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島田紳助もいた奇妙な宗教団体

出勤か通学か、不明。とにかく私はどこかへ行くために車を停める場所を探していた。
 大きな横断歩道のある交差点にさしかかる。細いほうの道へ左折。しばらく行くが車を止められそうな場所がみつからない。
 やがて鬱蒼とした樹木に囲まれた建物が見えた。敷地内には1台ぶんのスペースがある。前庭を竹箒で掃除している男性がいるが、私が入って行っても見咎めるでもない。軽く会釈をされた。フレンドリーなので大丈夫だろうと考え、そのスペースに車を止めて出かける。
 ……ところが。これが後で大変な事態に発展する。
 
 (仕事か学校か、昼間何をしていたのか忘れた)
 
 夕方になり、帰ろうとして、車を止めた場所をさがすが、なにしろ初めての場所だったし、地図も持っていなくて、あの建物の名前も覚えていない。ここじゃないか、という交差点を徒歩で曲がろうとすると、腰の曲がった老女が横断しようとしている。
 三角形か、台形のように見えるおかしな横断歩道。老女が渡り始めると交差点に近づいていた車が停止する。私も渡るが、途中で車が動き始め、あやうく接触しかける。
 
 林の中の細い道をずっと行くが、記憶にある建物もないし駐車場もない。自分の車を止めた場所が見つからない。焦り始めたところで、これは1本東側の道だと気づく。
 地図を思い浮かべ、北か南に行ってから西へ行って、あの建物があった道をみつければよい。しばらく北へ向かう。
 予想よりだいぶ歩いたところで、交差する道に出て、そこから西へ行く。
 たぶんこの道だ、と思ったところを左折して南方向へ。そうすれば右側に当該の建物があるはずだ。
 
  だが、うまく見つからず、今度は南から北方向へ同じ道をたどっている。左手の建物を見てゆくが、記憶と一致するものがない。道を間違えたか……と不安になる。
 
 少しして、白っぽい建物と、清潔そうな前庭(黒い土が露出し、周囲の林との境界線には雑草が生えているが、同じ道路沿いの他の建物はもっとひどかった)、清掃している白い服の人たちが見える。たぶんここだ。
 だが、止めたはずの車がない。駐車スペースだと思っていた場所にはチェーンのような柵が取り付けられ、入れなくなっている。さらに肩くらいの高さの立て看板が置いてあり、ここは立入禁止だと書いてある。直感的に、あの駐車スペースをなんらかの理由で封鎖したのだ、とわかる。
 立て看板は、よく見ると二重になっている。裏にもう1つあり、薄緑色のカラーが塗ってある。そこには、「違反したら罰金」というようなことが書いてあるようだ(前の看板が邪魔してよく見えない)。
 
 もしかして、私が車を止めたためにこういうふうにしたのだろうか。それにしては看板が古いのだが。
 
  きっとここに違いないと思いつつ、もっと北のほうに駐車場があるのを見つけ、そっちに移動されたかもしれないと考え、行ってみることにした。
 たくさんの車があるなか、私のは赤なのですぐに見つかるはず、と、赤い車だけを探す。1台みつかったが、ナンバーが違う。
 
  どうしても、自分の車がみつからないので、前庭にいた白装束の人に尋ねてみる。すると、
「それならあちらの入り口から入って中で聞いてみてください」と指差す。
 何か宗教行事のようなことをしているような雰囲気だ。
 
 この時点で、私は息子(高校生ぐらいの年齢)を連れている。最初はいなかったはずだが… 
 
 指示された玄関を入り、丁重にご挨拶をする。だが、車を探しに来たのではなくこの宗教団体を初めて訪問した外部の人、と思われたらしい。客人として、いろいろな説明をされる。

 中庭で、小学生ぐらいの子ども二人が、奇妙な踊りを踊っている。大人たちもなんだか洗脳されたような雰囲気がただよっている。やな雰囲気だな、と思うが、車を取り戻さなくてはならない。
 
 違反駐車をしたことは悪いことなので、あやまらないと……と思うが、いちばん偉い人というか、そういう担当の人に言わないと通じないだろう。誰に話せばよいのか。
 
 本堂らしき場所に、百人近くの人が集まり、床にすわってイスラムの礼拝のようにひれふしている。祭壇には誰かの顔写真がかざってあるようだ。人々のあいだ、ところどころから白い煙というか湯気のようなものが立ち上っている。ひょっとしてこれは、催眠のような効果をもつガスだったりしないか……
 
 パンフレットをもらったり、説明を受けたり、さんざん来訪者扱いされたのち、
「あの方が代表さまです」と声がし、人々のあいだから、白い修行衣を着た色黒の中年男性があらわれる。
 さっそく違反駐車の件を謝罪し、車を返してもらえないか、と相談する。
「それはいいが……」
と、目を光らせた代表は、明らかに何かたくらんでいる。
「そんな悪いことをして、タダで返してください、とはならないよなあ」
 少しヤクザっぽい喋り方に、これは気をつけないと監禁されたり何をされるかわからない、と思う。
 
 終始ほほえみというか、ほくそ笑みのような表情を浮かべえいる代表。隣に息子がいるし、息子に被害が及んではいけない。ここは、要求を飲むしかないだろう。
「もちろん、お詫びの印にいくらかお支払いします」
 いくら払えばいいかを、ちょっと多めに考えて、2,3万円かな、と思う。普通の駐車違反で駐車場のオーナーに支払う罰金がそのくらいだろう。
 
 バッグをさぐるが、お財布には万札が3枚は入っていなかったかもしれない。この前ちょうど使ったところだ。
「足りないかもしれませんので、そうしたら、後ほど……」
 一部払っておいて、連絡先とかも伝えて、逃げないと思わせて……と思い巡らしていると、
「そうだなあ、こんなひどいことをしてくれたんだから、三百万といったところか。イヤとは言わないよなあ」
 三百万、という桁の違う数字を言われ、ショックを受けるが、断れるとも思えず、これを払うメリット・デメリットをフル回転で思考する。
 貯金のうち大部分を奪われるが、払えない金額ではない。でも、こんなことで三百万ぼったくられるのは納得いかない。
「もちろん三百万だよなあ。ぜんぜん高くないようなあ」
 薄ら笑いをうかべて代表が言う。
「今、持ち合わせがないので……」
 どうしたものか、困り果てる。

 そこへ、付き人みたいな人が近づいてきて、代表に耳打ちする。
「とりあえず、いいから」
 代表は立ち上がる。どうやら何か用事ができたようだ。
 
 隣の部屋へ行くと、人がごったがえしている。右奥の入り口から誰かが入ってくるようだ。
「島田紳助さんに、また登場していただくようお願いしたのですが」
 話の内容から、今日行われる催しで登壇する有名人を選んでいたようだ。
 
 紳助さんは、テレビで見たのと同じ顔をしているが、表情がやけにけわしい。眉間にシワがよっている。
「ふざけんなよ。そんなの聞いてないし」
 登壇をお断っている。代表も、他の人達も、それ以上無理に頼み込むことはできないようだ。
 
 私と息子は、その宗教団体の教義を記したパンフレットを渡され、当該の行事に出席させられる。どうも空気があやしい。
 
 いかにもカルトっぽい新興宗教の匂いがぷんぷんする余興や説教や、いろんな催しが進行してゆく。やばそうだな、とは思うが、まだ決定的にやばくはない。ここは適当に調子を合わせておこう、と考える。
 
 途中で周りが一斉に立ち上がったので、目ただないように私も起立する。
 息子はなかなか立ち上がらず、口をおさえて吹き出しそうになっている。滑稽なのはわかるが、笑っちゃいけない、と耳打ちしようとしたとき、
「ちょっとすいません、吐きそうなので」
と、息子が走って部屋を出て行く。
 廊下の向こうが庭になっていて、そこに水道がある。そこで吐いているが、それは笑いをこらえているうちに口のなかにたまった唾液であり、嘔吐ではないことが私にはわかっていた。
 もどってきた息子は、まだ笑いをこらえている。こういうところ、簡単には空気に飲まれない性格だからカルトに引っかかることはないだろう、と少し安心する。
 
 途中で、代表が予定外の余興を要求する。少女に踊りをさせるようだ。小学生ぐらいの、うすちゃいろの縄文人の衣装みたいなものを着た女の子が、ぶすっとふてくされて中庭で踊り始める。すると、ペアと思われる少年も出てきた。アニメの主人公みたいに目がぱっちりした美少年だ。
 
 もしかして、この少年はさっき部屋のなかの人混みのなかで見た青年ではないか、と思う。芸能人ばりの美青年がいたのだ。二十歳ぐらいだったか。少年とは年齢が合わないが。
 たぶん、広告塔として使われれいるモデルかなにかだろう。引っかからないぞ、と気を引き締める。
 
 ……結局、車は取り戻せたのかどうか、わからない。
 途中で夢は終わった。



 
 
 
 


 

 

 


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