアル化が進められ、日本でもその必要が叫ばれていましたが、そもそも仕事を分析できる人材もなく、一部の外資系を除けばそんな話は「よそ事」感がありました。
当時の仕事は業務に熟練したヒトの「頭の中」で組み立てられるものであり、その中身が文書などで示されていることは滅多に無く、基本的に「お話し」をして情報を交換することが普通でした。そんな「偉い人」はお話しという時間のかかる作業に没頭していたので、それ以外の多くの仕事は社内で分担していた訳です。偉い人は自分で電話を掛けることはしますが、割り込まれる受ける方は電話番という担当者が行いますし、文書を作るのもその為のヒトがいて、偉い人は結果をチェックするだけです。普通に偉い人は大部屋(の端)に居るので、作業の進捗は目の前を眺めればだいたい見えるわけです。
偉い人も「とっても」偉くなるとメンバーが全員揃っている大部屋から自分専用チームだけからなる個室に移動します。そうなると「秘書」と呼ばれる専属の担当者が用意されて、雑用は秘書任せで当人は本来の仕事である「お話し」に専念するわけですね。この秘書の凄いところは偉い人本人とほぼ同じ権限を持っていて、アポをとったり書類を書いたりハンコを除けば当人とほぼ同じことができたことです。
パソコンの普及とともに、この秘書の仕事に相当する作業がほぼ本人でも出来るようになってきました。もちろんこの変化は急なものではなく徐々に進んだので、最初は秘書さんがパソコンを使うという形から始まりました。何せその時代の偉い人はキーボードを打つことも出来ませんしソフトの使い方なんて覚える気すらありません。ですからいわゆるアカウントは本人名義であってもログインするのは秘書さんです。電子メールを送っても、秘書さんがそれを受け取り印刷をして手書きでメモを添えて読んでもらい、返事は口頭で主旨だけ伝えられ、それをそれらしくお化粧した文書を作って返事を送るのも秘書さんの役目です。
こういう形で秘書さんがデジタルな世界とアナログな世界の橋渡しをしていたのですが、今から考えると非効率というか何とも手間のかかることをしていたものです。まあ偉い人が自分でパソコンを操作できれば秘書さんに頼ることも無いわけで、徐々に秘書さんの仕事は減っていき、その名前で担当者が配属されることも少なくなりました。偉い人が自分でパソコンを操作しなければならない世の中になったわけです(そうして紙に印刷することも減りました)。
この狭間の時代に偉い人と秘書さんの両方が同じアカウントで処理をする必要があった時期があったのですが、これが管理上、セキュリティ上なかなかやっかいで、運用上の取り決めで逃げることもありましたが、Exchangeサーバのアカウントには代理というか秘書機能というのがあって、秘書のアカウントで偉い人のメールを読み書きできたりしました。今の大部分の認証システムには、このような代理人機能が用意されていないので、業務上困ることもよくあるんですよね。社会全体で本人認証の厳格化が進んでいますが、いろいろな理由で本人に代わって何かをすることは意外と多く、もう少しこの代理人の仕組みが整備されることが、むしろトラブルが減るようには思います。
結局、秘書に任せるべき仕事も偉い人がやるようになってきていますが、パソコンを上手に操作すること自体は偉いも何もなく、責任ある立場の人は本人以外で出来ることはヒトに任せるのが本来ではあると思います。その意味ではパソコンはもっと秘書さんがやっていたことに近づいて、定型業務や簡易な判断、文書のお化粧などが出来るようになるべきです。パソコンに任せる場合はヒラ社員でも秘書が持てるようになるので、業務の遂行能力も高まろうというものです。
これがパソコンの進むべき道なのかなというのは、40年くらい前には薄々感じていて、勝手にマイコンならぬ「マイセック」と命名だけしていましたが、そこにはまだ今でも到達していない感じです。
もっとも昔の偉い人は秘書への指示の仕方というのを先人から教わってきたわけですが、こういった秘書システムをキチンとマスターしていないとちっとも能率は上がりません。これは思ったよりも難しいもので的確な指示を出して結果をキチンとチェックするのは意外とホネです。だいたい仕事を他人に任せるには的確な指示が必要で、これが出来ないヒトはとても多く、それが理由で昇進できないヒトだって多いわけです。こういうヒトを相手にするにはより「できる」秘書さんになってもらわなければなりません。
生成AIの発展によってマイセック実現はかなり近づいた感じはしていますが、結局のところヒトの方が何が自分の仕事で何が任せられるか、そのための的確で効率的なコミュニケーション能力を身につける必要があることには変わりはないのかもしれません。
ヘッダ画像は、以下のものを使わせていただきました。
https://www.irasutoya.com/2016/12/blog-post_146.html
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