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雑誌『ゲンロン』

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雑誌『ゲンロン』に掲載されている論文や小説の感想です
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#推薦図書

葛藤をとりもどせー東浩紀「訂正可能性の哲学2、あるいは新しい一般意志について」を読んでみた

陰謀論、フェイクニュース、ポピュリズムが蔓延したディストピア。 人間がつくってきた世界がこんなにも荒涼としていて、もはやどうすることもできないのなら、AIにもっとましな世界をつくってもらおう。ラッキーなことに、二十数年後には人間より機械の方が賢くなることだし。 現在大きな影響力をもつ論客(落合陽一、ユヴァル・ノア・ハラリ、成田悠輔)たちは、ざっくりいうと、このような考え方に基づき新しい制度、機械に判断を委ねる民主主義(「シンギュラリティ民主主義」)を提案しています。 シンギ

手でみるー鴻池朋子「みる誕生」を読んでみた

私はアートとは縁遠い生活を送ってきていまして、現代アートが何をしているのか、ほとんどわかっていません。 そんな私が一人の現代アーティストの文章と出会いました。 その文章は、定期購読している雑誌にたまたま掲載されていました。 こういう偶然があるから雑誌はやめられません。 出会ったのは鴻池朋子の「みる誕生」。 雑誌『ゲンロン13』(2022年10月)に掲載されていました。 読むと、アーティストが何をやろうとしているのか、ちょっとだけわかったような気がしました。 それは、純文学

主語が「私」になる前にー星泉「羊は家族で食べ物で」を読んでみた

明治神宮で絵馬に興味をもったチベット人がいました。 その人が絵馬に願いごとを書きました。 私が今まで神社で願っていたことといえば、私とせいぜい家族の幸せくらいでした。人類、いや日本人の幸せですら願ったことがありません。 なぜそのチベット人は全生き物の幸せを願うことができたのか。そのヒントをもらえる文章に出会いました。 それはチベット語学者 星泉の「羊は家族で食べ物で」(『ゲンロン13』2022年10月)です。 「羊は家族で食べ物で」によると、チベット人に比べて私が小さ