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私のライフスタイル その3 革製品


もう30年近く前になる話で恐縮だが、私は日本アイ・ビー・エムのパソコン事業の責任者として、新製品の発表記者会見は短時間に印象深く行う重要な仕事だった。
特に年末商戦の前には連日各社から新製品が発表されるこの業界では発表は'面白い’必要があった。
 
当時はノートパソコンは薄さ、軽さの競争時代で、IBMは1990年にA4サイズに参入し.家の中で座っているデスクトップパソコンにくらべて、持ち歩くことで生活のシーンや持っている人の個性を表す世界に一転した。

IBMのThinkPadは黒で洗練されている、それを移動して外で仕事するシーンが他の人に目に触れて広告になっていくのは素晴らしい。素敵な、こだわりのある方に買って頂きたいのだ(もちろん値段も少し高い)。

 週刊誌の連載エッセイのタイトルだったか、'鞄のなかみ'という言葉が気になっていた。
‘鞄の中身にあるパソコン、そのPCのサイズや特徴にマッチしたオーダーメードの鞄を特注してみてはどうだろうか?
問題は、オーダーメードの鞄をデザインし、制作する時間と、機密が守れるメーカーさん探しが難しかった。
発表時には沢山製品があるわけではないので、1週間前くらいに未発表製品をお預けしてお願いできるオーダーメードの革製品のショップ、それが当時東横線代官山駅前にあった、‘オーソドキシー’さんに部下が出入りしていたことで解決した(現在は銀座一丁目に移転)。
 
第一号はヒット商品、‘Thinkpad230’が縦に入って、同じ形の収納が逆側にもあって、中央に何でも入れられる所があるという黒の鞄を1週間ギリギリでデザインして制作していただいた。
片方には1泊用の下着が入って、真ん中は新聞などを突っ込み、パソコンを持っていけば、書類は持参しなくても良い時代のストーリー性を演出した。
第2号は13インチという大型液晶をもちながら薄くて丈夫な‘Thinkpad560’.薄いが丈夫というキャッチで、この時の鞄は少し厚手の紺の色の皮を使って防護力を強めて、2泊3日の出張用というシナリオにした。
 
そんなご縁から、その後私の私物の革製品は全て‘オーソドキシー’さんにお願いしている。仕事や環境に応じて変化しながら、20年間に4つの鞄、2つの財布、小銭入れ、名刺入れ、スマホケース等を御願いした。
スーツに見合った格があること、ブランド品ではないことがわかり、品質が良い、とパッとわかること。誰もが外見から見えることを鞄に期待している。

オーソドキシーの今野さんに言わせると、私の使いぶりは激しく、なんでも突っ込む、床に置く、雨にぬらすなど使い倒し状態で、それに耐えられるデザインと仕上がりに配慮してくれているそうだ。
オーダーメードの革製品は高いが、大量に作るブランドロゴ製品も高いし、しかし価値が違う。皮の色などで持ち物の間に統一感が生まれたり、修理を御願いして長持ちもして、何よりも一緒にいるうちにだんだん自分の味が出てくることで手放せなくなる不思議な世界の魅力がある。
自分しか持っていない物に自分の生きざまがしみ込んでゆく、これがオーダーメード革製品の醍醐味なのだ。

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