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テクノロジーとアートと都市(リンツと東京)

オーストリアのリンツという小さな街に、アルスエレクトロニカという組織があります。界隈の方には説明不要ですが、彼らはアルスエレクトロニカフェスティバルという世界最大規模のメディアアートの祭典を主催する有限合資会社です。フェスティバル以外に、常設ミュージアムであるArs Electronica Center、メディアアートの国際コンペであるPrix Ars Electronica、R&D機能を持つArs Electronia Future Labの大きく4つの事業から成立しています。以下は公式HPのABOUTです。

アルスエレクトロニカは常に、新しいことを探求しています。アート、テクノロジー、サイエンス、いずれに限定することなく、すべてをまたがった分野に注目してきました。現在という時代に対する斬新な、思索に富んだアイデアやデザイン、刺激的なアクティビティ、哲学的な議論、分析的評価…30年間、ここオーストリアのリンツから、アルスエレクトロニカは、常にこの新しい表現領域を追い続けてきました。
また、もうひとつの重要キーワードは、「society (社会)」です。アルスエレクトロニカはその芸術的、科学的ミッションを、いつも社会というキーワードとともに考えてきました。結果としてリンツ市は、従来の伝統文化の維持や観光産業の形成プロセスを超え、文化的・芸術的発展をコアコンピタンスにした都市再生のプロトタイプとして、コミュニティデザインのよいモデルとなっています。

アルスエレクトロニカの真髄は、芸術文化と科学技術の発展を活用し地域社会を再生したことです。詳細な仕組みは鷲尾和彦さんの著書「アルスエレクトロニカの挑戦」に記載されているので要点だけ述べます。1枚目が体系図、2枚目がお金の動きです。

コンペやフェスティバルによって最先端の芸術文化と科学技術を集約することで、リンツ市はメディアアートの世界拠点として認識されるようになりました。また、それらの英知をミュージアムとし貯蔵するとともに知的人材育成に活用しました。さらに、Future Labで新たなソリューションを生み出すための雇用を創出し独自の収益を得ました。リンツ市からの支援資金は予算全体の約3分の1で、残りはアルスエレクトロニカ独自の事業収益(フェスティバルやミュージアムの入場料、Future Labの英知による開発費等)で賄っています。

アルスエレクトロニカの成功の理由は、彼らがアート、テクノロジー、サイエンス、いずれに限定することなく、すべてをまたがった分野に注目する集団であったことであると考えられます。何故ならば、そのような視座に立たなければ集積・実験・貯蔵・応用の流れを1つの会社でやってしまおうという発想になり得ないからです。

ここまでを要約すると、アルスエレクトロニカはアート、テクノロジー、サイエンス、いずれに限定することなく、すべてをまたがった分野に注目する集団が、芸術文化と科学技術の発展を活用し地域社会を再生した事例であると言えます。

日本には、このようなプレイヤーが非常に少ないです。アルスエレクトロニカの4つの部門のうちの1つにあたるような企業や研究機関がそれぞれ独立して存在していることが多いです。もちろん産官学共同研究や市民に対するオープンサイエンスの動きがあり、隣接する要素が手を繋ぎ出しています。研究科や企業単位、あるいは個人単位でも両の手を差し出そうとする意志をひしひしと感じます。あとはその円陣をディレクションする存在の登場を待つだけな気がしています。そこで見つけたのがこの会社です。

六本木ヒルズ虎ノ門ヒルズなどを所有すると同時に、森美術館チームラボボーダレスといった文化施設も備えています。加えて自動運転タクシーサービスの公道営業の実証実験などにも積極的で、六本木アートナイトMedia Ambition Tokyoなどフェス型のイベントも企画しています。ヒルズ街育プロジェクトIgnition Lab MIRAIなど教育やビジネスにもドライブをかけようとしていることがわかります。これらのプロジェクトに接続性を持たせれば、東京のアルスエレクトロニカになりうると考えます。

落合さんがオリパラを控えた今が社会実装ドライブの掛け時と言っていたのは、アルスのフェスティバル部分が超弩級になって1回ポッキリで訪れるチャンスなのでそれまでにこのエコノミクスを回せる準備をしておかないとね、ということだと解釈しました。自分がもう数年早く生まれるなり気がつくなりしていたらたくさん準備できたのだろうけど、今からできることは少ないけれど、オリパラ後の社会でやるべきことに必要な知恵とツールを蓄える1年にしたいというまさかの新年の抱負noteでした。おしまい。



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