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訳し上げと訳し下ろし - 『ルールズ・フォー・ルールズ 増補新版』内容サンプル

たまには柄にもなく宣伝らしいことをしようと思って、今週末(2021年11月20日)のゲームマーケットにて頒布する『ルールズ・フォー・ルールズ』より、新版にて追加した一節をサンプル公開します。ちょっと短めです。
こんな感じのことを事細かに書いてますので、ご興味を持たれた方はぜひ今からでも当日予約通販申込をお待ちしております! もちろん当日分も多少は残すようにしております!

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訳し上げ・訳し下ろし

 処理順を表現したいとき、たとえばこのような書き方をします。

You must finish all actions before drawing a new card from the deck.
山札から新しいカードを1枚引く前に、すべてのアクションを終えなければなりません。

 この日本語訳は直訳で、これで特に問題はありませんが、次のようにも訳せます。

必ずすべてのアクションを終えてから、山札から新しいカードを1枚引きます。

 前者のように日本語の型にはめ込みやすいよう後ろから前に訳すことを「訳し上げ」と呼び、後者のように前から後ろに英語の語順に沿って訳すことを「訳し下ろし」と呼びます。この2文は意味としては等価で、後者の文ではmustを「必ず」と訳しています。これで必須であるニュアンスは出るので、文末を「~なければならない」とする必要は必ずしもありません。
 どちらが優れている、劣っているというものではありませんが、訳し上げのほうがより「外さない」訳を書けて、訳し下ろしのほうがより「自然な」訳を書けます。原文の意味を正確に写しやすいのは訳し上げなので、学校の英語教育では訳し上げをまず教えますし、ある程度文法に慣れないと訳し下ろしはできません。
 一方、訳し下ろしのほうが自然に読めるのは、こちらのほうが原文の認識順と訳文の認識順を揃えられて流れがよくなるからです。分野にもよりますが、英日翻訳者は通常、後者の文を出力するように訓練されています。
 この英文ではfinish all actionsが先にあって、その後にdrawing a new cardが来ています。これは実際の行為の順番がこのとおりであるからで、A before Bは確かに「Bの前にA」という意味ですが、内実としては「Aの後にB」とも読める、ということです。ですから日本文もそれに合わせて「すべてのアクションを終える」の後に「カードを引く」を置くことで、一文の中で行為の認識順が1ステップ戻ってしまうことを防ぎます。英日訳でも日英訳でも使えて、簡単なわりに効果の大きいテクニックなので、使ってみてください。

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