『赤い風船、笑うピエロ』
遊園地の一角で、赤い風船がひとつ、子どもの指先を離れ上空へと向かって昇っていった。
「おかあさん、あれ!」
デニムのつなぎを着た少年は、いまにも泣き出しそうな顔でつま先立ちをし、飛んでいった風船を指差している。西洋風の造りものの城の壁を這うようにして、風船は高く昇っていく。その少年の傍らでピエロの格好をした、太田という男が、なすすべもなく頭上を見上げていた。
パレードの号砲が鳴り響く。指を差していた少年は途端に目を見開き、たったいま正気に戻ったかのように、背筋を伸ばし、