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私が獣医師を諦めた本当の理由

私は獣医学部出身でもちろん日本では獣医師の免許を持っている。しかしながら臨床経験はゼロ。どうして獣医学部を出て獣医師にならなかったのかと聞かれる。私の答えはいつも同じ。

在学中に動物アレルギーが発症してしまい臨床の道を諦めました。

みんなんは大抵笑いながら、アレルギーを見つけるのにかなりお金かかりましたねと。

でも本当の理由はもっと笑ってしまう理由だ。

私の大学では3年生進学時に希望の学科を選ぶ。私は獣医学科を選んだ。同級生は30人。獣医学科は6年制。4年生になるときに希望の研究室を選ぶ。臨床獣医師になるためには外科か内科の研究室に入室する必要がある。私は迷わず外科を選んだ。

外科の研究室の定員は4人。希望者は私を含めて5人。その中に高校の教員を辞められて大学に入り直されたWさんがおられた。Wさんは当時40歳くらい。

そんなある日、研究室の振り分けを取りまとめていた同級生の一人が私にこんなことを言ってきた。

下村、外科の希望を取り下げてくれ。そうしないとくじ引きで一人落とさないといけないから。下村はボートばっかり漕いであまり学業に熱心じゃない。それに対してWさんは成績も優秀で、授業も全出席。これでもしWさんが落ちたらこんな不公平なことはない。

カチンときたけれど私は彼の申し入れを受け入れた。私の臨床獣医の夢はここで終わった。

悲しいことにその数年後Wさんは心臓発作で亡くなられた。卒業目前にして。もっと驚いたのは、外科の研究室に進んだ残りの3人は、臨床獣医にならなかった。2人は民間企業に就職。獣医とは全く無関係の会社(不動産関係とテレビ業界)。残りの一人は農水省の国家公務員になった。私としたらなんとも複雑な心境だった。

あれから35年。今思うとこれがいわゆる“根回し”だった。当時はこう言うことが普通に行われているとは考えもしなかった。あの時ゴネてくじ引きに持ち込めば、私は80%の確率で外科医になり、渡米なんて全く考えなかっただろう。運命というものは不思議なものだ。

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