狭い世界に見える業界の縮図

久々の投稿が旅行記などではないのがアレだが、ここの存在をすっかり忘れていたのは秘密だ。

ご存知の方はご存知、俺の仕事はゲーム業界だ。PC-8801やファミコン、メガドライブの頃からかれこれ30年近くコンピューターゲームというものを制作している。

現在は役員として零細な会社の経営に参加しつつ、現場に出ての作業も未だにやっているのだが寄る年波には勝てぬ。新しい技術にはついていけず、すっかり昔はよかったと語る老害となってしまった。

まあ最近の傾向で良い面もあった。派手な3Dゲームの仕事は無理でもソシャゲブームでiOSやAndroidのアプリであれば2Dゲーム機時代の知識が活かせるため、まだお座敷がかかろうというもの。細々とやらせてもらえている。

そんなわけで作業員として今月の上旬から某社にドナドナされて働いているのだ。小洒落たインテリジェントビルに100人近く入っている大部屋は久々。

自分自身が大人数での開発環境が苦手でストレスを感じるのはともかく、(他に席の右側に人がいると駄目とか、椅子に肘掛けがあると駄目とか、仕事中の環境は割と神経質)かつてドナドナされた大会社よりも居心地はいい…のだろうなあ、多分。

一緒に仕事をする連中も若い人が多く歓迎ムード。而して、いや案の定というか勤務して2~3日目にして揉め事を起こした。しかも自分に関係のない部分で。

前提としてこの会社、社員全員がフレックス制&裁量労働制である。つまりはまあ会社が残業代を払いたくない、というのが透けて見える時点で眉をひそめはした。
フレックスは事務職がメイン、そして現場のクリエイターは裁量労働制なので残業代は出ない、これ自体は違法ではない。しかし労働時間の管理を行っていない模様(22時以降の深夜割増賃金のために労務管理は必要)。ヒアリングしてみたがタイムカードという概念は存在しなかった。
同じくフレックス勤務でも月の労働時間の合計から超過分は法定内残業、法定外残業代として支払わなければならないため、勤務時間の管理は必要になってくる。

社内チャットに流れる「申し訳ありませんが本日は定時で帰らせていただきます」…ん!? これおかしいだろ。裁量労働制なら定時はないし、そもそも定時で帰ることがなぜ「申し訳ない」のか?
この会社のメインのラインナップはソシャゲだからサービス開始時点より、定期メンテナンスの時間を除いて24時間365日稼働の必要がある。このため半年も休日を取っていない若手がいた。

あまりにもひどいので「御社はコンプライアンスの意味を理解しておられるか? また公開された財務表を見たらそれなりに黒字なので社員に還元するなりしたら如何?」などとつい余計なことを経営陣に言ってしまった。
派遣でもなく業務委託で会社に来ている外の人間がこういうことを言えば当然問題になるわけで、こりゃあ今月一杯で契約を切られるかもしれんなぁ…それもまた人生さ。

そりゃあ俺たちも若い頃は月の残業時間が200時間、とか豪語していたがブラック企業の問題がようやく世間一般に認知されていきた現代で、そういう話はナンセンスだ。こんなことを続けていると現場は疲弊してしまうに決まっている。

日本のゲームメーカーが海外のメーカーに対抗できなくなった原因の一つに、90年台後半、勢いのある時に若く才能のある人材を使い潰してしまったことが挙げられると思う。

俺が業界最大手にいた頃が思い返される。

嫌気がさしてゲーム業界を辞めてしまった人。
ストレスで心を病んでしまった人。
社の屋上から自ら命を絶ってしまった人。
在職中に体を壊し、帰らぬ人になってしまった人。

皆ゲームが大好きで技術とモチベーションが高い人たちばかりだった。あの人たちが今いてくれたらどれだけ楽だったか…。

俺もかつての気合と根性路線から180度転換して「定時に帰ろう」「休日出勤は禁止」「残業代ヨコセ」と声を上げているが成果は今一つどころかあちこちのメーカーの敷居がまたげなくなる始末だ。
「変えるなら外からでは駄目だ。中からでないと」と思って色々やってはきているのだがなぁ…。

本日より東京ゲームショウ2018が始まっている。
華やかなショウは現場の人間の犠牲の上に立っているのだ、などと他の業界でも聞くような月並な感慨が浮かぶが、サブカルの一翼でしかなかったゲーム業界がそこまで一般的(悪しき慣習も込みで)になったと喜ぶべきなのか。
それとも悲しむべきなのか。いや悲しむべきだろう。悲しむべきだ。