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【今日のトランプ】タントニー

デヴィッド・パーレットが活動の最初期、1977年に作ったトリックテイキングです。なんと日本語ルールが赤桐さんのゲームファームにないので、作者のサイト(英語)を紹介しておきます(そのうち全訳しますね……)。

※パーレットは、ドイツゲーム大賞いわゆるSdJの第1回受賞作『ウサギとハリネズミ(うさぎとかめ かけっこ大レース)』を作ったり、カードゲームの歴史本を書いてたり、一部の業界ではとても有名な人です。

名作です。傑作かと言われると若干躊躇うのですが、歴史に残る一作であることは間違いありません。まずルールを紹介します。


4人の対面ペア戦です。「半ペア」および3人ヴァリアントも上記サイトにありますが省略します。

トランプ52枚で強さは普通です。10はAの次ではありませんし以下略。13枚ずつ配りきり、フォロー義務あり・切札なしでプレイします。ラストトリックを除いては1人3トリックしか取ることができません。トリックの勝者は、実際にそのトリックを誰が取るのかを決めることができます。もちろん3トリック取った人にはそれ以上取らせられません。各トリックの点数は、リードスートの最低ランクです。

(勝った人ではなく)取った人が次にリードし、12トリックが3トリックずつ分配されます。最後の1トリックは普通に勝った人が取りますが、そのカードは手元に戻します。なんでかというと、その1枚と手元の12枚とが次ディールの手札になるからです。

これを4ディール行います。ペア戦なので、ペアにあげたりオポーネントに渡したりする手札/得点札の強さや次トリックのプレイ順など、考慮すべきことは沢山あります。最終ディールだけは次の手札になることを考慮しないので、プレイ感がそれまでとは変わるのも見所です。

絵札のカード点は、J=15、Q=20、K=25、A=30とサイトでは紹介されていますが、私がプレイしたのはJ=11、Q=12、K=13、A=15でした。パーレットは本作に限らずころころルールを変える人で、これ以外にも紹介された時期によって様々なバリエーションがあるようです。私は自分がやったA=15点の配分が僅差を保てて好きですが、試して好みに合うものを採用すればいいかと思います。


最初の1ディール、それも3トリックもやれば、良いゲームであることはすぐに見えてきます。

ローカードに強い意味がある、というのがまず大きい。勝てないトリックでしゃがむだけではなく、相手の得点を下げる役割を果たします。だから手札にそこそこほしいんです。単にノートランプの強い手札で勝ちまくればいいわけではありません。普通のゲームならクレームを宣言できるほど強い手札でも所詮自分には3トリックしか来ないわけで、むしろ相手に強いカードを渡してしまうリスクがある。

だから、6~9あたりのミドルカードも結構使い方を考えます。むしろこっちを捨てたほうがいい場面まであると思います。どのカードにも何かしら使いどころがあるのが、他のゲームとは一線を画しています。

そして、デッキ構築ならぬ手札構築をゲーム中にするのも目を引きます。といっても自分が選んで構築するわけではありませんけど、原理上は2ディール目以降は全員の手札がすべて分かるわけですね。私? 無理に決まってるじゃないですかやだなーハハハ
でも実際、自分のペアやオポーネントの手札をコントロールできるのは重要で、スートを寄せすぎないとか、強いカードをあえてパートナーに渡すとか、ソリッドシーケンスをオポーネントに作らせないとか、そういうことを考える必要があるし、そこまで考えられるのは既存のゲームにはない楽しみです。


これを1977年、今から45年前に作ってるっていうのがすごいことです。今遊んでも革新的です。面白いです。いやトランプゲームの歴史からしたら45年前なんて最近ですけどそれはいいとして。

ひっかかる点を強いて挙げるとすれば――もちろんレビューが言う傑作と名作の境目なんてレビュアーの好みの匙加減ひとつにすぎませんが――これ、手札持ち越しなんですよね。だから前半の微差が後々のディールに効いてくるので、逆転がしづらいという印象を持ちました。強いカードは勝って自分の手元に戻ってくるわけですから、ノートランプで勝てる手札を一度構築してしまうと、そんなに強さが崩れることがありません。

そのせいで、毎トリック気が抜けないし、重い。終わった後しんどいです。もちろん面白かったという満足感が大きいのですが、2回目をすぐ遊びたくなるゲームではないし、だらだら遊べるタイプでもない。そうしたプレイフィールは紛う方なきモダンのそれです。これが良いか悪いかはまた別の話として、気楽に遊べる代物ではないという本作の限界はあります。

私はトリックテイキングのファンとして、このジャンル全般に漂う気軽さを愛するもので、タントニーはそれとは対極に位置する種類の作品です。これがトリックテイキングのなかで一番かと言われるとそうではない、正統派の名作ではあるけど最高とは言い切れない、くらいの気持ちです。私がモダンのパッケージトリテ全般をそこまで好きでないのは、こうしたゲームの重さ、求めるものの違いによるところが大きいです。

それでも面白いことに違いはありません。なかなかこんなゲームはないですし、ルールそのものは簡単なので一度4人で試してみることをおすすめします。

(ところで、これに似てるブルクハルトのパッケージゲームありますよね。あれはこのタントニーからアイデアをほぼ借用したものと考えて差し支えないでしょう。そちらについても思うところは沢山あるのですが、また稿を改めて)

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