二歩突っ切りは派手な戦法ではない

二枚落ちと言えば、駒落ちの花形手合いだと思う。
上手に飛車角が無いので攻撃力は無いものの、守り駒は全て揃っている。かつ大駒というのは狙われやすい弱点でもあるので、ある意味上手陣は全然スキのない戦力であるともいえる。
それだけに下手も正確に攻めないと上手の手厚い受けに跳ね返されてしまうので、特にプロ相手に勝つのは結構難しい。指導対局で1度でも二枚落ちで勝てれば初段なんて言われるのも納得の手合いで、有段クラスの実力が付かないと中々歯が立たないのである。

そんな二枚落ちの定跡と言えば、二歩突っ切りと銀多伝である。
どちらも江戸時代から指されているという由緒正しい戦法で、勝負という以上にこの定跡を学ぶことで得られるものはとても大きいと思っている。

さて、私が二枚落ちの下手を指す場合は二歩突っ切りを採用している。
これは最初に教わったのが二歩突っ切りだからずっと採用しているというだけなのだが、しかし思った以上に奥の深い戦法だった。

今回はそんな二歩突っ切りについて、私が最初のころ勘違いしていたこと、そして同じく多くの二枚落ちビギナーが勘違いしそうなことについて述べてみたいと思う。

二歩突っ切りの基本手順と誤解

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端歩の関係等、対局ごとに細かい差異はあるにせよ、大体上図が二歩突っ切りの基本形と言ってよいだろう。
上手の金銀2枚を2筋3筋の守りに張り付けておき、下手はカニ囲い+左右反転した石田流のような形である。

さてここからの手順であるが、恐らく最初に触れるのは以下のようなものだと思う。

上図より
7五歩 同歩 同金 7六歩 7四金 4六銀 8四歩 3五銀 8五歩
4四歩 同歩 同銀 同銀 同角 5三銀 2六角 4四歩(下図)

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7五銀 4二金 7四銀 同玉 7五歩 同玉 4五桂! 同歩 7六飛!
同玉 5三角成! 同金 8四銀(下図) 

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まで、上手玉に必至がかかって下手の勝ちである(7五金と7七金の両方を受ける手が無い)。
攻めの銀を捌いて角を転換し、あとは桂馬、飛車、角と次々に駒を捨てて必至をかけて下手の快勝である。実に気持ちが良い。

私も初めて二歩突っ切りを教わった時はこの変化を並べてもらった。なんて爽快な戦法なんだ!と思ったわけである。

しかし、この手順こそが二歩突っ切りという戦法の指し方を誤解させていると思う。
やったことがある人ならわかると思うが、二歩突っ切りでこんな感じに華々しく攻めて一気に受け無しに追い込むなんて勝ち方は実戦ではほぼあり得ない。もし実現したならば、上手が相当優しいと言ってよい。

私も大いに誤解していた。派手に攻めて勝てないのは自分が弱いからだとしばらく思っていた。しばらくというのは・・・数年のレベルだろうか。その間ずっと勘違いしていた。
なんとか飛車角を捌いて華麗に勝とうと挑み続けて、何度やっても上手く行かなかった。

そう、実のところ、二歩突っ切りは飛車角銀桂が乱舞する過激な攻めを身上とする戦法なんかではなかったのである。そもそもの狙いが間違っていた。

捌きに行く攻めは受け止められてしまう

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基本図の再掲である。
ここから私の経験上よくある展開の例を示す。

上図より
9四歩 9六歩 8四歩 4六銀 1二香 3五銀 5五歩(下図)

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これは実際に私がとあるプロ棋士に教わった指導対局で現れた局面である。
最初に紹介した手順と同様に3五銀と出て次に4四歩から銀交換をするのが狙いだったが、5五歩と位を取られて角のラインを止められてしまった。

ここでなおも銀交換にこだわって4六飛としても、単に5四金と受けられたり、3一銀4四歩4二銀上4三歩成同銀といった手順で壁銀を中央に使われたりして案外攻めにならない。
他にも2五桂~3四歩とか2六歩~2五歩~2六飛といった攻めも考えられるが、どれも大抵成果を上げるに至らない。
むしろ上手くいなされながら2筋と3筋の金銀を中央に使われ、気が付いたら飛車が圧迫されて動けなくなり、じわじわと押しつぶされてしまう。典型的な二枚落ちの負けパターンである。実際、私はそうやって何度も何度も負けた。

最初に学んだ変化のような攻め駒が乱舞する将棋をイメージしていると、前に出た銀と飛車を捌いて攻めていこうという気持ちになってしまう。しかしそれは大抵うまくいかないのである。
あの派手で華麗な将棋は一旦忘れる必要がある。じゃあどうすれば上手陣を攻略できるのか。そのポイントは「中央の厚み」である。

二歩突っ切りは中央の厚みを押し返す将棋

戦力の足りない上手は中段玉に構え、かつその上部を守るように金銀を配置して中央に厚みを築いてくる。それが上手の唯一の希望であるわけだが、二歩突っ切りではその厚みに対して真正面からぶつかっていき、上手の玉頭の厚みを消し去ってしまうのが勝つポイントであると私は思う。

ということで先ほどの局面での下手の最善手は4六銀である(下図)。

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出たばっかりの銀を引くという珍しい手だが、これが「上手の玉頭の厚みを吹き飛ばす」という攻めを狙った好手である。

ここから本譜は以下のように進行した。
5四銀 5六歩 6六歩 同歩 5六歩 6七銀 5七歩成 同金 5五歩
5八金 3一銀 5六歩(下図)

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上手は6筋の歩も突いて角のラインを止めに来るが、それも逆用して下手も中央に厚みを築き、5筋から反発する。

上図より
同歩 5五歩 同金 同銀 同銀 6五歩 5七歩成 5五角(下図)

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中央で駒をぶつけていった結果、上手の玉頭の厚みが消え去って裸の王様だけが残った。間違いなく下手良しだろう。実戦もここから何とか攻め切って勝ち切ることが出来た。

このように上手の中央の厚みさえ消し去ることが出来れば、あとは上から押しつぶすだけである。最初に紹介したような華々しい攻めではないが、実は中央を金駒で押し返す展開になると案外上手は対処しにくい。もちろん二枚落ちという手合いである以上そこから攻め切るのも大変ではあるが、上手の厚みが消えると自玉も安全になるので攻めに専念しやすくなるというメリットもある。

ちなみに、上図以下
5八と 同玉 5七歩 6八玉 4二銀 5四銀!
という自慢の一手(下図)を放ったのだが、まぁ軽く紹介するにとどめておこう←

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まとめ

華々しい変化に思わず惑わされがちだけど、実は二歩突っ切りはもっと愚直に中央の厚みをぶつけて押し返すという展開を目指すのだということを紹介した。私自身、これに気が付いてからようやく指導対局で勝てることが増えていった。
今回紹介した対局以外でも、経験上3五銀と出た瞬間に5五歩と止められることがかなり多かった。その手を見たら中央で戦うんだと思考をシフトするのが大事である。

私と同様に二歩突っ切りを指しているものの中々プロに勝てなくて悩んでいる人の参考になると嬉しい。実際はこの中央で戦うという概念を身に付けてもなお具体的にどうやって厚みを吹き飛ばすのかというのは難しい場合も多いのだが、そもそも考え方が間違っていた時よりはずっと指しやすいと思う。是非試行錯誤してみて欲しい。

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