~マッチ売りの少女の可能性~

むかしむかしの、とても寒い夜のこと。

あたりはもう真っ暗で、しんしんと雪がふる大晦日。

ひとりの少女がカゴいっぱいのマッチを抱えていました。
マッチを売らなければ、家に帰ってもお父さんにぶたれてしまいます。

1日中マッチを売り歩いても、誰も買ってはくれません。
1枚の銅貨を恵んでくれる人もいませんでした。

「マッチはいかがですか。マッチはいかがですか。」

寒さと歩き疲れで、少女は地べたに座り込んで、身を縮めて丸くなりました。

寒くて寒くてたまりません。
でも、少女には家に帰る勇気はありませんでした。

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その時、少女はふと思いつきました。

マッチの火が役に立つかもしれない。

少女はマッチを1本取り出して、シュッとそばの壁でこすりました。

温かくて、明るいロウソクのような火が灯り、少女の手の中で燃えました。

少女はロウソクの灯りを眺めながら、お母さんが歌ってくれた子守唄を思い出しました。

そして、少女は1本、また1本とマッチに火を灯し、子守唄を思い出します。

それからしばらくした時に、何人かの人が少女の前で足を止めていることに気がつきました。

「今の唄をもう1度聴かせてくれないかい?」

知らないうちに少女はマッチの火を見つめながら子守唄を口ずさんでいたようです。

少女は、今度は自分の意思で子守唄を唄います。

立ち止まる人々に映るのは、マッチの灯りに照らされた少女の美しい目や幻想的な姿。
そして、きれいな唄声が響きました。

唄い終わると、黙って1枚の銅貨が差し出されました。
すると、次々に足を止めていた人たちから少女へと銅貨が差し出されます。

皆、自然と笑みが溢れていました。

少女は、数枚の銅貨を握りしめ家路につきました。

明日も街に唄いにいこう。

次の日、少女はお正月を迎えた街へと向かいます。

カゴいっぱいのマッチは、そっと玄関に置いて。

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