旅の途中、旅の終わり

エピローグ

故郷へ向かう夜行バスの中、 人は誰でも安らいだ気持ちになる。 日々、生きるために生きて疲れ果て、 都会の片隅、 家に帰り倒れこむようにして眠りにつく毎日。 誰も我が身のことながら、それら全てが浮世の幻、まやかしのように思えるときがある。 バスの車窓に流れる懐かしい風景。 嘘だったようなまた訪れるであろう忙しくすごした日々。 故郷に待つものは残された自然と家族、友達笑顔で再会できるものばかりがある。

山形の雪深い小さな駅でいつも遅れがちな電車を待つ高校生が必死に携帯電話にしがみついていた。 駅前にある小さな小学校では除雪した小さなスペースで子供たちが野球の試合を楽しんでいた。

「おっちゃん、どっからきたあ?」 一番体の小さな少年がそう聞く。 「写真を撮るからな」 と言いカメラを向け 「東京」 と答えると「うひゃあ」 と大声を上げ、屈託なく満面の笑みを浮かべてい

たちまち仲良くなり、その野球の試合に混ぜてもらった。 結果は4打数3三振1フリニゲ。 小学校6年生というひょろっとした少年に完全に押さえこまれた。 打てなかったのは次第に強くなってきた雪のせいばかりではなかったようだ。 少年たちが帰るころ、 更に雪が強くなっていた。

「明日の朝、 少し時間あるから、またここでやってもいいけど? どうだ?」 と聞

くと少年たちは体を跳ねらせた。翌朝、宿の窓から見える山々や川の風景によこなぐりの吹雪が重なっていた。少年たちは来ることはないと思いながら余った時間に浸り、電車の時間に合わせた宿の送迎バスに乗り込んだ。

案の定、 車窓から見えるグランドの除雪スペースは完全に雪に覆い尽くされていた。 少年たちは当たり前としての暖かな布団に包まれてまだ夢の中であろう。 そう思った。 雪の中、 携帯電話にしがみついている高校生、寒さや雪をものともせず、野球に熱中する少年たち。 ゆっくり流れる時間。 時代の流れで少々変わりつつはあるが失ってはならない風景がそこにある。

K. MIZUNO


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?