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新・間違いだらけの論客選びREMASTER 第3回 谷本真由美(May_Roma)『日本に殺されずに幸せに生きる方法』ほか

※個票の一番下に掲載されている「カテゴリ単語集計チャート」について、偏差値とそれを元につくられたチャートが不正確な値になっております。現在、諸事情によりデータの再計算ができないため、準備が整い次第、正確な図表に修正する予定ですので、ご了承ください。

香山リカ『ソーシャルメディアの何が気持ち悪いのか』朝日新書、2014年

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私の連載に対してこのようなツイートがあったので、香山特集は後でやるつもりだったが本書だけ先行して採り上げることとした。実際上記のツイートの通り香山はいまはかなりツイッターを使いこなしている感があるし(実際私は香山のフォロワーだし)、しかもツイッター上だけでなくほかのメディアにおいても若者バッシング的なことは言わなくなっているので、今となっては絶対に書けない本だろうなぁ…とは思う。あと最近の医療政策とか反差別とかでは読むべき発言が多いし。

関連語はネット、メール、ブログなどといったインターネット関係の単語が目立つ一方で、頻出語はコミュニケーション関係の単語が上位になっている。また、レーダーチャートは主成分1,6が若干の負の方向に触れている。主成分5が正の方向なのはネット社会論なので必然ではあるが、主成分1が負の値になっているのを見る限り、やはり個人の心のあり方みたいな、香山の若者論の特徴(そして欠点)が如実に現れたものと言うほかない。

ちなみにカテゴリー6の単語の段落での頻度は堂々の3位、カテゴリー10も37位。やはり愚痴か…。

谷本真由美(May_Roma)『日本に殺されずに幸せに生きる方法』あさ出版、2013年

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現在でこそすっかり左派嘲笑のネット論客に堕落した感のある著者であるが、この著者が売り出した頃は、イギリス在住の人間として日本がいかに労働などの分野で「遅れている」かということを述べる、有り体に言えば「出羽の守」的な、いわば「グローバル」論客であった。後述の『日本が世界一「貧しい」国である件について』のように、現在の左派嘲笑と同じように(!)強い口調で日本社会を論じることも少なくなかった(その点本書は論調は比較的穏便である)。

実際、関連語では「イギリス」がトップであり、そのほか働き方に関する単語が関連語や頻出語で現れているなど、「新しい働き方」系の論客であることが示され、また対応分析で近い位置に配置された書籍も、雨宮『生きさせろ!』のようなロスジェネ論系や、やちきりん『未来の働き方を考えよう』などの「新しい働き方」系の本となっている。

レーダーチャートにおいては、各成分は全体的に1付近の値を示しており、格差社会論的な傾向、右派論壇的な傾向、文化論的な傾向が見て取れるが、他方で第1主成分は負の値を示している。第1主成分の負の方向は恋愛論的な傾向と推測されることを示したが、そういう「個人的」な傾向が、もしかしたら現在のような口汚く左派を罵る傾向につながったのでは? という可能性も考慮できるかもしれない。

あとはカテゴリー別の単語だと、カテゴリー1と8が高い数値を示しており、その点でも世代論をベースとした「働き方」系の議論の典型と言えるかもしれない。

谷本真由美『日本が世界一「貧しい」国である件について』祥伝社、2013年

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こういうタイトルの本を出していたんですねぇ(もちろん「貧しい」というのがカギ括弧つきであることから経済的なものを意味しているのではないというのは承知ですが)。いまやこの書き手はツイッター上で政権に異議を申し立てる人たちを罵倒するだけの存在に堕してしまった。

それはさておき、レーダーチャートの傾向としては、前掲『日本に殺されずに~』に比べて、第4主成分がゼロ値に近くなっているというものがある。それに伴い、近い位置にある書籍も若干異なっていて、典型的な現代社会批判(バッシングを含む)である楡『衆愚の時代』や和田『この国の冷たさの正体』などといった書籍が多く入ってきており、『働き方』論というよりはこの2010年代的な現代社会批判の典型ではないかという気がする。

カテゴリー別の単語では新たにカテゴリー9,10が高い水準になっている。カテゴリー10の頻度が高くなったことで、議論は前緒よりも「愚痴」的になったと言うことができるのだろうか?

ちきりん『自分のアタマで考えよう:知識にだまされない思考の技術』ダイヤモンド社、2011年

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そもそもこの手の「自分の頭で考えよう」的な議論ってかなり「地雷」なんですよね。自分で考えよう、とかいいながら、書いていることは時代の流れがどうとかいった高齢者叩きのようなものが大半で、社会観についてはむしろ書き手のものの隷従させる、というか。この著者もおおむねそんな感じです(本だけでなくブログやツイッターなどの振る舞いを見ても)。関連語とか頻出語とかは「思考」とか「データ」とか「情報」とかでもっともらしいんですけどね…。

レーダーチャートにおいては、前掲の谷本『日本に殺されずに~』から主成分6を負の方向に動かしたという感じで、ますますネット言論的な傾向、もしくはネット言論の消費者に合わせた傾向を強めたということができる。

カテゴリー別の単語の集計では、カテゴリー1,4,6,11が比較的高水準となった。そのため家庭とか文化論的な傾向が強くなり、ますますネット論壇受けをねらった書籍と言うことができる。そして愚痴か…。

ちきりん『未来の働き方を考えよう:人生は二回、生きられる』文藝春秋、2013年

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2010年代にネットで話題になって本を出したブロガーは必ずあとで「働き方」に関する本を出す説。まあこの人もその一人だった、ということです。

レーダーチャートにおける前著との顕著な違いは、主成分1の負の方向への向きが強くなり、また主成分2が正の方向に張り出したということである。主成分1の負の方向への強化(この負の方向は恋愛論系)、主成分2の正の方向への強化(この方向は格差社会論系)という、一見すると相反する2つの方向への強化が行われているということになる。これはむしろ本書のような傾向の書籍においては、本来ならソーシャルであるべき(という感覚があの界隈とはずれているのだろうか)格差社会とか働き方に関する議論が、むしろ個人的、内面的な方向につながっている、あるいはその逆(内面的な方向の強化がロスジェネ論的な議論に向かわせる)ということを示唆しているのだろうか。

ちなみにカテゴリー別の単語の集計ではカテゴリー8が堂々の1位で、やはり「働き方」系の議論の典型と言うことができた。そのほかカテゴリー4,5,11も比較的高水準であり、家庭に関するトピックのほかマーケティング方面も抑えていると言えるのだろうか?

IGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA、伊賀、どうしても許されません。(この段落に特に意味はありません。ありませんったらありません)

森永卓郎『年収300万円時代を生き抜く経済学』光文社、2003年(光文社知恵の森文庫版を使用)

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先に見たような書籍群の流れに属する格差社会論における前史とも言うべき書籍の一冊。とりわけ「年収300万円時代」というタイトルのインパクトからベストセラーになった。著者に対しては年収300万円時代が来たと煽っておきながら本人は印税でもうけている、みたいな揶揄もあったようだがまあそういう揶揄は書籍の内用とあまり関係ないよね。

それはさておき、レーダーチャートでは、先に見たような「働き方」系の書籍と比べると、主成分1と3がゼロ値に近くなっている(前に見た書籍よりも、主成分3は正、主成分4は負に触れている)という違いがある。主成分1が正の方向に触れることで政治論としての性格が強く、主成分3が少し負の方向に触れることで右派言説としての性格が少し弱くなるということになっている。そういった「社会派」で「リベラル」な志向はロスジェネ論に引き継がれる過程でどのように後退したのかということは研究の課題となるだろう。

カテゴリー別の単語を見ても、カテゴリー4,8の単語の使用頻度は多いものの、それ以外は比較的低水準に落ち着いている。本書は経済分析と生活防衛的な話題がメインなので、とりわけカテゴリー11あたりの頻度の違いが森永と近年のロスジェネ論を分ける基準になるのだろうか。

藻谷浩介、NHK広島取材班『里山資本主義:日本経済は「安心の原理」で動く』角川Oneテーマ21、2013年

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地域経済の専門家として、『デフレの正体』(角川Oneテーマ21)という本では通過供給量ではなく人口の減少がデフレの原因だとし、また本書では経済の停滞は「安心の喪失」であるとする。本書の内容は版経済成長、反グローバリズム的なものであるが、他方であとがきでは若い世代や近隣諸国へのバッシングと取れる表現もあったりする。ただ(そもそも本企画で採り上げている経済に関する書籍が少なめであるということもあろうが)対応分析で近くに配置された書籍においては経済関係の本はほとんどなく、どちらかと言えば若手文化人によるエッセイがほとんどである。

カテゴリー別の単語の使用頻度は全体的に低調で、要するに本企画全体での頻出語が少ないということである。もっとも高かったのがカテゴリー8なので経済に関する書籍であるという体面は保てたか。

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