見出し画像

キャッシュレス後進国の逆襲

日本でもようやくキャッシュレス決済が本格的な普及に向けて動きはじめた。
群雄割拠なのか雨後の筍なのか「アンパンマン、新しい○○Payよ!」と言わんばかりに今や巷は○○Payだらけだ。

ジャパニーズキャッシュレスの歴史と今

日本はよくキャッシュレス後進国と言われる。
しかしこれまでキャッシュレス決済やモバイル決済がなかったのかと言うと別にそんなこともなくて、私が以前勤めていた携帯電話メーカーで電子マネー「Edy」(現:楽天Edy)の搭載に携わったのはもう十数年も前のことだったかと思う。決済方式は携帯電話(当時はガラケー)で決済端末にタッチするだけ。最近流行りのQRコード決済よりも遥かに楽で便利だ。

こんなに便利なのに…という気もするが、日本では最もリテラシーが低い層に合わせて社会のあらゆるものが設計されがちな傾向があるし、中国と違って現金が信用できない(偽札問題)といったような社会背景も薄いので、キャッシュレス移行に対するモチベーションが現金至上主義を上回ることはなかった。

しかしスマートフォンの普及という追い風に加えて2020年には東京五輪、2025年には大阪万博といった国際的なイベントが控え、今やキャッシュレス後進国の汚名返上は国としても急務だ。
実現するかどうかはともかくとして、経済産業省のキャッシュレスビジョンによると、2025年までにキャッシュレス決済率40%というやたらアグレッシブな目標が掲げられている。

○○Pay乱立問題に対しても政府主導で規格統一の動きが出てきており、LINE Pay、メルペイ、PayPayを始めとした9つのQRコード決済を取り扱える「JPQR」が8月から開始されることが発表された。
これによってユーザー側の煩雑さはもちろん、店舗側のオペレーション複雑化に歯止めをかけ、更にキャッシュレス普及を加速させる狙いだ。

また競合する事業者間でもキャッシュレス化促進のためのパートナーシップが進み始めており、LINE Payとメルペイの戦略的業務提携発表は記憶に新しい。

中国では多数の○○Payが乱立した後2年ほどの間に多くが淘汰され、圧倒的なユーザー数と資金力を誇るAlipayとWeChat Payの2強が市場を制した。
日本でも現存する○○Payが全て共存できるほどの市場サイズはないだろうし、中国よりも遥かにユーザー数が少ないことを考えると更に短期で取捨選択が進むかもしれない。

これからのモバイル決済

少し話は変わるが、キャッシュレス決済と言えばモバイルSuiCaがとても便利だ。
電車に乗るときにはもちろん、今や買い物にもタクシーに乗る時にだって利用できるし、何よりスマートフォンをタッチするだけで決済できるという手軽なユーザー体験はQRコード決済を圧倒的に上回る。

SuiCaや前述のEdy、他にもWAON、nanacoなど日本発の電子マネーにおける非接触決済(タッチするだけで決済できる機能)ではソニーが開発したFeliCa(NFC Type-F)と呼ばれる近距離無線通信技術が使われている。
しかし他の多くの国ではNFC Type-A/Bという別の規格が主流で、FeliCaが利用されている国はほぼ日本だけという状況だ。

これらの規格は相互に互換性がなく、FeliCaは完全に日本市場お得意のガラパゴス規格となりつつあった。
この状況が一変したのが2016年、iPhone 7/7+がNFC Type-A/Bに加えてFeliCaチップを搭載し、Apple Payを通じてSuiCaをはじめとする日本発の電子マネー達がiPhoneでも利用できるようになった。Androidも2年後の2018年にFeliCaに対応している。
モバイルSuiCaの実現も、メルペイがiDとの連携によって非接触決済を開始できたのも、このプラットフォーマー側のFeliCa対応の恩恵と言える。

日本におけるキャッシュレス決済において今後どのサービスが普及し淘汰されていくのかという動向も気になるが、消費者の立場としては現在主流のQRコード決済からユーザー体験がどこまで便利になっていくのかという観点にも注目して見ていきたいところだ。
そして願わくば、政治的なSomethingや事業者の資金力に関わらず、なるべくユーザーファーストで便利に扱える決済サービスにこそ市場競争を制してほしいものだと思う。


この記事が参加している募集

お金について考える

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?