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ベンチャー創業日誌@シカゴ(18)コビー ブライアントの教えを実感した瞬間

映画鑑賞や読書をしていると、有意義な“気づき”を得ることがある。面白いことに、それらの“気づき”は大抵の場合、本題とはあまり関係ないシーンで起きる。つい先日、ネットフリックスで映画を観ているときに、大きな“気づき”があった。

その映画のタイトルはMoneyball。10年以上も前の古い映画だ。主演は、ブラッド ピット。彼が演じるビリーは大リーグの弱小貧乏球団“オークランド アスレチックス”のGM(ジェネラルマネージャー)。大金をかけずにチームを強くする実話に基づいた作品だ。スーパースターがFA(フリーエージェント)で抜けてしまった穴を埋めるためにスカウトたちがFA探しに奔走する。しかし資金がないので有名なFAを獲得することはできない。そんな中、東海岸名門校、イエール大学で経済学を学んだピートが入社してくる。彼は統計を駆使して、野手で一番大切なのは“出塁率”だとビリーに進言する。この考えは今では当たり前になっているが、当時は打率、ホームラン、打点に注目していたので周囲の反発はすごかった。結果的にこの方針は正しく、アスレチックスは大リーグ記録の20連勝を達成し地区優勝を遂げている。

この映画は出塁率に目をつけ、お金をあまりかけずにチームを再建するのが主題だが、私に“気づき”を与えてくれたシーンは、そこではなく、スカウトとGMのミーティングのシーンでのある年配スカウトの一言だ。
https://www.youtube.com/watch?v=3MjxoaynCmk&t=11s

このシーンはスカウト達がどのFAを取りに行ったらいいかGMに意見を求めているところ。そこでGMのビリーは、スカウトの選んだFAは誰も取らないと宣言。単に出塁率だけを見て給料の安いFAを獲得する。そのプレーヤたちは素行に問題があったり、とっくに全盛期を過ぎていたり、肘に爆弾を抱えていたり。いわゆる、欠陥商品。当然ながら、スカウトの猛反発を喰う。

そんな中、耳に補聴器をつけた70代後半の年配スカウトがこんな言葉を放つ。

『スカウトの皆さん、あなたたちは大切なことを忘れていますね。GMは球団のオーナーと神様以外の言うことを聞く必要はありません。我々スカウトはGMにアドバイスを与え、GMが決断する。そこには議論は存在しません。』

この言葉は私がずっと悩んできた会社経営に関するモヤモヤを一気に解消した。私の心を縛っていた呪縛から解き放たれた瞬間だった。

私たちの会社には米国大手製薬会社経験者が複数いる。私は在米30年以上だけれど、考え方は日本的で、社内のみんなが納得して物事を進めるのが一番いいとずっと信じていた。新しいことを始めるときは、みんなで話し合っていた。彼らの意見と自分の考えが違う時、私は自分の考えをみんなに納得してもらおうとしてきた。そうしないとシコリが残ると考えていた。実はこの納得してもらうプロセスは大変労力のいる仕事で、仮に納得してくれても私の気持ちは大きく滅入る。

社内の製薬業界経験者の一人ビルは常々、

“私たちができることはアドバイスをあげること。決断はKazuお前がしろ”

と、言っていた。

映画の中で、補聴器をつけた70代後半の年配スカウトの言葉とビルの言葉が私の中で重なった。

我々の会社の創業者は私を含め2人。株式のほとんどはこの2人が持っている。つまり、会社の全ての決定権はこの2人が持っている。社内の意見にはじっくり耳を傾けるけれど、皆に納得してもらうのは無理。私たちが納得し、決断、その決断が正しくなるように頑張るだけ。もちろん失敗したときには全責任を負う。逆に納得してもらおうとするからシコリが残るし気も滅入る。私たち創業者が議論して説得しないといけないのは、将来お客になりうる社外の人たちだ。私は完全に戦う相手を間違っていた。

NBAのスーパースターだったコビーブライアントは生前こんな言葉を残していた。

Once you know what it is in life that you want to do, then the world basically becomes your library. Everything you view, you can view from that perspective, which makes everything a learning asset for you.

日本語訳:自分が何をしたいのかがわかれば、世界は基本的に自分の図書館になります。見るものすべてが、その視点から見ることができ、すべてが自分にとっての学びの財産になるのです。

私は自分の会社を成功させることにフォーカスしている。あらゆるものをその視点から見ている。だから今回のような"気づき"があったのだと思う。おそらく普通なら見過ごしているたわいもないシーンだった。“目標を持ちなさい“とよく言われる。コビーブライアンとが言っている意味はこれだったんだ、と”気づいた”


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