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被用者保険の適用拡大と国民年金第1号被保険者の実態

今回の財政検証のオプション試算による被用者適用拡大は1つの成果でした。確かに被用者適用拡大は、厚生年金新規加入者に大きなメリットがありますが、結果的に国民年金制度にもメリットがあるようです。

しかし、1つ確認しておきたい点は、これが厚生年金加入者のメリットというよりも、当面の財政上の理由から、つまり収入拡大を目的に発想されたものであり、結果的に加入者にメリットがあると言うことになっていないかという点であります。

そこまで勘繰る必要は、と思われる方も多いでしょうが、
意図が異なれば、当然今後の方向性、あるいは細かい制度設計を進めて行く際に微妙にズレていく可能性が高いと考えます。
また、国民年金制度の運営についてはメリットがあるようですが、加入者ベースで見た場合、残された国民年金第1号被保険者についてどう考えて行ったらいいのでしょうか。
今回の対応、あるいは将来の人数要件の撤廃で終わらせていいのだろうか、1号被保険者自体の状況改善が必要ではないだろうかという点であります。

そもそも国民年金第1号被保険者とは何なのでしょうか。
条文上では、「日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満であって第2号及び第3号のいずれにも該当しないもの」とあります。また、年金機構のホームページのQ&Aでは「日本国内にお住まいの20歳以上60歳未満の自営業者、農業・漁業者、学生および無職の方とその配偶者の方(厚生年金保険や共済組合等に加入しておらず、第3号被保険者でない方)。」と表現されております。

実態やいかに。
厚労省による平成29年国民年金被保険者実態調査によれば、第1号被保険者の内訳は以下のとおりです。

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国民年金は、昭和36年施行当初、それまであった厚生年金に加入していない者に年金制度を適用し「皆年金」としたものであり、たいへん大きい意義がありました。
しかし、時代の変遷から、その構成は大きく変化してきています。

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ましてや、労働者派遣法・非正規労働者の発生以降は、意図的に2号被保険者の適用を外し、その結果、条文どおり第1号となったケースが増加してきております。

みずほ総合研究所作成の次の図表(2020.9.3「国民年金被保険者の現状と課題」)からもそうしたことが窺われるものであり、掲載させていただきます。

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今回の被用者適用拡大は、本来の方向に向かうきっかけにはなるでしょう。
しかし、ここで3点問題点を提起しておきたいと思います。

1つは、今後完全に人数要件を外したとしても請負・個人事業主扱い等でいわゆる被用者に該当しないケース、まさに偽装雇用に当たる場合にはどう対応するかということです。まさに事業主の保険料負担逃れの問題でもあります。

2つ目は、1つ目との絡みで言えば、国保・後期高齢者医療保険・介護第1号については、事業主負担がない形で制度が整備されており、各保険間の格差、いびつな医療・年金体系となり、結果的に給付内容の低下となっています。まだまだ改革の余地は大きいと考えます。

3つ目は、年金に戻れば、第1号被保険者の給付水準をどうするか、という点です。自営業者は蓄えを残し老後の備えをと言うことだったでしょうが、決してそうは言えない厳しい状況です。パート・アルバイトについては蓄えどころではない極めて厳しい状況です。「国民年金実態調査 4.世帯の総所得金額の分布」の図表からも明らかです。
これについては、やはり最低保障年金の創設等も必要だろうと考えられます。

これまで見てきたとおり「第一号被保険者」はまさに意図して作られてきたものと言ってもよいのではないでしょうか。
被用者適用拡大については一定の前進と考えるだけに、これがこれだけの結果で終わる理由にならないよう、より大枠での改革を求めていきたい、と思っております。


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