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ダッシュボードの設計に役立つData / Information / Intelligenceの区分

「ダッシュボードを作る時は文脈が大事」「グラフからインサイトを導けることが重要」とよく言われます。たしかに、単に「先月の売上高」を見せられるよりも、データを見る目的を意識して何らかの比較や推移を軸とした方がずっとわかりやすく、実際の行動に結びつきやすくなります。先ほどの例で言えば他店舗と比較したり、月次で数年間の推移を表すという方法があるでしょう。こうした比較や推移があれば、何らかの施策を取るといった具体的な行動にもつながります。

一方で、この時「A店の先月の売上高が5000万円だった」という情報、「競合他社と比較して下落傾向にある」という情報、「A店で何らかの施策を取るべき」という情報はそれぞれ位相が異なります

私はこの3種類の情報をデータ(Data)、インフォメーション(Information)、インテリジェンス(Intelligence)とそれぞれ分けています

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1つ目はデータ(Data)です。これは最も想像しやすいと思います。「A店の先月の売上高が5000万円だった」「B社株式の昨日の終値は1000円だった」「明日の最高気温は10度」といった具体的なデータです。最も想像しやすい反面、このデータ単独で何らかの示唆に結びつくことは多くありません

ただし現場経験が長く、それぞれのデータに対して相場感がすでについているユーザーは「データだけを教えてくれ、あとは自分で判断するから」と言うことがあります。もはや自分の記憶から比較や推測ができてしまうパターンです。

2つ目はインフォメーション(Information)です。データから導き出せる解釈、あるいは他のデータと比較した際の傾向などを指します。先ほどの例にそれぞれ対応させると「2年間の推移を見ると、売上高は下落傾向にある」「今日の株価はインデックスよりも好調なパフォーマンスで推移した」「今日の最高気温よりも3度低い」といった形です。

たとえば日々の会議におけるプレゼンテーションや新聞・雑誌などの記事で見るのはインフォメーション形式のグラフがほとんどでしょう。グラフの上に一言で解釈が添えられることが多いです。

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出所:東洋経済オンライン『勝ち組の「ユニクロと無印良品」が露呈した弱点』真城 愛弓、2020年1月25日

これは比較的データに近いインフォメーションと言えます。データ=ファーストリテイリングの売上高と営業利益を示し、後の文章では今回の決算発表で判明した「国内ユニクロ事業の停滞」という話題につなげています。

もちろんデータとインフォメーションが常に1対1で対応しているわけではないので、1つのデータから複数の傾向が読み取れたり、逆に複数のデータから1つの結論を導けることもあります。

そこからさらに踏み込んで、対策や次の行動まで織り込むのが3つ目のインテリジェンス(Intelligence)です。先ほどの例であれば「追加で広告を出して売上をテコ入れする」「今のうちにB社株を買い増す」「明日はコートを着ていく」などです。

ここまで来ると、データ以外にも社内のリソース(適切な人材がいるか、資金的な余剰があるかなど)など様々な要因が絡んでくるので、インフォメーションが確実だからといって必ずインテリジェンスが定まるわけではありません。確実に売上高が下落傾向にあっても、そもそも金額が全体と比べて小さいので対応するまでもないケース、追加的に資金を投入する余裕がないので保留の判断が下されるケースなど色々あるでしょう。

ダッシュボードを設計する際には、これらの概念を一緒くたにしないことが重要です。私は何度かダッシュボードの設計・開発をしてきましたが、これらを混同して何だか焦点がよくわからないダッシュボードになったり、無理やりにグラフをインテリジェンスに当てはめようとして大失敗したことがあります。

昔「データはインテリジェンスに結びつくことがすべてや!」とヤンチャしていた頃は、解釈や提案を伝えることを重視しすぎて、肝心のデータがどこにあるのか・どのように見るのかおろそかになっていました。学術論文で言うと、初出のデータが「考察」に出てくるようなものです。まずは「結果」の章で必要なデータをすべて並べ、その上に重ねるような形で考察を展開すべきであったと反省しています。

そこから学んだことは、ダッシュボード開発者が現場のことを熟知している場合、たとえば5年くらい現場で働いた経験があるとか、とにかく現場のニーズが手に取るようにわかる場合を除き、まずは基礎となるデータを取り出しやすい形式にした方がよいこと。

もちろんデータ → インフォメーション → インテリジェンスという流れがシームレスに結びつくようなダッシュボードがあれば理想的ですが、現実的にはそこまで好ましいものはそうそう生まれない。経験的には、ダッシュボード内で「データを見る場所」「インフォメーションを見る場所」「インテリジェンスを見る場所」を分ければ混乱せずに運用できるケースが多かったように思います。

そうすれば、先ほど挙げたような相場感のあるベテランはデータだけ見れば自分でインフォメーション/インテリジェンスを導き出せるでしょうし、まだ現場経験の浅いユーザーもインテリジェンスの事例を見れば「どのようにデータを解釈すればよいか」が学べるのではないかと考えます。

通じるかどうかわかりませんが(さらに混乱させてしまったらごめんなさい)、一連のデータ分析を料理にたとえます。ここでデータとは食材です。分析の内容=食べたい料理に応じて食材を組み替え、分析=調理してインサイト=おいしい食事を得ます。

ここで台所のレイアウトを思い出してください。冷蔵庫にはたくさんの食材が入っていますが、冷蔵庫のほぼ定位置に野菜があり、肉があり、魚があるはずです。たとえば同じニンジンでも複数の料理に使います。カレーと野菜炒めはどちらもニンジンを使いますが、通常ニンジンは冷蔵庫の中1カ所にあります(私の家ではそうなっています。皆さんの家でもそうであることを祈ります)。決して「カレー作りセット」「野菜炒め作りセット」といった形では入っていないはずです。

たとえばインテリジェンスを唯一の切り口としてデータを配置すると、同じデータが複数回出てきたり、それらが微妙に比較軸/操作感の違うものになったりするかもしれません。ダッシュボード開発者がほぼ完璧に現場感覚を把握しており、そのインテリジェンスが相当にわかりやすければそれでもよいのかもしれませんが、そのようなケースではどのようなダッシュボードにすればよいのかもう見えている状態でしょうから、ここでは解説しません(たぶんすでにそれが見えていて、あとは手を動かすだけだぜ! という人はこの文章を読んでいないでしょう)。

まず「データ」がわかりやすいダッシュボードを作れば、それを使うユーザーから「こんな分析できないか」という提案が来ることもあります。まずはデータ=冷蔵庫をきちんと整備し、ユーザーからの提案を手掛かりとして徐々にインフォメーションやインテリジェンスを構築していく、という方法も十分ありだとは思います。

以上、ダッシュボードを作るときに役立つData / Information / Intelligenceの区別を解説しました。これはダッシュボードに限らず、データ分析全般に言えることかもしれません。

ところでこの区分、データ分析の調べ物をしているとちょくちょく行き当たりますが。私は大学の授業(クリエイティブ・ライティングという授業でした)で学んだ記憶がありますが、初出は書籍か何かでしょうか? もし原著をご存知の方がいれば、ぜひ教えてください m(_ _)m

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