【級位者振り飛車党向け】美濃囲いの遠さを見直そう

何がきっかけだったかは忘れてしまったが、今日はこんなツイートをした。

私は将棋を始めてから今までずっと振り飛車党(ほぼノーマル四間飛車だけど)で、美濃囲い党である。相振りでは色々指すけど、対抗形は98%まで美濃囲い系統と言っていいだろう(ただし藤井システムは美濃囲いに含むものとする)。
級位者の頃は「他に知らないから」ぐらいの感じで美濃に組んでいたが、今は美濃囲いが好きで、美濃囲いに組みたいがゆえに振り飛車にしていると言っても過言ではないぐらいである。

さて、上記のツイートの通り、級位者の振り飛車党は「私の美濃囲いは固くない」と言う事が多いように思う。
私も確かにそう思っていた。美濃囲いなんて簡単に崩されてしまうじゃないかと。舟囲いより固いなんて嘘だと。

でもそれでも美濃囲いを採用して指し続け、振り飛車一本で有段者になるころには単に「考え方が間違っていた」だけだったということに気が付くことができた。
これは「振り飛車らしさ」にも繋がってくる話だと思う。要は美濃囲いというものの特性を理解して初めて振り飛車を振り飛車らしく指せるのだ。

ということで、私が気が付いたことを同じく悩んでいる級位者振り飛車党に向けて書き留めておきたいと思う。

(なお、以下はあくまで級位者向けの「考え方」の説明である。手順は最善とは限らないが「こういう展開ってよくあるでしょ」という説明に重きを置いているため、その点はご了承いただきたい)

美濃が一瞬で崩壊するよくあるパターン

例えば仮に自分が先手番で振り飛車+美濃囲いを採用したとして、居飛車の急戦に対して捌き合ったあとの局面として以下の部分図(図1)を想定してみる。飛角銀を交換し、お互いに飛車を打ち込んで桂馬を取り合ったところと考えると割とよくありえる局面だろう。

図1 △6六桂まで

さて、後手から桂馬を打たれて美濃の左金を狙われている。
ここで「金と桂馬の交換は駒損だから受けなければ」と思って5九金と引いたところ、さらに5八銀と打って攻めてこられたとする(図2)。

図2 △5八銀まで

「次に5九銀成同金同龍と進むと金2枚と銀1枚の交換で駒損になっちゃうな」と考えて同金直同桂成同金と進めたところ、3九角と打たれてしまう(図3)。

図3 △3九角まで

この図3の局面はまだ詰みではないが、以下1八玉2八金1七玉3八金のように駒を取られながら攻められて、上部に脱出しても先手玉は風前の灯火である。
お互いに飛車を打ち込んで桂馬を取り合った辺りというのがこの局面の想定だったのだから、まだ後手の舟囲いは健在である。これでは大抵負けと言っても良いだろう。

どうして一瞬で崩壊してしまったのか

さて、上記の手順では先手はたった1手も攻めの手を指していないのに、その間にあっという間に美濃囲いが崩壊してしまった。
こういう展開で負ければ、確かに「一方的に攻められて負けてしまった、やっぱり美濃囲いは固くないじゃないか」と思うのはしょうがないと思う。

上の指し手を見れば、駒損を避けるための手を指し続けていることは分かると思う。最初に金取りをかわし、次に金2枚と銀の交換になるのを避けてむしろ金1枚と銀桂の交換で駒得したのだから、駒の損得という面から見たら間違ってないはずである。
しかし結果的には美濃は崩壊、自玉が大ピンチに陥ってしまった。

ではどうすればよかったのか。
ここで「終盤は駒の損得より速度」という格言が出てくるのである。

終盤は速度計算が大事

さて、以下に先ほどの部分図を再掲する(図4)。

図4 △6六桂まで(図1の再掲)

ここで考えて欲しいのだが、仮に先手が一切受けの手を指さない場合、この先手玉はあと何手で詰んでしまうだろうか?
ここから5八桂成~4九成桂としてから3九角と打てば詰みになる。つまり先手玉を詰ますには後手は最低でもここから3手指さなければならないという事が分かる(途中で大量に駒が入ったりすれば5八桂成のあといきなり3九角と打ち込んで詰む可能性はあるが、一旦は考えない)。

ということは、逆に言えば先手はここから3手は自由に指せるわけである。言い換えれば、3手以内に相手玉を詰ましてしまえるならば、ここから一切受けの手を指す必要がない。
これが「速度計算」の意味である。自玉はあと3手で詰むなら、逆にその3手以内に相手玉を詰ませるなら勝ちと考える。そしてそれが可能ならば余計な受けの手は指さなくていいのだ。

考えてみると、先ほどの手順では先手は1手も攻めの手を指していないのに自陣は崩壊してしまった。ということは「受けに回ったせいで逆に攻める余裕を失ってしまった」という事になるわけだ。
本来、受けというのは手を稼いで反撃するための指し手のはずなのに、逆に受けに回ったせいで美濃囲いは瞬時に崩壊したのである。
しかし「何もしない」場合、なんと先手玉が詰むまで3手も自由に指せるのである。
これが美濃囲いの「遠さ」である。そして振り飛車はその美濃の遠さを活かして指すのである。

攻め合いにした場合の例

「受けない」ということは「攻め合う」という事である。
ということで先ほどの部分図を含む全体図の例を以下に示す(図5)。

図5 △6六桂まで(全体図)

まずは先ほどと同じように受けに回った場合の局面図を示す(図6)。

図6 △3五銀まで(受けに回った場合の局面)

まだ詰んではいないものの、これは流石に敗勢である。
以下、2五玉に9八龍と香車を取られた手が詰めろ(例えば2四歩3四玉3三香4五玉4四歩まで)であるが、受ける手も難しいし、後手玉にまだ詰みは無い。

さて、今度は受ける代わりにすぐに攻め合いに行ってみることにする。
攻め合いで有力なのは舟囲い崩しの手筋通り2二銀と打つ手である。同玉なら4一龍と金を取りながら攻めて行けるし、5八桂成と後手も攻め合いを目指してきた場合も2一銀不成と迫っていくことができる(図7)。

図7 ▲2一銀不成まで

図7以下、同玉は4一龍でいいし、3一玉なら3三桂からどんどん迫っていける。難しいのは4二玉の場合だが、4五桂から攻めを継続して先手良しのようである(代えて3三角同玉4一龍と行きたいが、角を渡すと3一角から手数は長めだが先手玉が詰んでしまう)。

もしくは図5から1手だけ5九金と受けておき、5八銀と絡んできたところで手抜いて2二銀と打つ手もある(図8)。

図8 ▲2二銀まで(1手だけ受けてから攻め合った場合)

ここで5九銀成には同金ではなく2一銀不成とさらに攻め合う。今度は4二玉には3三角同玉4一龍と攻めてOKである。先ほどと違って龍の利きが成銀で遮られているので、3九角には同金で頓死筋は無い。
かといって代えて4九銀成なら同金でいい。そこで5八桂成と来ても2一銀不成でやはり攻め合い勝ちが見えてくる。

このように6六桂に対してすぐに攻め合うのも1手だけ受けてから攻め合うのもどちらも有力で、いずれにしても美濃囲いの遠さを信じて攻め合いに突入すれば「一方的に攻め潰されて完敗」ということは避けられる。もちろん後手も攻め合いを諦めて受けに回ってくることもあるし、攻め合うにしてもまだまだ難しい終盤戦にはなるが、ここからは日ごろ鍛えた終盤力の見せ所である。それで負けたら美濃が悪いのではなく腕が悪いのである(自戒)。

振り飛車らしさへ

このように美濃囲いは玉が「遠い」がゆえに、攻め込まれても数手は稼げることが多いのである。
逆に居飛車の舟囲いは2二銀と一発放り込んだだけで急に火の手が上がってしまった。他にも条件によっては2四桂同歩2三角とより過激に攻める手が成立することもあるし、香車を持っていれば2六香~2三香成のような攻めが狙える場合もある。いずれにせよ崩し方の手筋を知っていれば、舟囲いというのはどうしても美濃囲いよりも「近い」のだ。すぐに王手がかかってしまう。

ではそれが振り飛車らしさとどう関係してくるのだろうか。
それはよく言われる「振り飛車は捌きが大事」という話に繋がってくる。

要はとにかく攻め駒を捌いてしまえれば、美濃囲いの遠さを活かして攻め合い勝ちに持ち込める可能性が高いのである。
場合によっては駒損をしてでも強引に捌き切ってしまい、強気に攻め合えば活路が見いだされることは本当に良くある。級位者同士ならなおさら、美濃が守ってくれるのを信じて攻め合ってしまった方が結果的に勝ちに近づける。

もちろん、常に自玉を見ずに攻め合うのが最善とは限らない。美濃の弱点として「王手がかかると弱い」という特徴がある(玉にひもが付いていないため)ので、自玉にすぐに王手がかかるような攻め方をされた場合は注意が必要である。
だから「自玉にあと何手で王手がかかるか」というのは常に考えておかなければならない。今回のように王手がかかる(詰む)までに3手かかるぞと分かればその3手を使って攻め合いに出来ないかを考えればいいし、逆に次に王手が飛んできて自玉が危険だと思えば受けに回る必要がある。
この辺りはそう簡単な話ではないし、終盤力を鍛え、沢山指して経験で覚えるしかない。

ただそれでも、いつも攻められるとつい慌てて受けに回ってしまって逆に一方的に攻め潰されてしまう、というようなことが避けられればより振り飛車らしい振り飛車を指すことができるだろう。
それこそ「美濃の左金は囮である」ぐらいに考えていても良いと思う。この駒は取られるために存在していて、取られている間に攻めてしまえばいいのだと考えるのである。

実は私もまだ級位者の頃、知り合いの有段者に教わった際に「そんなに丁寧に面倒を見る指し方の人に振り飛車は向いていないから矢倉をやった方が良い」とまで言われたことがある。だがそれも今なら十分に理解が出来る。
ぶっ捌いてしまえばあとは美濃が遠いからどうにでもなる、ぐらいの気持ちで豪快に指してしまった方が振り飛車らしくなるのだ。
是非これを読んでくれた級位者振り飛車党の皆様も、自分の美濃囲いを信じて振り飛車らしい振り飛車を指してみてほしい。

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