次、っていつくるかわかるもんならさ。教えてほしいよね。
私のなかにいるオッサン兄さんのちーぼー。今日はなんだか華やかなところにいるみたいだ。つるみ友だちのらんちゃんの後ろをぼんやり歩いている。
女装マニアのらんちゃんだが、今日はスーツ姿。髪の毛を後ろでさらりとひとつにまとめている。耳のうえ辺りに銀色のキラキラしたヘアークリップ風のアクセサリーをしている。上品でかっこいい。
ちーぼーはどんな感じなんだろうとおもったのだけど、私は彼の中にいるので、彼が鏡の間に立ってもらわない限りは姿をみることができないのだけど。きっとパッとしない感じなんだろうなー。
「なぁ、お前マジでクソお人好しすぎねぇ?それとも知らんかったの?今日の花嫁お前の元カノやろ?俺顔みてびっくりしたもん。別れたの去年頃やったっけ?お前がデート日に夜勤変わったからキレたんだろ?」
らんちゃんが後ろを振り返り、ちーぼーにいった。らんちゃんの顔は少し怒っている。
「いや。あれは俺が悪かったし。その前からヤバかったし。結婚したいなら転職して年収上げて、って言われてた事でもう気まずかったからな。」
ふたりの脇を、着飾った服を来た人たちが多くすれ違う。今日の主役を祝福しにいくのだろう。
「知らんかった。別れてからずっともう会ってないから。ってか、別れたらもう会わんだろ?普通。誰にも言うなよ。たぶん俺らしか知らねーから。」
「いわねーよ。めんどくせー。」
ふたりの視線の先では、幸せそうな新郎新婦が来賓と懇談している。時々フラッシュが光る。ピアノ曲が低く流れていた。
「花嫁全く表情変えんかったな。大した女だわ。あいつはじめまして、って俺らにいったよな?何年も付き合ったお前の事を、黒歴史にして封印しようとおもってるんじゃね?」
「別にいいわ。俺ももういい、って思ったし。」
「式場で見た瞬間、やろ?それまでぐずぐずしてたんじゃねぇの?お前あれから彼女ナッシングやろ?」
「うるさいわ。元カノにこだわってる訳じゃねーよ。今現在の俺のスペックの問題やわ。」
「あぁ、察する。お前親父さんにどんどん似てきて髪の毛…。」
「もうやめてあげて。全俺が泣くわ。まだ生えてるから。」
話しているふたりへ新郎が笑顔で手招きをする。ふたりは駆け足で向かう。
「先輩おめでとうっす!」
らんちゃんが頭を下げた。ちーぼーも同じように頭を下げた。
「ありがとうっす!今日はバンドで余興までしてくれてありがとーな!お前らまだつるんでるし、らん氏は相変わらすきれいだしさ。ちーぼーは安定したオタク。変わらなさすぎてびっくりしたわー。ほんとありがとー!」
興奮した、でもとても幸せそうな新郎。お笑い芸人さんのあらぽんさんみたいな、人の良さそうな大柄な人。
そりやー、この人には俺元カレでしたとは言えんわ。一生の秘密にしたいわな。横でありがとうございました、って新婦も頭を下げた。らんちゃんがちらりと新婦をみていった。
「いやー、先輩、奥さまとどんな感じで知り合ったんっすか?先輩は妖精にはなれたから次は神だってって言ってたじゃないすか!」
周囲の人達は明るく笑い、新郎もニコニコしながら頭をかいた。
「彼女は俺の職場に派遣で来ててさ。部下だったのよー。そこでなんと!3年間の交際期間をえて、満を持してチョメチョメよ、お前挨拶きいてなかたったなー?まぁいいわ。あぁ、でもすんません悪い上司で!妖精返上してゴットに近づけなかった俺を許して!!出会っちゃったからしょうがないのよー。」
「マジですかー!出会いって案外狭い範囲にあるもんですねー!世間って以外と狭いわーーー!」らんちゃんがリアクション大きく驚いた。
ちーぼーと新婦は数秒目があった。
ちーぼーは普通にいつもの表情を崩さないように、少し意識して
「ほんと、おめでとうございます。これからも先輩よろしくお願いします。」
って頭をさげたのだよね。それにつづいてらんちゃんも「よろしくお願いしますっす!」
って頭を下げた。
彼女は「こちらこそよろしくお願いします」
って頭をさげた。表情が少し柔らかくなったように見えた。
「じゃ!先輩!!二次会まってますよ!!」ふたりは手を降って階段を降りていく。
「…。お前アホだわ。知らんかったわけじゃないけど。」らんちゃんがちーぼーに言う。ちーぼーはらんちゃんに何も言わなかった。
でも私にはこういった。
「何年か前のあんたと同じだわ。でもこのやり方がベストだと思うんだよね。今は普通にすっきりできて、二股三股かけられた話とか平然とネタにしてるよね?」
あぁ、してる。
「俺もそういう風にさらっとできるようになると思う?何年も二股かけられてた気付かなかった鈍いおっさんでも?」
できるぜ。いつか。
コツは今みたいにさらっと笑顔で終わることだな。未来を感じないと思ったら執着やめることだ。おかげで。私は今は主婦になれたぞ。時々、思い出したりするけど。基本大丈夫になる。手放したら縁は入ってくるから。
「次っていつかわかるもんならさ。教えてほしいよねー。」
無理だろうな。まぁ、今日はとりま飲んで騒いでこいや。
「そうするわ。」
先にあるいたらんちゃんが、タクシーのなかで手招きをしていた。
とりあえず飲めや。でも飲みすぎんなよ。
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