性同一性障害

性同一性障害は、『出生時に割り当てられた性別とは異なる性の自己意識を持ち、自らの身体的性別に持続的な違和感を覚える状態』をいう医学的な診断名および状態像。自己意識に一致する性別を求め、時には自らの身体的性別を自己意識のそれに近づけるべく、医療を望むこともある。やや簡潔に『性同一性(心の性)と身体的性別(身体の性、解剖学的性別)が一致しない状態』とも説明される。アメリカ精神医学会のDSM-5では性別違和、WHOのICD-11では性別不合と呼称されるようになった。

性同一性障害のひとは、簡潔にGID当事者(ジーアイディーとうじしゃ)などと呼ばれる。また診断名などとは別に、身体的な性別と性同一性に齟齬のある人を広く捉えトランスジェンダー、そのうち身体的性別を性同一性に合わせようと考える人をトランスセクシャルと呼ぶことがある。なお、体の性の変異に関わる性分化疾患、同性愛など性的指向は、それぞれ性同一性とは別個の概念であり、性同一性障害とは別のものである。また異性装も別の概念であり、性同一性障害となんら関わりのない場合もある。

診断分類である『精神障害の診断と統計マニュアル』(DSM)の2013年の第5版(DSM-5)は、「性同一性障害」ではなく「性別違和」という新しい診断名を用いており、「性同一性障害」は差別に該当する用語として廃止する動きを見せている。ただし日本精神神経学会では診断名としては「性同一性障害」を使用していると報道された。

人は、意識するしないにかかわらず『自身がどのような人間か、社会の中でどのように振るまう存在かという自己の認識(自己同一性、アイデンティティー)』をもって生きており、そのうち特に『自身がどの性別に属するかという感覚、どのような男性や女性、 或いは性別的ありかたを持っているかについての自己の認識』を性同一性(性の同一性、性別のアイデンティティー)という。多数の人々は、身体的性別と齟齬のない性同一性を有するが、自身の身体の性別を認識しながらも、自身の性同一性が一致しない人々もいる。そのなかで著しい苦痛を感じる状態を医学的に性同一性障害と呼ぶ。

過去、性別は身体の形状や、性染色体によって決定される一意的なものと考えられてきた。しかし、先天的に染色体、生殖腺、もしくは解剖学的に性の発達が非定型的である状態にある性分化疾患の症例を研究するうち、性分化疾患の場合、身体の性と性同一性はそれぞれ必ずしも一致しない場合があることがわかった。性同一性障害は、何らかの原因で、生まれつき身体的性別と、性同一性に関わる脳の一部とが、それぞれ一致しない状態で出生したと考えられるようになった。

性同一性障害を抱える者は、身体の性別と性同一性の齟齬に違和感をもったり嫌悪感を覚えながら、生活上のあらゆる状況において身体上の性別に基づいて生活し、また周囲から扱われることを強いられるため、精神的に著しい苦痛を受けることも少なくない。そうした著しい苦痛に対しては、精神医学的な立場からの治療・援助が必要になる場合もあるほか、自身の性同一性に沿った性別での生活や、身体への移行することがある。この性別の移行は容易なものではなく、性別の社会的扱いで混乱に巻き込まれることも多く、法的・公的な扱いとの齟齬もあって、社会生活で不本意な扱いを強いられることもある。

日本では、こうした性同一性障害を抱える人々への治療の効果を高め、社会生活上のさまざまな問題を解消するために、2003年7月16日に性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律を公布、翌年に施行した。この法律により、定められた要件を満たせば、戸籍上の性別を変更できるようになった。日本国外では、多くのヨーロッパ諸国、アメリカやカナダのほとんどの州で、1970年代から1980年代から立法や判例によって性同一性障害者の法的な性別の訂正を認めている。日本を含めこれらの国の法律は、性別適合手術を受けていることを要件の一つにしているが、新たに21世紀になってから立法したイギリスとスペインでは、性別適合手術を受けていることを要件とせずに法的な性別の訂正を認める法律を定めた。

その反面、性分化疾患の当事者支援に付帯する事業等を行う社団法人の代表が『性分化疾患の当事者が異性装者及び性同一性障害者と混同され、医療の場において必要な対応を受けづらい』等と指摘する例もあり、性同一性障害障害などとの異同など性分化疾患への幅広い理解を求める声も上がっている。


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