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その日の夕方、
最後の陣痛促進剤を打った。医者は産まれるのは夜中だろうと言っていたそうだ。
 ところがだ…ちょうど夕飯時で看護師達は休憩時間それぞれの家や休憩室に戻り、医者と当番の看護師一人は、急患が入り往診に出掛けて居ない中、歯車が合うように、動き出すから…
 不思議だろう?
 産気づいて十分もしなかった。母は自分で僕の顎を掴んで引っ張り出したんだ。
 そして、叫んだ。何度も…
 「助けて、助けて、助けて‼︎」と
 奥さんの見舞いに来ていた男性が廊下で狂ったように叫ぶ声を聞いて、慌てて事務所に居る女性に伝えてくれたけど、それからどれほどの時間が過ぎたのかは、母も覚えていない。
 紫色のお茶碗ほどの塊…それが僕だった。
 
 あゝ、なんてキレイな夕陽だろう。あんなに赤く染まって!燃え尽きるのを待っているようだ。夕焼けは何故こんなにも美しく、寂しい想いにさせる?…特に秋の夕焼けは…。
 僕はね、秋の夕方に生まれたんだ。
 「パチパチ…」ハサミで首を三重に巻いていたへその緒を切りながら、、医者は未だ息をしようとしない僕を見て、
 「これが原因か?通りで引き込む訳だ。」
説明にもならない、言い訳を放心状態の母とに言った。

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