1億総株主計画カブ&ピースのスキーム

I. はじめに

前澤さんが新たに始めたカブ&ピース社の取組が面白い。

新たに展開する電気、ガス、モバイル、ひかり、ふるさと納税、ウォーターサーバーの6事業の顧客に対して自社の株式を配るというもの。

割引券やポイント配る代わりに自社の株を配ろうとする斬新的な取り組みだ。

あまりにも面白すぎる取組なのですが、同社が発行する有価証券届出書をちゃんと見てみたら、そのスキームも超面白かったので、以下で解説してみようと思う。

II. 有価証券届出書をして資金調達するということ

そもそも株式を発行してお金を集めるという行為に詳しい人は少ないと思うので、ここからちゃんと説明しよう。

株式を発行して資金を集める(所謂エクイティファイナンス)を行う場合、多くの規制がある。投資詐欺などを防ぐ目的だ。一般的に集める金額が大きくなり、投資家の数が増えるほど規制は厳しくなる。

特に1億円以上を50名以上の投資家から集める場合、最も規制が厳しくなる。具体的には株式発行時に有価証券届出書という書類を関東財務局に提出し、その後有価証券報告書という書類を毎年関東財務局に提出し続ける必要がある。

毎年決算を締めて、法人税や消費税の納税業務を行う傍らで、100ページ以上にも及び有価証券報告書を作成し、さらにこの有価証券報告書が正しく作られているか会計監査を受け続ける必要がある。

この書類の作成は超絶大変。色々お金もかかる。具体的にはこれらの書類を作る人を雇う必要もあるし、監査だけでも最低3,000万円はかかる。

ちなみに、今回カブアンドピース社が関東財務局に提出した有価証券届出書の表紙が以下↓
株式を発行して不特定多数のユーザーから30億円調達しようとしていることが見て取れる。従って、有価証券届出書を提出及び開示しているわけだが。


III. 株式を配るスキームに迫る

ここからが本題。

一般的に株式を発行することとお金を集めることはセットで行われる。
今回のケースで言うと6億株を1株5円で発行して30億円を集めようとしている。

しかし、、どうやら30億円相当の株式を発行するが、30億円の現金がカブ&ピース社には入ってくるわけではなさそうだ。

そもそも株式発行は資金を調達を目的としている。それを事業に投下して、顧客に価値を提供し、利益を得て、更なる事業投資を行いつつも、残った利益を会社オーナーである株主で山分けし、会社を大きくしていくことを前提にしているからだ。

この前提に立ち返ると、最初の種銭がないと事業も立ち上がらない。従って、株主になるには事業に投下するお金を払い込むことが必須である。

この点、会社法では必ずしもお金を求めているわけではない。事業に投下できる何らかの「財」であれば出資の対価とすることを許容している。

では、「株式を無料で配る」と主張しているカブ&ピースの株主になるには何を払い込むのか?

ここがかなりテクニカルなのでちゃんと説明しよう。流れは以下。

  1. ユーザーはカブ&ピース社のサービスを利用すると株引換券がもらえる。家電量販店のポイントや飛行機のマイルのように。

  2. その株引換券を前払式支払に手段交換する。(前払式支払手段とは、SuicaやWAON、ビール券やデパートの商品券のように先にお金を払って後から商品やサービスを受け取れるポイントやチケットのこと。)

  3. この前払式支払手段をカブ&ピース社に払い込むことで晴れてカブ&ピース社の株主になれる。

というやや複雑な仕組みとなっている。

なんで株引換券を株と直接交換できないの?

こんな疑問は当然わいてくる。その答えは、株引換券は事業に投下する「財」にならないからだと考えられる。

株主になるには通常会社にお金を振り込む必要がある。お金でなくてもお金と同等の「財」である必要がある。事業に投下できなければ意味をなさないからだ。

別の言い方をすると、バランスシートに資産として計上できるものでなければ、資本の定義を充足しない。

株引換券は株式と交換できる権利であって、カブ&ピース社にとっては資産になり得ない。
他方で、株引換券と交換される前払式支払手段は資金決済法によって定義された「対価の弁済のために用いることができる支払手段」であり、文字通り、お金を先に払っていることから=金銭によって裏打ちされた「財」とみなすことができる。

先に例示で挙げたSuicaやWAON、ビール券やデパートの商品券を考えてほしい。これらは必ず先にお金を払い込んでいることから、日本中のスーパーマーケット、コンビニ、酒屋、百貨店で幅広く金銭の代わりに利用することができる。

この法的にも認められた「財」と株引換券を交換し、株引換券ではなく前払式支払手段の形を取った「財」を会社に払い込むことによって、実質的に株式を買ってもらうことなく無料でカブ&ピース社の株主になれる。
これが国民1億株主計画の骨格となるスキームだ。

さらに突っ込むと、

ここからは僕の推測も多く含まれるため、話半分で聞いてもらいたい。
僕が注目したのは「第三者」の前払式支払手段発行業者という点だ。

つまり、カブ&ピース社以外の第三者がこのスキームに協力しているという点だ。

この前払式支払手段の発行は金融庁への登録が必要となっており誰でもできるわけではない。ユーザーからお金を先にもらうため、社長がお金を持って逃げるというリスクを回避するためだ。

現在836者が登録しているが、各地の商工会議所、商店会連合会といった文字通りの金券を配りそうな団体が名を連ねている一方で、最近のフィンテック関連の会社もこの登録を行っている。

そこで目につくのは、PAYPAY株式会社だ。
(僕らが日々使っているPayPay(のうち一部)はこの前払式支払手段に該当する。)

ZOZO社をYahoo社に売却した過去のつながりなどを踏まえると、PayPayがこの「第三者型」の前払式支払手段の当事者として絡んでくるのではないか?と勝手に予想している。

この登録業者が金融庁のHPで誰でも見ることができるので、気になる方は是非一度ご確認いただきたい。

https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/daisan.pdf

IV. 発行する種類株式

最後に発行する株式について軽く見ておく。
今回カブ&ピース社が発行するのは6億株。しかも種類株式。
つまり、種類株式を6億株発行して、30億円を集めることがこの資金調達の全容だ。

少しだけ種類株について触れておくと、、
株式には配当を受け取る権利や株主総会に出て議案に賛成や反対票を投じる権利といった様々な権利があるわけだが、この株主の権利のすべてが認められた普通株式と、その配当や議決権について権利が制限をされた種類株式と2つの株の種類がある。ユーザーに配る株は後者の種類株である。
以下で、どのような権利が制限されている株式なのか、その種類株の内容について見ていく。

配当

普通株主と同じ条件で支給される。

残余財産分配

会社を清算した時に会社に残った財産を株主に分配することになるが、これを受け取れる権利がない。

議決権

なし。株主総会に出て議案に賛成や反対を投じることができない。つまり、会社経営には口出しすることはできない。

上場時

普通株式に転換される。これは上場を目指して外部の株主から資金調達をする際には一般的な条項だ。折角上場するのに市場で流通できない株式を持ち続けられるのが都合が悪いからである。

反社が株主になってしまった場合

株式を強制的に取り上げる。

強制的に顧客からされた場合

会社がお金を払って株式を買い戻す。なお、他の顧客株主が「私のも買い取ってくれ!」と言ってきてもそれには応じることはできない。

譲渡制限

株式は勝手に売り買いできない。売買したければ、カブ&ピース社の承認が必要になる。


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