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ルールメイキング・サミット2023…何だ⁈この熱気は!

〇ルールメイキング・サミット2023(令和5年9月24日)

生徒を中心とした校則見直しの動きがこれだけ大きなものとなると数年前に予想していた人がどれだけいたでしょうか。

会場の前の方の半分は、全国からルールメイキングの取組に関わる学校の生徒と教師でぎっしり。後ろ半分の一般観覧者等の席も多くの人々によって埋まっています。

プログラムの中では、壇上のルールメイキング・サポーターに対し、会場の中高生から熱意のある発言がなされていました。

認定NPO法人カタリバの校則見直しの取組は、令和元年度(2019年度)から経済産業省(?)の「未来の教室」の実証事業に採択されていますが、令和元年度の実施校は3,4校だったとのこと。令和4年(2022年)6月時点で、ルールメイキング実践校は全国127校、令和5年のルールメイキング連携校は252校とされています(いずれもカタリバによるサミットでの配布資料より)。

今回のサミットには、経済産業省の後援、SoftBank、salesforce、CHOICE Hotels JAPAN等の協力で、25都道府県、44校から106人の中高生が招待されたとのこと。昨年が第1回でオンラインと対面のハイブリットで開催され、今回は全面的に対面でやる最初のサミットとなり、桜美林大学新宿キャンパスのセンテナリオホールに多くに人々がつめかける形となりました。

総合司会は、カタリバでこの事業を熱心に進めて来た古野香織さん。J-CEF(日本シティズンシップ教育フォーラム)の仲間で、何度か私もお話をさせていただいてます。

ルールメイキング・サミット開会式

校則見直しに熱心な学校、教師、生徒が来ているわけですが、はっきり言って、ついこの間まで、ツーブロックという髪型が禁止されているのが普通で、それをどうこう言うこと自体が考えられなかった中で、え?と思うだけでなく、校則の見直しという、普通「めんどくさい」と思われることにも熱心に取組む人々、それに興味がある人々がこれだけ集まり得ることを目撃できることは、私のような外にいる者にとって、大変大きな機会だったと思います。

主権者教育の立場からは、「こども基本法(令和4年法律第77号)」の登場前から校則見直しに取組むことはあり得ました。しかし、え、そんなこと何故やるのという反応もあったと思います。
令和4年(2022年)6月に「こども基本法」が成立し、その第3条の基本理念には、こどもの意見表明、社会参画、意見の尊重等が掲げられ、同年12月に改訂された文部科学省の「生徒指導提要」には、児童の権利に関する条約、その4原則、こども基本法の理念の理解等とともに、「 児童生徒の参画」として、「 校則の見直しの過程に児童生徒自身が参画することは、校則の意義を理解し、自ら校則 を守ろうとする意識の醸成につながります。また、校則を見直す際に児童生徒が主体的に 参加し意見表明することは、学校のルールを無批判に受け入れるのではなく、自身がその 根拠や影響を考え、身近な課題を自ら解決するといった教育的意義を有するものとなり ます。」等が掲げられました。ようやくこれらにより、お墨付きを得たということにもなります。とは言え、「こども基本法」施行(令和5年4月)の年の9月に、このようにホールいっぱいに人々が集まるというのは、これまでの関係者の努力の賜物と考えます。

サミットの内容は様々のメモしたくなる言葉が多数出る等、大変興味深いものでしたが、ここではそれらを全部掲げることせず、プログラムの概要と特に印象的なことだけを掲げたいと思います。

総合司会の古野さん、てきぱきと明確な発言で大変良かったです。ちょっととハイテンションだったかな。

カタリバ代表理事の今村久美さん、活動はじめて22年とのお話でしたが、実に落ち着いて、常に的確な発言をされていたように思います。

哲学者で、教育学者で熊本大学教育学部准教授の苫野一徳さん、ルールメイキングの指針となる「みんなのルールメイキング宣言」の監修をつとめたということで、まさに精神的支柱という感じでした。中高生から著書へのサインをお願いされていました。

  • 今回のサミットでは、いろいろなタイプのルールメーカーがいるという印象。チームを組んで一緒にやれば相乗効果が生まれる。こういう場で様々なタイプがあることを知ると、一気にレベルが上がる可能性がある。大きな希望。

  • 民主主義社会の基礎として大切なのは、「自由の相互承認」。他者の自由を侵害しない範囲で「みんな自由でみんな良い」。

  • 言葉は大切。伝わる言葉、伝え合う言葉をどうやって見つけ出すか。「私はこう思うが、貴方はどうですか」と。

  • 「最上位目標」の教師と生徒の共有が大切。お互いに自由になるにはどうしたら良いかということ。ルールメイキング宣言の3つの柱:憲法(§13)、教育基本法(平和と民主的な市民を育てる)、こどもの権利条約(意見表明)。根拠を持って話しをする。

為末大さん。インスパイアセッションで司会を務める関係からか、ご自身の考え等はあまり出さなかった印象がありましたが司会は的確で、最後にオリンピック参加者で、世界大会のメダリストならではの印象的な言葉もありました。「本質的な成長は葛藤の中にある。もやもやは成長のあかし。大人になっても変わらない。正解はない。私はこんな夢がある。こんな未来が良い。私たちの夢、どうすれば良いか。皆で考えよう。」

一般社団法人HASSYDAIsocial代表理事の三浦宗一郎さん。ヤンキーインターンの講師、少年院での取組等から来る熱い言葉が示されました。

石山アンジュさん。2018年10月ミレニアム世代(Z世代のちょっと前?)のシンクタンク一般社団法人Public Meets Innovationを設立し、新しい家族の形「拡張家族」を掲げるコミュニティー一般社団法人Cift代表理事との肩書で参加。実は私の主たる取組分野である立法過程論からすると、今回のサミットのキーパーソンと言えます。後に述べます。
「相手の心が変わる瞬間をもたらすものは、一つは具体的なコミュニケーション。言葉を変える、伝わる言葉を用いる。もう一つは、心に響くシーンをどう作るか。人間は「感情で理解できる」存在でもある」との旨の話は特に印象的でした。

インスパイアセッション 左から今村さん、為末さん、苫野さん、石山さん、三浦さん。

プログラムは、サポーターによるインスパイアセッションが50分ほどなされた後、教師等のセッション、生徒によるアイディア発見分科会(2つ)が40分ほどの後、全体でクロージングセッション。

なお、一般観覧者を入れての14時からの開会式の前に、生徒とボランティアのファシリテーターとして参加した教師による、「100人100物語ピッチ」というものが12時35分から13時55分まで行われ、生徒がグループに分かれ、1人2分間の自由な発言を行っていました。

アイディア発見分科会
手前の方では、今回のサミットでアイディアを得たという中高生が企業人と懇談。

3つの分科会、はしごで見て回りましたが、どの部屋も熱のこもった話が行われてました。

協力企業のソフトバンクやセールスフォース等の社員が、生徒たちと話をするところでは、生徒たちの元気なプレゼンの声が響いてました。終わってから社員の方に聞いたところ、「こどもたちの熱意が凄かった」とのこと。

一番興味深かったのは、教師の分科会。一般的には校則見直しなんてやらないで済めば先生方も楽に違いなく、多くの教師の人々もそう考えているだろうし、見直すことに反発する教師も多いと思われます。そうした現実が垣間見れる分化会で、生徒と学校側(校長や他の教師たち)との間で苦悶する方の話も出てました。一方で参加していた教育委員会の方が、教育委員会としてできることを模索したいとの話もありました。

クロージングトークでの三浦さんの話。「元気を犠牲にしない。貴方が元気であれば何でもできる。最後は気合!ここには仲間がいる。仲間の巻き込み方が大切。孤独感があるかもしれないが、持ち合った時に熱量が生まれ、それが大切。」等の話。ルールメイキングに取り組んで、落ち込んでいては意味がない。元気を維持し、「ミッションに自分が支配されない」ことが大事との言葉、イイなと思いました。

〇「ルールメイキング」の位置づけ

さて、少し話を変えます。
立法過程が主たる研究分野の私にとって、「ルールメイキング」という言葉に最初に接したのは、「イノベーション起因のルール作りロビイング」という文脈でした。

平成29年(2017年)8月25日の日本経済新聞では、「イノベーションの時代のロビイストは、かつての単純な利益誘導とは異なる役割も担う。時には当局に最新技術動向を提供し、対応が追いつかない当局とともにルールを作る。そんな重要性が再認識されつつある。」とし、スマートフォンアプリ大手のLINEが主導した「情報法政研究所」、音楽・映画レンタルのTSUTAYA等のカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の「政策企画部」、多摩大学の「ルール形成戦略研究所」、平成29年4月に発足した自由民主党の「ルール形成戦略議員連盟」等を掲げてました。(「イノベーションとルール(4)増えるかロビイスト 技術革新、政治を動かす」2017年(平成29年)8月25日、日本経済新聞。)

平成28年(2016年)のイベントTHE BUSINESS DAYでは、「ビジネスに追い風をもたらす!ロビイングのはじめ方」という発表がなされ、法律を所管している行政機関・省庁等とのつきあいを「特にリソースが限られた中、新しい業界・市場を創り出すスタートアップ企業においては、事業を推進する重要な要素と」なるとし、ロビイングについては、「何か新しいビジネスを始めたいけど、古い法律に規制されてできない。どうにかして法律を変えられないかを働きかけること」、「新しいテクノロジーやビジネスについて、政府の後押しで世の中の認知や理解を上げていくこと」、「既存の法律に自分の会社が引っかかりそうだ、または違反をしてしまったとき、役所と対応していくこと」、あるいは、「社会から注目されやすいビジネスをやっているので、社会的責任も問われる(略)このセーフティネットとして、協会でガイドラインをつくるような、いわば“守り”の活動」、「社会課題の解決につながるような、女性活躍や働き方改革、地方創生といったテーマに対して、「政策提言につながる意見を聞かせて欲しい」との要請に応える付き合い方」等の言及がなされていました。(インターネット上で、中古品や不用品を持ち寄って売買や交換をするフリーマーケットのアプリの運営会社メルカリが主催。(http://mercan.mercari.com/entry/2016/12/20/110000)「何か新しいビジネスを(略)」等3つ目までは、技術やサービスの普及啓発広報やロビイングを専門に行うマライカ株式会社の藤井宏一郎代表取締役社長の発言。「社会から注目されやすい(略)」等残り2つは、インターネット上で、個人間や個人法人間で仕事を取引する仕組みを提供している企業であるランサーズ株式会社の曽根秀晶取締役の発言。)

今回のサミットで、カタリバの今村さんは、石山アンジュさんを、学校でのルールメイキング(校則見直し等)をやっている生徒の活動の参考のために、社会でルールメイキングの活動をやっている方に来てもらった旨の説明をしていました。ここで、学校での校則見直し等のルールメイキングは、社会でのルールメイキングに連なるものとの認識が当事者によって明確に示されています。
X(旧ツイッター)での「みんなのルールメイキングサミット」のアカウントでも、石山アンジュさんを「シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイル提案や、政府と民間のパイプ役として規制緩和や政策推進にも従事しています」と紹介してます。

石山アンジュさんは、シェリング・エコノミーの文脈で様々なアドボカシー活動をされて来た方との認識が当方にもありましたが、冒頭、既存の法律の世界で想定されていなくて違法とされていた民泊を認めてもらう活動等についての説明をされてます。これは、まさに「イノベーション起因のルールメイキングロビイング」です。
そうした社会でのルールメイキングの活動の経験から、校則見直しのルールメイキングに役立つような助言をするという立場でずっと話をされていました。
クロージングトークでは、「ルールメイキングに正解はないし、正攻法はない。方向性は共有できても、個別に事情は違う。だからこそ、取組みの共有の場は必要。話し合う場は大切。」とし、更に「学校での校則見直しのルールメイキングは大切だが、社会にも、いろいろ課題はある。皆さんの身の周りの、例えば、歩道。通りにくいところ等があるかもしれない。誰が作って、何でそうなっているか。視野を広げて、学校でのルールメイキングを日常生活におけるルールメイキングに広げてもらえれば良いと考える」旨の発言がありました。

主権者教育→校則見直し→こども基本法による後押し→社会でのルールメイキングへの展開という、私が思い描いていた姿の話が目の前でなされていたのは、嬉しかったです。

もちろん、それぞれ一つ一つの取組は難しく、様々な葛藤があると思います。でも、三浦さんも引用(?)した、「元気があれば、何でもできる」の言葉に希望を託して、明るい明日を期待したいと思います。私は、職員として、猪木寛至参議院議員の声を直接聞いていることもありますので、やはりこの言葉を掲げたいと思います。
1、2、3、ダ―ッ!

ルールメイキングサミットの関係者の皆さん、お疲れ様でした。
今村さんの今回のサミット最後の言葉は、「来た時よりも明日が楽しみになりましたか?」「明日の日常の作り方が大切。それを支えたい。」


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