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 背中まで痛みが広がって、横になっても苦痛で結局、ソファーの下に座って頭をテーブルに付したままで、明け方、人がこれ以上眠りに堕ちる限界まで起きているとね、感情が無くなるんだ。何かを欲する事も諦めてしまう。元々痩せている身体が少ない筋肉まで奪って、40kg だった体重があっという間に31kgまで落ちていた。あの時…暗い部屋で、テレビから明るいわざとらしい笑い声が聴こえて、それがうっとうしくて、腹ただしくて、それでも何か鳴ってないと気が紛れない。
 顔を上に向ける事も出来なくなっていたから、音だけで良かった。
音楽?選ぶ余裕もなかったよ。ただ時をやり過ごすのには、無意味な音、感情が不必要な音を探していた。
 0時、美しい日本語の羅列が心地良かった。ニュースの内容は正直どうでも良かった、覚えちゃいない。

………

 彼らに感謝だね。
 彼らを選んでくれた人達に感謝だよ。
 僕を、僕の心を救ってくれた。
 始めは、
「ん?ショパン‼️
 あゝ、変わった、「エチュード」だなぁ。    

 へー、この時間にクラシック音楽ねぇ…」って…
 そうだね。琴線に触れるって、こういう事なんじゃないかと思うほど、どんどん惹かれて行く。
 まるでカラカラに乾いた土に一滴、一滴堕ちて行くように、夜露に濡れた花びらがゆっくりと開くように僕の僅かに残っていた美しい物への乞う感情が、子供のような好奇心と共に、ムクムク膨れ上がるのを感じたんだ。
 こう思えたんだ
 「もう少し生きたい!」
ってね。
 感動と言う大げさな物じゃないよ。ただ、ただ、この夢物語を眺めていたかった。

 不思議なんだ。
 大学病院で、「筋膜症」と診断されて、治療法と結果を学会で出すことを承諾書に署名すると、精製水、ブロック、ボトックス…いろんな注射を首と背中に6、7か所打ち、電気治療を受けながらリハビリとマッサージをする日々は君の想像とほぼ同じだと思う。
 でも、僕にとってそれらは全然、苦痛ではないんだ。この二年間、今も痛みは有る。通院も続いているけど、それ以上に僕は生きるのが楽しくてたまらない。
 「障害を持って良かった!」なんてキレイごとは言うつもりも、思っちゃい無いけど、僕はこの生き方しか出来ない。
 また、劇場通いも季節限定だけど旅にも出かけるようになったしね。それにもう一つ楽しみが増えた。
 ふふふ!
 陽もすっかり暮れたね。ここら辺も星が見えづらくなってしまった。でも…目を凝らせば見えてくる。
 もし君がまた僕に会いたいと思ってくれたなら、この場所に来ればいい。他にも楽しいことたくさんあるんだからさ!。

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