家裁は、嫌がる子にここまで面会交流を強要する。「面会交流宗教に取り憑かれた」判例と「歯止めをかけた」判例の詳細

 平成29年3月17日名古屋高裁決定は、家裁の「行き過ぎた面会交流実施」に歯止めをかけた判例として注目されます。

 この判例については、kozakana-sakanako先生が連ツイでご紹介くださっています。

 このnoteでは、この判例の中身をより詳細にご紹介します。

 私がなぜそうしたいと思ったかと言うと、この判例の一審である平成28年9月16日名古屋家裁一宮支部の審判は、家裁の「面会交流原則実施」論の「エグさ」を象徴していると思われたからです。

 私がこの判例を初めて読んだ時は、「ここまで」子が嫌がっているのに、家裁は「そこまでして」面会交流させようとするのか、家裁の面会交流原則実施って「こんなにも」エグいのかー!!、とかなりの衝撃でした。

 要旨や一部抜粋では伝わりきらない、全文を読まないとわからない、「ここまで」「そこまでして」「こんなにも」の実態を、判例全文を入手して読むことは少ないであろう一般の人にも知ってもらいたいと思ったのです。

 若干の感想めいた事も書いてはいますが、基本的に、判例を切り刻んで貼り付けただけの内容なので、すでに判例全文を読んでいる方には特に得るところはないと思います。
 また、全文を載せているわけではないので当然ながらここで漏れている事実もあります。大事なところが抜けているかもしれません。
 もちろん、自分の目で判例全文を読むにしくはありません。その点をあらかじめお断りさせていただきます。

平成28年(ヲ) 385号 面会交流審判に対する即時抗告事件

 本事案は、離婚後に子の監護者と
なった母親に対し、父親に年3回面会させることを命じた平成26年の審判に対して、母親が、「その審判に基づく面会交流を、新たな協議が成立するまで禁止する審判をしてほしい」と求めたものです。

第一審: 平成28年9月16日 名古屋家裁一宮支部
抗告審:平成29年3月17日 名古屋高裁

 一審では、母親の主張は認められず、「年3回の面会交流を命じた平成26年の審判は変更しません」という審判がされました。
 しかし、抗告審では、母親の主張が認められ、平成26年の審判で定められた面会について、「相手方(父親)は新たな協議が成立するか、家裁の審判が確定し又は調停が成立するまでの間、子と面会交流してはならない」という決定がされました。

 本事案の登場人物は3名。判例にしたがって表記します。

申立人=母(子の親権者であり、子と同居し養育にあたっている監護者です)
相手方=父(母子とは別居しており、子との面会交流を求めています)
未成年者=申立人と相手方との間に生まれた子。文中で「C」と表記されることがあります。(平成18年出生。本事案は、子が1歳から11歳頃の出来事です)

申立人と相手方は平成17年に結婚、翌18年に未成年者が誕生。平成19年に調停離婚が成立しています。

1、面会拒否の理由は暴力

 申立人は,産前休暇を取って申立人の実家で生活するようになり,未成年者を出産した後も,そのまま実家で生活していました。
 相手方は、週末などに申立人の実家に赴いて未成年者と面会していましたが、申立人は、相手方による未成年者との面会の求めに応じなくなります。
 理由は相手方の暴力であり、裁判でも事実であると認められました。

相手方は,未成年者の出産に立ち会い,その後,週末などに申立人の実家に赴いて未成年者と面会するなどしていた。そうしたところ,申立人は,同年○月○日の面会時に,相手方が,申立人の手をつかんで振り払い,申立人の頭や顔,肩を叩き,さらに,平成19年○月○日の面会時に口論となって,相手方が授乳中であった申立人の頭を叩いたとして,以後,相手方による未成年者との面会の求めに応じなくなった。
 そして,少なくとも原審申立人が主張する原審相手方による上記暴行は,具体的かつ詳細で迫真性に富む後記ウの審判時の調査報告書(甲38(1))に添付の原審申立人作成にかかる手書きのメモや甲38(14)の陳述書により事実であると認められ,後記ウ,エの審判及び抗告審の決定でも認定されているところであって(甲38(7),(8),(15),(16)),信用性の認められる上記メモ書き及び陳述書によれば,産前産後の原審申立人に対する原審相手方の暴力暴言は,その程度に止まるものではなかったことが認められる。

2、離婚

 相手方は、婚姻中に未成年者との面会を求めて面接交渉(今は面会交流と呼ばれていますが当時はこう呼ばれていました)調停を申し立てましたが、平成19年、申立人と相手方との間で調停離婚が成立します。これに伴い相手方は、面接交渉調停事件の申し立てを取り下げました。

3、離婚後最初の面接交渉調停 (平成18年 未成年者1歳)

 離婚後、相手方は新たな面接交渉調停の申し立てをします。

 調停とは、裁判所内で、調停委員が仲介して当事者の話し合いに基づく合意による解決を図る手続きです。
 当事者が合意に至らなければ調停は不成立となり、審判に移行します。審判では、裁判官が判断を下すことになります。
 申立人と相手方との調停は、すべて審判に移行していると思われ、さらにその全てあるいは大半で、即時抗告がされ、抗告の棄却によって確定しているものと思われます。

3-A 4度の試行面会

裁判所内及び公園で試行面会が計4回行われたが,いずれも未成年者が相手方に触れられると泣き出す状況であった。

 しかし、相手方は,「子が泣くのは仕方がないとして直接的な接触による面会交流をやめるべきではない旨を主張」しました。

3-B 審判

 審判は、相手方の申し立てを却下し、現時点での面会交流を認めませんでした。

当庁裁判官は,平成20年○月○日,相手方の申立てを却下する旨の審判をし,同審判は,抗告棄却によって確定した。同審判は,1歳9か月の未成年者にとって相手方が「不快」の対象となっているのは明らかであり,面会交流の回数を重ねることで未成年者の認識を変えていくことは容易ではない上,相手方において面会の困難さについての具体的な認識が乏しく,現実的な面会の困難性を克服できない可能性が高いとして,現時点では,相手方が未成年者と直接面会することは未成年者の福祉の観点から相当ではなく

しかし、審判はこの後に、次のように述べ、将来の面会交流には含みを持たせました。

未成年者が相当程度成長し,ある程度の自我を確立し,心理的な母子分離が完了する満3歳頃には,改めて面会交流を行うことによって,適切な父子関係が確立される可能性があるが,それまでは,直接的な面会交渉を行うべきではない。

4、離婚後2度目の面接交渉調停 (平成21年 未成年者3歳)

 はたして、未成年者が3歳になると相手方は、離婚後2度目となる面接交渉調停を申し立てます。

4-A 3度の試行面会

平成22年○月○日に当庁内で実施された1回目の試行面会は,相手方から未成年者に話し掛けたり近付いたりしないとの約束で行われた。未成年者には,相手方の存在を意識している様子が見られたものの,相手方に笑顔があまりなかったことにいっそう不安を募らせる態度も見られ,母親である申立人に寄り添っていた。
2回目の試行面会(未成年者と申立人がショッピングセンターで過ごす様子を,相手方が,未成年者に気付かれないようにして,遠方から観察するというもの)を経て,同年○月○日に調査官による未成年者の調査が実施された。同調査において,未成年者は,相手方に会いたくないと繰り返し述べ,その理由については「お父さん恐いから」と答えたが,そのうち会ってもいいかとの問いに対しては,年長さんになったら会ってもよいなどと答えた。
3回目の試行面会がショッピングセンター内で行われ,未成年者は,申立人と相手方と3人で過ごした。未成年者は,双方から話し掛けられて表情が多少ほぐれ,アイスクリーム購入後には笑顔を見せたが,相手方が,反対側の席から未成年者の横の席に移動して話し掛け始めると,自分の椅子を大きくずらして申立人にもたれるなど,次第に相手方を避ける態度を見せるようになり,相手方が絵本を出して一緒に見ようとしても顔を背けたりして明らかに相手方を避けるようになった。しかし,相手方は,未成年者の態度に反応せず,面会を切り上げようとしなかった。

4-B 審判

 裁判所は、相手方の申し立てを却下し、面会交流を認めませんでした。以下がその理由です。

未成年者は言葉のみならず態度でも相手方との面会交流を拒絶する姿勢を示しており,相手方と直接会う形での面会交流は未成年者にとって心理的な負担になっているとして,このような状態で面会交流を続けても相手方に対する悪印象が増幅しかねず,かえって未成年者と相手方との関係の修復を困難にする可能性が高い上,面会の実施中及びその前後の申立人の負担が過大でかえって未成年者の監護状況に悪影響を与えかねないこと,相手方が,未成年者の拒絶的な姿勢を受けても,直接会い続けることによって慣れさせる必要がある旨述べるなど,未成年者に与える心理的負担等に対する相手方の理解が不十分であることから,円滑な面会交流を実施することは困難である。

 太字で示した箇所には、相手方の未成年者の気持ちを意に介さない性格が窺えます。(相手方のこのような性格は後にも度々現れることになります)

5、離婚後3度目の面会交流調停(平成24年 未成年者6歳時)

 相手方は、2年後、申立ての趣旨を「未成年者と間接的な交流をする方法等を定める調停を求める」と変更し、面会交流調停を申し立てます。
  以降,間接交流についての話合いが続けられ,相手方が未成年者に対して手紙やプレゼントを贈るなどしていましたが、相手方が,申立ての趣旨の上記変更を破棄して直接的な面会交流を求めるようになったため,調停をしない措置が採られました。

6、離婚後4度目の面会交流調停(平成25年 未成年者7歳時)

 翌年、相手方はまた面会交流調停を申し立てます。
 試行面会に先立ち、調査官と未成年者との単独面接が行われましたが、「未成年者は,終始言葉を発することなく,調査官が相手方に会えるか質問しても,その都度首を横に振って」いました。このほか、「相手方のことが怖い訳ではない,相手方には嫌な思い出があること,今日は最初から嫌と言おうと思ってきたのではないこと,申立人が会っては駄目というから会わないのではないとの意思表示」をしました。

6-A 1回目の試行面会

 1回目の試行面会(約40分間)が行われた。申立人と未成年者は,予定時間より20分遅れて到着した。同日は,調査官が未成年者に話し掛けても,前記イの調査時同様,言葉は出ず,首を振ったり,うなずいたり,首をかしげるのみであった。
 試行面会開始前に申立人が児童室から退室しようとすると,未成年者は嫌がって離れず,鼻血を出してしまった。
相手方,未成年者及び申立人,調査官の3チームでババ抜き等のトランプゲームをしたところ,未成年者は,笑顔を見せるようになり,相手方と組むよう促された際,恥ずかしそうな表情を見せたものの拒否することはなかった。また,相手方からの話し掛けに対して言葉で答えることはなかったが,申立人に促されてうなずいたりしていた。
 その後,申立人が退室したが,未成年者は,調査官と相手方とともに折り紙等で遊び続け,自ら話し掛けることはなかったものの,相手方からの話し掛けに対し,うなずくなどして反応していた。相手方は,終始穏やかに対応しており,未成年者に話し掛ける際には,子の生活状況に応じた話題を選んでいた。
 面会終了後,相手方は,「おかげさまでいい時間が過ごせました。折紙も一緒にできたし。」と述べ,申立人がいなくなっても泣いたりせずに過ごせた点が進歩した点であるとの感想を述べた。(中略) 調停委員からは,未成年者は今日の試行に緊張しながらも頑張って出て来たのであるから,終了時には「会えてすごく嬉しかったよ。来てくれてありがとう。」という気持ちを直接相手方から伝えた方が良かったのではとの助言がなされたが,相手方はその助言を素直に受け止めている様子であった。

 おそらくこの1回目の試行面会が、相手方の態度に対して肯定的な評価が述べられている唯一の箇所だと思います。

6-B 2回目の試行面会

児童室で2回目の試行面会(約40分間)が行われた。未成年者は,申立人と来庁したものの,「きょうはぜったいあいません。」と記載した手紙を調査官に見せるなどして試行面会を拒否したが,調査官による30分余りの説得を経て,ようやく申立人と同席で短時間という条件での試行面会を承諾した。
1回目の試行面会のようにはしゃいだり,楽しむような様子は見られなかったが,特別不機嫌な様子もなく,少し声が出るようになった面もあった。
 終了後,相手方は,「一進一退という感じです。」と述べ(以下略)

6-C 3回目の試行面会 オセロ事件起こる

児童室で3回目の試行面会(約35分間)が行われた。未成年者は,来庁時,相手方に会いたくないと1階に留まっていたため,調査官が迎えに行って児童室まで案内し,前回よりも短い時間で終わらせると約束して,試行面会が開始された。
2回目の試行で子がオセロで遊んでいると話していたことから,電子版のオセロも持参しており,いずれかで遊びたいと述べた。相手方が入室し,申立人が退室しようとすると,未成年者が申立人に抱きつくなどして激しくぐずったため,申立人,相手方,調査官及び未成年者の4人でトランプゲームやカードゲームをして遊んだ。
 未成年者は,相手方とあまり目を合わせることはなく,落ち着かない様子も見られたが,ゲームの中で嬉しそうな表情を見せることもあった。申立人が退室した後,未成年者と相手方は,上記電子版オセロで対戦したが,途中で調査官が制止したにもかかわらず,相手方が角を次々と取得して圧勝し,未成年者は,相手方からもう一度やるか問われても,首を横に振った。
 調査官が終了の声掛けをしたところ,相手方は未成年者に「Cちゃん,またね。」と声を掛けたが,未成年者は目を合わせず,返事もしなかった。
 試行終了後,申立人は,オセロの場面では未成年者の顔が引きつっており限界と感じたと述べた。他方,相手方は,オセロで真剣勝負できたのはとても嬉しいことで熱中できて良かったと思う旨述べた。調停委員が,相手方に対し,未成年者が悲しそうな表情になったことを伝えた上,未成年者の年齢を考えると対等に真剣勝負をするのではなく,未成年者を勝たせてあげるような工夫や配慮が必要だったのではなどと指摘すると,相手方は,勝ったら駄目なのかとやや腑に落ちない表情を見せた。なお,後に,相手方は,この点について,未成年者が強いと聞いていたので,わざと負けるよりもハンディをつけたり教えたりすることが親子の交流になると考えるし,未成年者もそれを理解してもう一度オセロをやりたがっていたが,調査官に時間だからと止められたなどと主張した。

 この「オセロ事件」は、相手の感情を読み取りながら行動できない相手方の性格がよく現れたエピソードだと思います。
 この事件は、ただでさえ相手方に拒絶的であった未成年者の心に強いしこりを残す出来事となり、後の調査官との面接や審判の中でも持ち出されることになります。
 

6-D 4回目の試行面会(実施されず)

児童室において4回目の試行面会が実施される予定であったが,申立人が未成年者を連れて来なかったため実施できなかった。申立人は,審問期日において,未成年者が「行かないに決まっている」と言っており,連れて来ることができなかったと述べた。
調査面接において,未成年者は,これまでの面会試行でトランプやオセロをしたことについて,調査官から「楽しかった?」と聞かれると首を横に振り,「楽しくなかった?」と聞かれると首を縦に振った。また,相手方と会うことについて聞かれると,「嫌だ。」,「会いたくない。」と答え,その理由を様々な問いかけで聞かれると「お父さんが嫌いだから会いたくないから嫌だ。」,「嫌いだから嫌い。全部嫌い。」,「嫌いだから。会うのが嫌だから。」などと述べた。その間,未成年者の表情はやや沈んでいたが,未成年者の日常生活に話題が移ると,自ら次々と話をして表情も格段に明るくなった。

 なお、申立人は,申立人代理人に対し,この調査面接の日に、未成年者が数年ぶりにおねしょをしたこと,未成年者に調査面接のことを伝えたところ,未成年者の視力が一時的に低下し,医師からは「何か心の問題かな」と言われたこと,未成年者は「お父さんのことなんか頭の中に全くないことだ,気にもしていない」と言う一方で,「Cが頑張れないので,お母さんが困るね」と言って,調査面接のことを気にしている様子であったなどと報告しています。

6-E 相手方の提案

 一方、相手方は、未成年者と会うために、場所や方法で、未成年者の気を引くこと、未成年者の希望に合わせる事を考えていたようです。

 相手方は,審問期日において,①幼稚園の頃行った施行面会(前記(2)エ)において未成年者がアイスクリームを食べて喜んだ表情をしていたことから,例えば,フードコードなどで未成年者が好きなものを飲食し,未成年者が好きなものや学校の話を聞いたり,アイスクリームやジュースなど短時間で飲食できる物を食べながら,絵本を読んだりやおもちゃで遊ぶことを考えていること,②未成年者が好きなおもちゃや本は,幼稚園の頃は飛び出す絵本が好きだと申立人から聞いたが,小学校に上がってからは分からないこと,③未成年者が現在好きなものについて,申立人に協力を求めて確認する方法を取っても構わないが,以前,申立人が教えてくれたことが当たっていないこともあったこと,④未成年者とできるだけ楽しい時間を過ごしたいので場所はどこでも構わなく,事前に未成年者が行きたい場所を教えてくれば,そこへ行くようにしたいと考えていること,⑤ただし,ゆったりとした時間を過ごしたいので,お茶だけ飲んでさっと帰ってしまうのは嫌であることなどを述べた。

 でも、本当に相手方が考えないといけないのは、未成年者の気持ちと、未成年者と会ったときの自らの態度の方だったんですけどね。

7、ついに相手方が年3回の面会交流審判を獲得。

7-A 審判

 オセロ事件が起こり、4回目の試行面会が未成年者の拒否で実施できないなど、未成年者の相手方に対する拒否がピークに達していると思われる中、それまで相手方の面会交流を認めてこなかった家裁が、とうとう年3回の面会交流を命じる審判を出してしまいます。(以下、この審判の事は「平成26年審判」ということにします)

当庁裁判官は,平成26年○月○日付けで,申立人に対し,別紙1記載の主文のとおり,○月,○月及び○月の年3回,未成年者を相手方に面会させることを命ずる審判をした。面会時間は,平成29年○月までは1回2時間で,その後は1回4時間とされている。また,同月までは申立人が同席するものとされている。

7-B 平成26年審判の論理とは

 これほどの子の拒否にもかかわらず、家裁が面会交流を命じた論理とはどのようなものだったのでしょうか。

ア、子の福祉を害するなど面会交流を制限すべき特段の事由がない限り,面会交流を実施していくのが相当

① 一般的に,子と非親権者である親との面会交流は,子が親権者だけでなく非親権者からも愛されていることを知る機会となり,子は,その体験を通じて自尊心を持つことができ,また,親権者と価値観の違う非親権者との交流を通して,親権者だけの意見や感情に巻き込まれずに独自の人格形成をすることができるといわれ,子の健全な成長にとって重要な意義がある。したがって,子の福祉を害するなど面会交流を制限すべき特段の事由がない限り,面会交流を実施していくのが相当である。

 「子の福祉を害するなど面会交流を制限すべき特段の事由がない限り,面会交流を実施していくのが相当」
 これが家裁の基本姿勢であり、家裁は「面会交流原則実施」論を採用していると言われています。そして、その背景には「面会交流には、子の健全な成長にとって重要な意義がある」という思想があります。

イ、未成年者の拒否の意思や心理的負担は、面会交流を制限しなければならないほどの重篤なものとまでは言えない

 ② 未成年者が相手方と会うことを拒否する意思には強固なものがうかがわれる。また,未成年者にとって相手方との面会交流が心理的な負担になっていることが認められる。
 しかしながら,その心理的負担の程度は,面会交流を制限しなければならないほどの重篤なものとまでは言えず,申立人の調停時の提案も考慮すると,面会の実施方法について一定の配慮をすれば,満8歳に達しようとする未成年者のストレス耐性能力ないし環境適応力をもってして十分克服可能な問題というべきである。


 「拒否する意思は強固」「心理的な負担になっている」と認めながら、ここまで拒否レベルmaxでも「面会交流を制限しなければならないほどの重篤なものとまでは言えず」って😓😓😓 6-Eあたりの相手方の提案が考慮されたようですが、わずか8歳の子どもの「ストレス耐性能力ないし環境適応力」あまりにも過大に評価しているように思えてなりません。

ウ、未成年者の拒否的反応は、申立人の影響の可能性

しかも,調査及び試行面会時の未成年者の様子や,本件手続に至るまでの経緯,未成年者の年齢等に鑑みれば,生後まもなくの頃から両親の紛争下に置かれていた未成年者が,申立人が言葉にせずともその気持ちを敏感に感じ取って,意識的ないし無意識的に相手方に拒否的な反応を見せている可能性も否定できない。

 未成年者の拒否がここまで激しいのだから、「可能性を否定できない」レベルではダメだと思うのですが。申立人の影響でなかった場合はどうするんでしょうか。

エ、相手方において未成年者の心身を害するような対応はなく、父子関係を築いていくための努力をしていく姿勢がある

③ 前件審判における3回の試行面会を通して,相手方において未成年者の心身を害するような対応はなかったものといえること,相手方なりに未成年者と父子関係を築いていくための努力をしていく姿勢のあることが認められるから,本件において面会交流を制限すべき事由があるとはいえない。

 問題は、その「相手方なりに」が独りよがりなことであるわけで…。
 オセロ事件のような、未成年者が悲しい表情になってもお構いなし、という態度は、「未成年者の心身を害するような対応」には入らないようです。

オ、相手方と円滑な面会交流を重ね,相手方と継続的にやり取りをすることで,上記拒否反応も徐々に和らいでいく可能性もないとはいえない。

④ 現時点で未成年者は申立人との面会に拒否反応を見せているものの,今後,相手方と円滑な面会交流を重ね,相手方と継続的にやり取りをすることで,上記拒否反応も徐々に和らいでいく可能性もないとはいえず,むしろ,面会交流が有する意義に照らせば,未成年者の中期的な発育にとって本件面会交流を認めることが必要かつ相当である。

「むしろ,面会交流が有する意義に照らせば,未成年者の中期的な発育にとって本件面会交流を認めることが必要かつ相当である」
 どう考えても、未成年者の心に残るのは「こんなに嫌がってる相手との面会を強制された」という「中長期的な発育」にとって有害な心の傷でしょう。

「相手方と円滑な面会交流を重ね,相手方と継続的にやり取りをすることで,上記拒否反応も徐々に和らいでいく可能性もないとはいえず,」
→3-Bの裁判所の判断に相手方が抗告した際、次のような一文があったことが後の抗告審で認定事実に付加されます。

原審相手方は,上記審判に対して即時抗告したが(名古屋高等裁判所平成20年(ラ)第●●●号),平成20年○月○日,同抗告は棄却された。抗告審の決定書では,原審判の認定説示をそのまま引用した上,未成年者にとって原審相手方との面会交流が楽しい時間であれば,たとえ短い時間であっても試行の回を追うごとに原審相手方に懐くと思われるが,4回の試行面会では回を負うごとに逆の反応となっており,原審相手方との面会交流自体が未成年者の負担となっている旨の説示が付加されている。

 この一文は、上記④のような見立ての誤りを示すもので、後の展開を予見させるものとなります。

カ、面会交流を行う上で必要な範囲の信頼関係すら確保されていないとはいえない。

 ⑤申立人は,相手方には,申立人との信頼関係・協力関係の形成が重要であることへの理解がないとして,未成年者の利益に適った面会交流の実現が不可能であると主張するが,確かに,原審相手方は,原審申立人を面会交流に非協力的であると非難し続けており,面会交流を実施していく上で原審申立人との信頼関係・協力関係を築いていく意識に乏しい面が窺われる。しかし,面会交流における信頼関係は,連れ去りの危険がないことや取り決めたルールを守って実施すること,子の前で相手の悪口を言わないことなど,面会交流を行う上で必要な範囲で確保されていれば足り,これまでに実施された試行面会や原審申立人が面会交流の具体的方法を提案していたこと等に照らすと,本件において,面会交流を行う上で必要な範囲の信頼関係すら確保されていないとはいえない。

キ、無理のない回数,時間及び方法から始めて,慣れさせてから,段階的に増やしていく方法によるのが相当


⑥ 相手方は,未成年者の年齢的な特性等を理解する必要があり,未成年者との父子関係の回復を望むのであれば,申立人への批判的言動は,相手方の意図に関係なく間接的に未成年者に影響していくことを避けられないことを念頭において,厳に慎むべきである。相手方には未成年者に心理的負担が生じている現状の受け止めやその背景への理解が乏しいといわなければならず,申立人の態度等と未成年者の現状に鑑みれば,頻繁な面会交流を行っても,かえって未成年者に負担となって父子関係の回復が遠のくことが想像される。面会交流を行うことによって生ずる未成年者の心理的負担というデメリットを最小限に抑えつつ,面会交流を行うメリットを得るには,無理のない回数,時間及び方法から始めて,未成年者に申立人との面会交流に慣れさせてから,未成年者の発達段階にも配慮して,未成年者が小学高学年となる平成29年○月以降,面会交流の時間を段階的に増やしていく方法によるのが相当と考える。

 未成年者が1歳時の離婚後最初の面接交渉調停では(3-B参照)、「面会交流の回数を重ねることで未成年者の認識を変えていくことは容易ではない上,相手方において面会の困難さについての具体的な認識が乏しく,現実的な面会の困難性を克服できない可能性が高い」と述べられていたところ、今回の審判では相手方の理解が乏しいことは変わらないのに、「無理のない回数,時間及び方法から始めて,慣れさせてから,段階的に増やしていく」という方向性に変わってしまいました。

8、度重なる間接強制申し立て

8-A 面会交流行われず

平成26年審判で命じられた年3回の面会交流は、1度も行われることがありませんでした。

申立人は、後の調査官面接で、「未成年者に対し,平成26年○月には前件審判の内容を伝え,同年○月には複数回にわたり面会交流を勧める声掛けをしたが,未成年者は面会を拒んでいたこと,②その後は未成年者の体調不良もあって面会交流を勧めるのを控えていた」と述べています。

8-B 間接強制

 間接強制とは、「約束を守らなかったらペナルティーとしてお金を徴収する」という心理的な圧力を加えて、義務者に審判の内容を履行させようとする手続きのことです。

 相手方は、度重なる間接強制の申し立てを行い、不履行1回ごとに支払う間接強制金の額は12万から始まって、50万円に膨らんでいきます。

相手方は,平成26年○月○日,間接強制を申し立てたところ,当庁裁判官は,平成27年○月○日付けで,申立人に対し,前件審判の定める面会に係る義務の履行を命ずるとともに,不履行1回ごとに12万円の間接強制金を定める旨決定し(平成26年(家ロ)第●●●号),同決定はその後確定した。
 その後,当庁裁判官は,相手方の申立てにより,平成27年○月の不履行を踏まえて間接強制金を不履行1回ごとに24万円に変更する旨決定し(同年○月○日付け。平成27年(家ロ)第●●●号),さらに,同年○月の不履行を踏まえて同じく36万円に変更する旨決定し(同年○月○日付け。平成27年(家ロ)第●●●号),さらに,同年○月の不履行を踏まえて同じく50万円に変更する旨決定した(平成28年○月○日付け。平成27年(家ロ)第●●●号)。上記各変更決定はその後確定している。

 相手方は、さらに間接強制金の再増額を求める申し立てを行いますが、裁判所は、それ以上の増額は否定し、申し立てを却下しました。
 その決定で、次のように述べられていたことが、抗告審で認定事実に付加されます。(これは後の抗告審で相手方自身の首を絞めることになります)


この決定では,末尾の付言として,原審申立人に向けて,未成年者が面会交流を嫌がり履行が困難であるというのであれば,原審申立人において未成年者を強く説得して引渡場所まで連れて行き,その反応を原審相手方に目の当たりにして理解してもらう必要がある旨説示し,他方,原審相手方に向けては,裁判所で決定された事項であるとはいえ,未成年者との面会交流は,監護者の理解を得て行うことが未成年者や当事者双方の心身の安定と利益にもっとも適うから,原審相手方としても,より良い面会交流実現に向けて,原審申立人代理人と十分に協議し,監護親である原審申立人の理解を得るような柔軟な振舞いが求められる旨説示している。その上で,「当裁判所は,いたずらに間接強制の増額の紛争を繰り返すことなく,当事者双方の相互理解の努力の上に,面会交流が実現できるように期待するところである。」と結んでいる。
 しかるに,原審相手方は,この決定に執行抗告し,平成28年○月○日,上記抗告は棄却された(名古屋高等裁判所平成28年(ラ)第●●●号。先に提出された方の甲42)。

 相手方は間接強制の決定に基づき、実際に間接強制金を申立人から徴収する手続きを何度も踏んでいたようで、そのことが未成年者の心身に悪影響及ぼし、母子の生活を圧迫したことが、抗告審でこう述べられています。

原審相手方は,上記各間接強制の決定に基づき,実際に何度も間接強制の手続を踏んでおり,その度に,原審申立人に対し,その所属する●●●や勤務校の校長から電話がかかってくるが(給与等の差押えに関してのことと思われる。),間接強制のことを原審申立人が未成年者には極力隠そうとしても,聡明な未成年者はそのことを鋭く察知し,「嫌がったのは自分なんだ。母親は関係ない。自分のせいだ。」と叫んだり,「絶対にお金は払わせないから。」と言って車の中に立てこもったり,間接強制のお金は自分が支払うと言って,布団の上にお金を並べ「足りない!足りない!」と取り乱したりしたことがある(甲13,41)。
 原審申立人に科せられた間接強制金は,少なくとも平成27年○月から平成28年○月まで累増する5回分の合計172万円にのぼるが,原審申立人は,これらを親族から借りるなどして支払っており,これにより母子の経済生活は逼迫している。」

8-C 申立人の面会交流禁止を求める申し立て。

 申立人は、平成26年審判の定める面会を,新たな協議が成立等するまでの間,禁止することを求める申立てと同趣旨の仮処分を求める審判前の保全処分を申し立てます。

9、平成28年9月16日 名古屋家裁一宮支部審判


 しかし、申立人の主張は認められませんでした。

 平成28年9月16日 名古屋家裁一宮支部は平成26年審判を変更すべき理由は認められないという審判をします。

以上によれば,前件審判の定める面会について,申立人の立会いを認める期間については平成30年○月までに変更するが,その余の点については,前件審判を変更すべき理由は認められない。


 ここからは、各論点ごとに、審理の中で述べられた申立人等の主張と、それに対する裁判所の判断を整理して見ていきます。

9-A 申立人の働きかけに対する一審の判断

ア、申立人は面会交流についてどのような働きかけをしてきたか。

平成27年○月○日,申立人は,調査官の面接において,①未成年者に対し,平成26年○月には前件審判の内容を伝え,同年○月には複数回にわたり面会交流を勧める声掛けをしたが,未成年者は面会を拒んでいたこと,②その後は未成年者の体調不良もあって面会交流を勧めるのを控えていたこと,③同年○月には,未成年者が混乱し過敏に反応している様子であったことから,面会交流は大切であるが,未成年者にとっては逆方向に向いていると思われたこと,④同年○月については面会を無理に勧めることはしなかったこと,⑤申立人は未成年者が幼稚園児の頃,未成年者の父親イメージが良くないと心配し,「お父さんはあなたのことが大事」,「お父さんは怖い人ではない。」等としこりを除く目的で声を掛けるようになり,この頃から,面会交流についても良いものである,子どもの成長を願うものであるという意味の声掛けを未成年者に対して行ってきたこと,⑥申立人は,色々な思いで相手方と離婚したが,それを未成年者に背負わせたくないと思っており,未成年者にとって父親は一人しか居ないので,マイナスイメージがとれるよう気に掛けてきたことなどを述べている。
 平成27年○月○日,申立人は,調査官の面接において,申立人が相手方についてどのような説明をしているか等を確認されたのに対し,①未成年者は申立人と相手方がお見合い結婚であることと,年齢が7歳違うことを知っている,②未成年者の相手方に対する拒否が激しく見せたら破ると思い,申立人と相手方の結婚式の写真や,申立人と相手方が揃って写っている写真を見せたことはない,③未成年者から,何で結婚したのか聞かれたのに対しては,相手方が違う仕事をしていて面白いなという話が聞けたり,美術館に行って色んな話を聞けて面白かった,お話ししていて面白かった等と話した,④離婚の経緯については,相手方は相手方で考えていることがあると思うが,申立人としては,妊娠中具合が悪くなったため,周りの話を聞いて実家に居ることにしたが,仕事に行かなくなった申立人に対して相手方が要望することが増え,申立人が本当に動けなくなっため相手方の要望を聞けず,うまく行かなくなって,赤ちゃんの顔を見たら話し合えると思ったけれど話合いがつかず,離婚することになったとの内容を少しずつ話してきたと,説明した。

 このように申立人は、面会交流に協力的な態度で接していました。

イ、一審の判断

 しかし、一審はそれでは不十分と判断しました。

申立人は,調査官に対し,申立人は未成年者の父親に対するイメージが良くないと心配して声掛けをしてきた旨述べているものの,未成年者に対し,相手方や相手方との婚姻生活について,婚姻していた時の写真を見せたり肯定的な印象を与える具体的な話題を伝えるなどはしておらず(前記1(5)イ,オ),未成年者の相手方に対する印象を改善しようとするにあたって,未成年者が具体的な状況や物事を離れた思考をすることが難しい発達段階であることを踏まえた関わり方が十分できているとは言い難い。

「婚姻していた時の写真を見せたり肯定的な印象を与える具体的な話題を伝えるなどはしておらず」
えー! 裁判所はそこまで求めるのでしょうか😨😨

相手方なりに父子関係を築こうとしているのであって,嫌がらせ目的で面会を求めているとの受取り方は好ましくないことや,申立人も相手方との面会に賛成していることを伝えるなど,相手方を未成年者の父親として尊重する態度を十分示せば,未成年者の相手方に対する消極的感情を和らげることは期待できるというべきである。
 しかるところ,未成年者は,調査官に対し,相手方との面会について申立人の気持ちは分からないが未成年者としては嫌であると述べていることに照らすと,申立人が未成年者に対して面会に前向きな発言をしていたとしても,未成年者は本心からのものと受け取ることができていないことがうかがえる。申立人の,本件面会に係る未成年者に対する働き掛けは,不十分なものにとどまっているとみざるを得ない。

 一審は、後記9-Cのアの未成年者に対する面接のこの部分に反応しています。

調査官が「会いたいっていうことは,大事だよって言う気持ちで一緒に過ごしたり,かわいがってあげたいということじゃないかなあ。」と尋ねると,未成年者は,「絶対に違う。」,「ただの嫌がらせ。」と述べた。

 調査官が「ママは,Cちゃんとパパが会った方が良いよって言っているかな。」と尋ねると,未成年者は「分かんない。」と述べた。調査官が「ママは,Cちゃんとパパが会った方がいいと思っているかなあ。」と尋ねると,未成年者は「それは,分からん。」と答えた。

 そして、「嫌がらせ目的で面会を求めているとの受取り方は好ましくないことや、申立人も相手方との面会に賛成していることを十分に伝えていないじゃないか」と言ってるわけです。

 もう「揚げ足取り」ですよね。家裁は同居親に未成年者の「誤解」を徹底的に正し、申立人の「面会交流に賛成」の意思を未成年者に徹底的に認識させることまでしないと「十分」とは認めないのでしょうか(しかも、10歳の子どもが、調査官面接で親の認識や発言の趣旨と違うこと言ってたらアウトなんて)。

 もし申立人があまりにも強く何度も、「嫌がらせ目的じゃない」「ママは面会交流に賛成」と諭したら、逆に子の感じ方を否定し、面会交流をしたくない子どもに親の意思を押し付けることになってしまい、子どもの気持ちに寄り添うことが不可能になってしまい、子が「自分の味方は誰もいない」と心を閉ざし、大人不信になる危険もあると思います。

9-B 専門家の意見書等に対する一審の判断

 ア、専門家の意見書

臨床心理学を研究分野とする大学教授であって調査官の経歴を有するDは,申立人からの依頼を受け,平成27年○月○日に未成年者と面接し,さらに過去の記録(具体的には甲38)を検討するなどして,同年○月○日付けで意見書(以下「D意見書」という。)を作成した。D意見書は,本件の面会は,子の福祉には叶わないものであり,未成年者の強い希望である「面会交流を止めて」という願いを実現することが,子の利益のためには最優先されるべきであり,また,このままの状態で面会を実施すれば,未成年者と相手方との親子関係を将来にわたって修復不可能な状態にまで悪化させて,相手方のためにもならないと言えるとの意見を述べている。
 また,乳幼児精神医学を研究分野とするE教授は,Dから提供を受けた資料を検討し,同月○日付けで診断書を作成した(甲35。以下「E診断書」という。)。同教授は,未成年者の診察はしていない。
 E診断書は,未成年者がじんましんなど身体によるストレス反応を起こしており,いじめなどで見られる身体反応と同じ状態であって,未成年者の思いに反して同じことが繰り返されれば,抑うつ反応などの精神症状に移行することが多く認められ,さらに悪化すれば自傷行為,自殺などへ進む可能性もあるとして,現時点での治療は環境の調整で面会の強要を止めることであり,それができなければ進行する可能性が大きいと考えざるを得ないとの意見を述べている。

(なお、これとは別に相手方が提出した臨床心理士Fの意見書があります。F意見書は、D意見書、E診断書に否定的な意見を述べています)

イ、面会交流が未成年者の心理的負担となっていること

申立人は,D意見書及びE診断書を引用し,①面会交流の強要によって,未成年者が強い心理的負荷を受け,ストレス反応状態にあり,さらに同じことが繰り返されれば,未成年者について抑うつ反応などの精神症状へ移行し,さらに悪化することで自傷行為,自殺などへ進む可能性があること,②未成年者の面会拒否のために申立人が困っていることが未成年者の苦痛に通じるとともに,未成年者はそのために申立人の愛情も失ってしまうのではないかという強い恐怖も感じていることや,未成年者が自分を悪者にして理解せざるを得ない過酷な状況に陥っており,健康な自己肯定感の醸成を阻害する状態であること,③未成年者には,面会交流に関わるできごとを逐一チェックしようとする態度や,退行,駄々こね,身体症状がみられるため,申立人は未成年者を受け止めるのに多大なエネルギーを要するものになっており,就労に具体的な影響が生じ始めるなど,未成年者の生活基盤が脅かされる状態であることから,未成年者の面会交流を拒否する意向に照らせば前件審判の定める面会を禁止すべきと主張する。

ウ、一審の判断

 しかし、一審は、面会交流のあと、未成年者の学校生活で変化が見られなかったこと(後記9-Cのア参照)をあげ、申立人が父親である相手方を尊重する態度で働きかけることによって負担の軽減が期待できるとしました。

 未成年者にとって相手方との面会交流が心理的な負担になっているものと認められる。
 しかし,前件審判後現在までの間において,前件審判の定める各面会時期や本件手続における調査官面接直後も含めて,未成年者が学校生活において精神的不安定や身体症状を生じたことは確認されていないこと等に照らせば,未成年者の心理的な負担やそれによる身体的不調等が,日常生活に影響を及ぼすほど重大なものになっているとは考え難い(申立人は,学校や習い事が面会交流を巡る苦悩から解放されて過ごせる場であるとみるべきであると指摘するが,上記評価と矛盾するものではない。)。しかも,申立人が,未成年者に対し,相手方を未成年者の父親として尊重する態度を示して働き掛けることで,未成年者の相手方に対する拒否的感情が和らげば,未成年者の心理的な負担は現状よりある程度軽減され,それに伴い,未成年者を監護する申立人の負担もある程度軽減されることが期待できる。したがって,申立人の主張やD意見書,E診断書を踏まえても,前件審判の定めたとおり,面会日を長期休み中に限って申立人同席の下で短時間の面会から始めるようにすれば,未成年者が面会について感じる心理的な負担はなお,未成年者のストレス耐性能力ないし環境適応能力によって十分克服可能な程度にとどまると評価するのが相当である。

 面会交流に対する心理的負担を生み出している未成年者が相手方を強く嫌悪する気持ちは、相手方の態度が変わることにより、未成年者の相手方を見る目が変わらなければ、どうにもならないはずです。
 なのに、一審は、申立人の働きかけでどうにかなるように転化してて、あまりに楽観的、無責任であるように思います。

9-C 子が面会交流を強く拒否していることについての一審の判断

ア、面接で子は何を語ったか

(ア)Dが未成年者及び申立人から聴取した結果は次のとおりである。未成年者からの聴取は申立人同席でなされ,申立人からの聴取は単独でなされた(なお,Dが,申立人からの依頼を受けて作成したという経緯を踏まえても,聴取結果を記録した部分について,信用性を疑うべき事情は見当たらない。)。
未成年者は,相手方が会いたいと言ったら,という問いに,「拒否する」と答えた。その理由は「ママがいいから」と「(相手方が)怖い」からだとし,怖い理由は「普段一緒に居ない」ことと「ママしか信用しない」,「大人は信用できない」と述べた。怖いと思ったのは「(面会交流で)会ったとき。会ってみて分かった」と言葉をかみしめるように話した。続けて「嫌いなこと。信用できないから」と述べた。嫌いなところは,「(相手方の)大人げなさ」で,それは試行面会の際に実父がオセロを「本気でやった」ことだと述べた。「ママはオセロで譲ってくれたけど,(相手方の)ああいうことは良くないよ。」とも述べた。最後に,「(相手方に次の)5つを伝えて欲しい」といい,「①ママがいい,②ママに優しくして欲しい」,「③(相手方は)自分のことばかり言わないで,④裁判所の先生のお話を聴きなさい,⑤いろんな人のお話を聞いて,もうこのこと(面会交流)は終わりにして」と話した。
面接調査の様子は次のとおりである。
 (ア) 単独面接開始後しばらくは日常生活について会話をし,15分が経過したところで,調査官が,「お父さんのことを教えて。」というと,未成年者は父がいることや面会したことを否定する発言をした。その後,調査官が,前件審判に係る面会を話題にすると,未成年者は調査官の言葉が終わらないうちに,「無理無理ー。年に0回にしてー。」と語尾を延ばして述べた。調査官が「大事なお話だからね。きちんと話そう。」と言って理由等を聞いたが,未成年者は無理という結論を述べるのみであった。未成年者は「何で会わないとあかんかはママから聞いたけどね。」と述べたことから,調査官が内容を聞くと,「一つ目は,他の人にもCをかわいがってもらうため」と言って,他は忘れたとのことであった。調査官が,申立人にそう言われてどう思ったかを尋ねると,未成年者は「そんなことしなくていい。」と述べた。
 (イ) その後,調査官が,相手方と会ってみてもいいんじゃないかなと言うと,未成年者は横を向いて「だめ。よくない。」と述べ,つぶやくように「かゆくなる,かゆくなる,絶対に嫌。」と述べた。調査官が,相手方は未成年者に嫌なことはしないよねと尋ねると,未成年者は,小さいとき,無理矢理申立人から離そうとしたり,思い切り未成年者の手を掴んできたと述べ,申立人から聞いたからそう思うとのことであった。
 (ウ) 調査官が,申立人が未成年者のこと大事に思ってくれてるねと言うと,未成年者はうなずいたが,調査官が,相手方も大事に思ってくれていると思うよと言うと,未成年者は「そんなことない。」と述べて,さらに,調査官が「会いたいっていうことは,大事だよって言う気持ちで一緒に過ごしたり,かわいがってあげたいということじゃないかなあ。」と尋ねると,未成年者は,「絶対に違う。」,「ただの嫌がらせ。」と述べた。調査官が「嫌がらせは,嫌いな相手にするんじゃないのかなあ。」と言うと,「そうじゃない。絶対,嫌がらせ。」と述べた。調査官が,「もし,パパがCちゃんのことが大好きだって分かったら,会っても良いの。」と尋ねると,未成年者は「会わない。」と述べた。調査官が「パパに会うことに馴れていないから嫌なのかなあ。」と尋ねると「違う。」と述べた。
 (エ) 調査官が「ママは,Cちゃんとパパが会った方が良いよって言っているかな。」と尋ねると,未成年者は「分かんない。」と述べた。調査官が「ママは,Cちゃんとパパが会った方がいいと思っているかなあ。」と尋ねると,未成年者は「それは,分からん。」と答えた。調査官が「Cちゃんとパパが会うことについてママの気持ちは分からないけれど,Cちゃんは嫌なんだね。」と尋ねると,未成年者は「うん。」と述べた。「ママがパパのお話をしてくれたのはいつかな。」と尋ねると,未成年者は「昨日。」と述べた。「Cちゃんがパパに会いたくないって言った時,ママは?」と尋ねると,未成年者は「そんなの覚えていない。」と述べた。
 (オ) 単独面接開始後40分経過した時点で,未成年者が,申立人を呼んでこようと言って児童室を出て申立人の居る待合室に移動したため,単独面接は一時中断された。その後,単独面接が再開され,面会交流を題材とした絵本を未成年者に渡して話がされたものの,10分後に未成年者が再度児童室を出たことから,単独面接を打ち切った。
ク 調査官が,平成27年○月○日,未成年者の通学先小学校を訪問調査した結果,①未成年者が年齢相当の理解力と自己表現力を有していること,②未成年者は,同年○月から調査日まで欠席,遅刻,早退はないこと,学習面・生活面のいずれも問題はなく,安定した学校生活を送っており,学校が把握する限り,前件審判確定後も含めて,未成年者が学校で精神的に不安定になったり身体症状を示したことはないこと,③前記カの調査直後である同月○日及び○日の未成年者の様子は,授業内外を含めて普段と変わらなかったことが確認された。

イ、一審の判断

 これに対する一審の判断は、まず、
「オセロ事件以外、相手方が嫌な理由について具体的に語っていないよね」「それだって申立人との対比で述べているよね」「大人は申立人しか信用しないと言っているし、申立人を強く意識してるよね」というようなことを言います。

③未成年者は,Dに対し,相手方がオセロで本気を出したことが,未成年者に譲ってくれる申立人と異なり大人げない態度であると述べている。以上によれば,未成年者が,相手方に対して消極的な印象を強める一因として,過去の面会において未成年者が感じた本件相手方への印象があることは否定し難い。
 他方で,未成年者は,Dとの面接においても,面会を拒否する理由や相手方に対する消極的な感情の理由を聞かれたのに対し,上記③以外は具体的に述べておらず,その代わりに申立人に対する積極的な感情を繰り返しており,オセロに係る発言も申立人と対比して批評するような表現であったり,大人は申立人以外信用できないとも述べるなど,申立人を強く意識した発言がみられる。調査官による単独面接において調査官が面会を拒否する理由や相手方に対する消極的な感情の理由を繰り返し確認しても具体的に述べていないこと,

 そして、過去の試行面接時の、未成年者が笑顔を見せた場面、拒否する様子がなかった場面、申立人の様子をうかがう場面のみを抜き出して、「申立人の相手方に対する恐怖心や面会に対する消極的な感情の影響により,意識的ないし無意識的に相手方に拒否的な反応を見せていることもうかがえる」、としています。

加えて、前件審判の指摘した事情(前件審判における試行において,オセロで悲しそうな表情をした場面を除けば,未成年者が相手方に対して拒否的な態度を示したことはなく,むしろ,笑顔を見せる場面があったり,相手方と一緒に絵本を読んだり,相手方からの話し掛けに対しても拒否することなく反応していたことが認められること,未成年者が相手方から絵本をもらい受ける際に相手方の反応をうかがう様子があったこと,前件審判に至るまでの経過,未成年者が同性の監護親である申立人からの影響を受けやすい年齢にあること)に鑑みれば,未成年者が,本件面会のことを考える時は,申立人の相手方に対する恐怖心(前記1(4)イ,オ)等や前件審判に基づく面会に対する消極的な感情の影響により,意識的ないし無意識的に相手方に拒否的な反応を見せていることもうかがえる。


 しかし、「未成年者が相手方に対して拒否的な態度を示したことはなく,むしろ,笑顔を見せる場面があったり…」というところはひどいですね。
 4-Aや、6-Aから6-Cを読めば、上記のような解釈はねじ曲げだと思います。(「30分余りの説得を経て,ようやく申立人と同席で短時間という条件での試行面会を承諾した」「前回よりも短い時間で終わらせると約束して,試行面会が開始された」「楽しむような様子は見られなかったが,特別不機嫌な様子もなく」という記載があります。時折笑顔を見せたり、ゲームの最中、あからさまに相手方を拒絶する態度を示さなかったと言っても、「嫌なのを我慢して付き合っていた」という程度に過ぎないでしょう)

 そのうえで、審判は続けて、「未成年者は,相手方が申立人を攻撃するため面会交流を請求していると認識してるけど、相手方が面会交流を請求するのは未成年者を愛しているからだよね」みたいなことを言っています。


未成年者が調査官に対し,相手方は嫌がらせで面会を求めていると述べていること,申立人がDに対し,未成年者は心から会いたいとか可愛いとは思っていないと感じて嫌っていると思う旨述べていること,未成年者がDに対し,相手方に,申立人が良く,申立人に優しくして欲しいと伝えて欲しいと述べていることに鑑みれば,未成年者は,相手方が申立人を攻撃するため面会交流を請求していると認識しており,そのために面会への拒否的感情を強めているものと認められる。
 しかし,前件審判に係る試行面会において,相手方は,未成年者が喜ぶのではないかと考えて絵本,ゲーム等を用意しており,審問期日においても今後の交流態様を相手方なりに考えつつ,それに関して申立人からの提案があれば受け入れる旨の姿勢を示す発言をしていたものと認められ,しかも,一件記録をみても,相手方に未成年者に対する愛情が欠けることを示すような事情は見当たらない。本手続等において,相手方が申立人及び申立人代理人(前記1(4)エ参照)を非難するのも面会に関するものに限られていることに鑑みれば,相手方が申立人に対して批判的な主張をしたり,間接強制手続(同手続は,金銭的制裁の告知によって,債務者に心理的,経済的に圧力を加えるものであるとの性質上,申立人に対する攻撃的側面を有すること自体は否定できない。)を取っているのも,それが未成年者との面会の実現,ひいては未成年者との父子関係の改善につながると考えているからであって,申立人に対する攻撃自体が目的であるとは認め難い(ただし,前件審判が指摘したとおり,未成年者の年齢的な特性等からは,相手方の,申立人への批判的言動が間接的に未成年者に影響していくこと自体はやむを得ない。相手方も,申立人に対する批判的言動等が,実際に未成年者との父子関係の改善につながっているのかどうか,再度慎重に考慮すべきである。)。

 審判は、申立人が懸命に未成年者の「誤解」を解き、未成年者が、相手方が面会交流を請求するのは攻撃目的ではなくて自分を愛しているからだと理解できれば拒否は和らぎ、心理的負担は軽減されるという論理で、子が拒否していることや、心理的負担になっている問題をクリアしようとしていることがうかがえます。


9-D、相手方の採用されなかった主張

相手方は次のような強硬な主張をしていたようです。しかしこれらはいずれも採用されませんでした。


・生後間もなくから母親に絶縁された父子関係の回復には,26年審判より頻繁な面会が心理学的にも必要
・学校行事への参加を認めよ
・面会交流違反に対する制裁として,親権者ないし監護者の変更を実施条件に加えることが必要


ウ 相手方は,学校行事への参加を認める旨の変更審判を求める旨主張している。しかし,未成年者が相手方との面会について心理的負担を感じている現状では,相手方の学校行事への参加が,未成年者の学校生活にまで影響を及ぼすことが懸念され,現時点では相手方の学校行事への参加が父子関係の改善を遠ざけるおそれが強い。したがって,相手方の主張は採用できない。
   エ 相手方は,面会交流違反に対する制裁として,親権者ないし監護者の変更を実施条件に加えることが必要であるとも主張する。しかし,親権者等の変更の要否は,面会交流への姿勢のみならず,親権者等による監護状況,非親権者等の監護態勢,各自の子との親和性,親権と監護権を分離して定めた場合に予想される弊害の程度等を,その時点の状況に即して検討した上で判断されるべきものである。面会条件の中で,親権者等の変更に係る枠組みまで定めるのは困難かつ不相当であって,かかる主張は採用できない。

 26年審判や一審は、「面会交流は子の健全な成長にとって良いことだ」という思想のもとで、何とか面会交流を実現させようとする家裁の「面会交流宗教に取り付かれた審判」の最たるものだと思います。

 審判には、申立人、相手方双方が即時抗告し、抗告審に移ることになりました。

10、審判後の状況

10-A 審判後の面会交流

 一審の後、申立人と代理人は、未成年者を「全力で説得して」面会交流に臨みましたが、痛ましい結果となりました。
 抗告審では、その様子が次のように述べられています。


原審申立人は,これまで未成年者に面会交流を働きかけるだけで心情が不安定となり,発疹が生じるなどの身体症状を呈する経験から,依然として面会交流には消極的であったが,前記のとおり,間接強制の各決定において,原審申立人が未成年者を引渡場所に連れて行ってすらいないことを再三指摘され,現実に面会交流をさせて身体症状が出たら医師を受診させればよいといった示唆もなされていることを踏まえ,代理人とも協議の上,未成年者を全力で説得して同年○月○日の面会交流に臨んだ。
 未成年者は,面会交流に向かう途中で,「頭が痛い。気持ち悪い。」と訴え,泣き出したりし,面会交流場所近くの駐車場に到着しても,車から降りようとせず,降りた後にも態度や行動で抵抗したため,決められた時間に約10分遅刻した。
未成年者は,原審相手方に対し,拒否的な態度を終始貫き,フードコートの席についてアイスクリームを一緒に食べることになっても,原審相手方と口をきこうとせずに席を離れて居なくなり,双方で探し回るところとなった。原審相手方が未成年者を見つけ,元の席に戻るよう声をかけて上腕をつまんだところ,未成年者は泣き出した。その後,原審相手方と未成年者は,元の席で15分ほど向かい合ったが,未成年者は,アイスを食べ続けるのみで声を発することはなく,原審相手方は,「Cちゃん,お父さんにご挨拶は?」,「できないの?」,「学校で習ってないの?」などと詰問口調で話しかけたので,未成年者は押し黙ったまま泣き,やがて「トイレ」と言って席を離れ,またもや居なくなった。未成年者は,トイレ内に籠って,面会交流が終わるまでここにいる旨を泣きながら訴えたので,原審申立人は,これ以上の継続は無理だと判断し,原審相手方に対し,面会交流の終了を申し入れ,挨拶をして帰宅した。


これが、「チルドレンファースト」でしょうか!

10-B 面会交流後の状態

帰宅後,感想を聞いた原審申立人に対し,「前代未聞だ。」,「会ったこともない変な人だ。私の周りにはあんなのはいない。」,「気持悪い。腕をもみもみした。」などと述べた。また,両手足の甲に湿疹ができ,痒みからなかなか寝付かれず,就寝後もうなされ,目が覚めては泣き,翌○日の朝には37.9度の発熱も生じた。食欲もなく,朝食は食べられなかったが,解熱したので登校はしたものの,下校後,のどの痛みを訴え,依然,両手足の甲の痒みからボリボリ掻くので,かかりつけの小児科医を受診し,痰などの薬や湿疹の塗り薬の処方を受けた(甲43,44)。
 未成年者は,同月○日の後も食欲がなく,就寝中うなされることが続いた。

10-C、面会後の診断書

E医師は,同月○日の面会交流の状況を聞いた上,1時間ほど未成年者を診察し,診断書(甲45。以下「E診断書2」という。)を作成した。
 E診断書2(甲45)には,「診断名」として「ストレス反応・退行状態」と記載され,「附記」として「1.拒否する能力は育ってきている。2.しかし,意に反することが行われることで,自律神経を巻き込んだ反応を起こし,身体症状を引き起こしている。3.それに対して,抱っこ要求等退行反応を起こすことで身を守ろうとする反応を起こした状態である。4.自分を守ってもらえない体験を繰り返すことになっていて,この影響がこの後に一番心配される。5.夢では,まだうまくいかない体験にとどめることができているが,それでも悪夢で眠りを中断されている。6.このまま,自分の意思が尊重されない体験を繰り返すことは社会に対する不信感を増大させていくと考えられる。その結果が,身体反応になるのか,情緒的反応になるのかはわからないが,より大きな反応を起こす可能性が大きくて,精神保健的には,明らかに危険な状況である。」と記載されている。

10-D 相手方の身勝手さここに極まる

原審申立人と同代理人は,原審相手方と未成年者が何とか円滑に会話できるように双方に促すなどしたが,原審相手方は,久々の面会に際しても,未成年者に対し直接声をかけることはなく,話しかけを促した原審申立人代理人に対して反発し,長い間面会交流がなされなかったとの不満をぶつけた。
原審相手方は,平成28年○月○日,その前日にもうけられた場における状況は,未成年者を引き渡したとはいえない状態であり,時間が守られない,挨拶や会話がない,未成年者の同席が1~2分しかないなど,面会交流が実現したとはいえない状況であったので,予備日に面会交流をやり直してもらいたい,として,名古屋家庭裁判所一宮支部に履行勧告の申立てを行った(甲46)。
なお,原審相手方が当審において提出した「上申書7」において,10年にも及び父子関係断絶をさせた末,挨拶させない,会話させない,1~2分しか同席させないといった原審申立人の態度は,面会交流がさも困難であるかの演出であって誠意を欠くものであること,父親と挨拶も会話もしようとしない子の対応は,しつけの問題であり,原審申立人の監護親としての適性を疑うものであること等,縷々原審申立人を非難する内容の記載がなされている。

11、抗告審 平成29年3月17日 名古屋高裁決定

 抗告審は、審判を次のように変更する決定をしました。

原審相手方は,未成年者との面会交流につき,原審申立人との間でこれを許す新たな協議が成立するか,これを許す家庭裁判所の審判が確定し又は調停が成立するまでの間,未成年者と面会交流してはならない。
  


以下が、その根拠となりました。

11-A 未成年者の拒否意思は面会を重ねるたび強固に

現実の問題として,従前から通算して10回にわたる試行面会を経ても,未成年者の原審相手方に対する拒否的態度が緩解することはなかったものである上,その後も,未成年者の原審相手方に対する拒否的態度はより一層強固なものとなっており,原審申立人が未成年者に対し,原審相手方との面会交流の話をしたり,これを促したりするだけで,心身の状況に異変を生じてきたことは前記認定のとおりである上,

7-Bの④の審判が述べていた「相手方と円滑な面会交流を重ね,相手方と継続的にやり取りをすることで,上記拒否反応も徐々に和らいでいく可能性」が、現実は逆になっていると否定されました。しかし、これはこれまでの試行面会のたびに明らかになっていることだったんですけどね。(7-Bのオ参照)

11-B 度重なる間接強制の申し立てが、子を追い詰め、相手方を拒否する心情をいっそう強めた

法的に認められている措置であるとはいえ,原審相手方によりなされている間接強制の措置につき,いかに原審申立人がこれを隠しても,学業が顕著に優秀で聡明な未成年者がこれを鋭く察知し,原審相手方が金目当てで面会交流を求めているなどと敵意を抱き,そのような事態に及んでいるのは自分のせいであるとして自らを強く責め,原審相手方を拒否する心情を一層深めるに至っていることが認められる。

11-C 相手方の偏狭な態度

 抗告審は、相手方の身勝手で偏狭な態度を、次のとおり強く非難しました。



原審相手方は,上記のとおり,原審申立人の原審相手方に対する過去のわだかまりや,未成年者の頑なな態度にもかかわらず,原審申立人の努力により通算10回にもわたり試行面会が実施されてきていることに対し,何ら感謝の念すら示すことなく,現在に至るまで,原審申立人が父子断絶をもたらした旨非難する偏狭な態度を改めず,前記認定のとおり,原審相手方が1回につき50万円の間接強制金を90万円に増額することを求めたのを却下した間接強制の決定書において,裁判所が原審相手方に対し,監護親である原審申立人との協議と,その理解を得られるような柔軟な対応をするよう勧告したにもかかわらず,これに敢えて抗告し,かかる裁判所の勧告を一顧だにしない態度を示した挙げ句,その抗告も棄却されており,その後,原審申立人が未成年者の心身に異常が生じて未成年者との信頼関係に支障を来す懸念を押してまで,やむにやまれぬ心境で平成28年○月○日の面会交流に臨んだ努力に対しても,何ら感謝の念をも示さないどころか,自らを嫌悪していることが明らかな未成年者に対し挨拶をしないなどと詰問するといった不適切な対応をして,一層未成年者からの顰蹙を買った末,原審申立人が挨拶のしつけもできず,監護親として不適格であるなどと,一方的に非難している。

11-D 面会を続けることは危険

未成年者は,実際,上記面会交流後,発疹,不眠,食欲不振,発熱等の身体症状を生じて,医師の診察と薬の処方を受けた上,乳幼児精神医学の専門家であるE医師の直接的な診察により,ストレス反応,退行状態と診断され(E診断書2),未成年者にこのまま原審相手方との面会交流を続けさせることは,精神保健的に明らかに危険であるとされており,これら医学的措置や診断を疑うべき事情は存しない。

そして、裁判所は、面会をしたことで、9-Bのアの専門家の意見書が予言した通りになったというのです。


 なお,未成年者と原審相手方との面会交流実施につき,既に平成27年○月の時点で,臨床心理学的立場から子の福祉に反するとしたD意見書の内容や,乳幼児精神医学の立場からその実施をやめるべきとしたE診断書の内容は,その後,現に実施したことによる弊害状況によく合致しており,そのような事態を的確に予見したものというべきであって信用性が高いものと認められる。これらを否定するF意見書は,原審相手方との面談は経ているが,未成年者とは面談しておらず,また,判断の基礎とすべき事実関係に偏りないし誤りがあり,抽象的かつ観念的に面会交流の必要性を言うものにすぎないから,採用し難い。
 以上述べたところによれば,遅くとも平成28年○月に一部実施した面会交流において,未成年者と原審相手方との面会交流をこれ以上実施させることの心理学的,医学的弊害が明らかとなったものと認められ,それが子の福祉に反することが明白になったというべきであるから,同月以降の直接的面会交流をさせるべきでないことが明らかとなったものということができる。
 

 (なお、抗告審は、相手方が未成年者に手紙や品物を送ることまでを否定する理由はないとして、間接交流は認めています)

12、おわりに

 いかがだったでしょうか。
 本事案は、申立人の頑張りで審判が覆り、面会交流が禁止されるに至りましたが、家裁の面会交流原則実施のもと、同じような事案で、26年審判や一審のような審判がなされ、面会交流が強制されてしまってるケースはたくさんあると思います。
 本事案でも、未成年者は、生後まもない時期から、度重なる試行面会と調査官の面接を受け、何度も何度も父親の事について同じような質問を受け、一審の後、26年審判に基づく面会交流を強制されました。未成年者が受けた心理的な負担は計り知れません。

 いま、「子どもに会えない」と訴える別居親たちは、「面会が認められても月一回、2時間程度」「それすら守られていない」と主張し、子どもとの自由な面会交流を求めて運動を展開しています。もしかすると、その運動に本事案の相手方も加わっているかもしれません。

 しかし、審判が「守られていない」のは、この事案のような事情があってのことかもしれません。
 また、本事案の審判でも度々述べられているように、面会交流を実現するとしても、まずは無理のない回数から始めて信頼関係の構築に努めるべきであり、別居親たちが要求しているような、いきなり、週一回とか自由な面会を認める事は危険であることを認識する必要があると思います。

 また、こうした別居親たちは、いま保育園や学校での面会交流を認めるよう自治体に要求する運動もしていますが、保育園や学校での面会を容認する藤枝市のような自治体が増えれば、本事案のような相手方が保育園や学校に押しかける事も予想されます。もし本事案の相手方が未成年者の学校に来るようなことがあったら、未成年者はどうなっていたでしょうか。

 本事案からそのようなことをぜひ考えて議論してほしいと思います。

(ところで抗告審から約5年が経過していますが、相手方は新たな調停を申し立てているんでしょうか。続編となる新たな審判は出ているのでしょうか。今はどうなっているのかとても気になるところです)

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