「ハイライトと十字架」
壁掛け時計の針が秒を盗む。午後十一時五十八分。オフィスビル八階。真白杳は事務用チェアの背もたれに体を預け、天井のタイル目地を眼で追っていた。壊れた蛇腹のブラインドの間から月の光が僅かに差し込んでいる。真白はデスクトップパソコンのキーボード上に指を乗せたまま、無意識に人差し指の腹で同じキートップを叩き続けていた。画面上には、繰りかえされる『G』の文字があった。時計の秒針が、はめ込まれた硝子の内側で滑らかに廻りつづけた。
窓際の座席には既にマグの底で干涸らびている徳用紅茶のテ