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#空飛べ、“たい焼き君”

昔、“自分は海を自由に泳ぎ回りたい”と言って、ここの御主人の目を盗んで、海に逃げ出した仲間がいた
最初は、他の仲間も“自由になりたい”と叫んで、どうにかして逃げ出そうと企てた奴もいた
しかし、続けて逃げられては堪らない店の主人は、窓や玄関を厳重に閉めて、二度と逃げられないようにしてしまった
そのせいか、後に続く“たい焼き仲間”はいなかった
そして海に逃げた仲間からも、
何の連絡も無かったので、だんだん皆の記憶から忘れ去られていった

さてさて、あの逃げた“たい焼き君”はどうなったのだろう?
まだ元気よく、世界中の海を楽しく泳ぎ回っているのだろうか?
歌も大ヒットして、行くところ 々 で、大人気になっているのかもしれない
それとも、お腹の餡子の匂いを嗅ぎつけた、他の魚の餌食になってしまったのかもしれない
どっちにしろ、何の音沙汰もないので、誰にも分らない

そこで考えた
海に逃げるのも、一つの手だが、如何せん敵が多すぎる
おまけに、水の中だと体がふやけて溶けてしまうかもしれない
そこで、部屋の中をぐるりと見回してみた
すると、天窓の1ヶ所のガラスが割れて隙間風が吹き込んでいることに気づいた
“よし、あそこから飛び出して、大空に向かって脱出しよう”と計画した

脱出の日が遂にやってきた
フライパンから飛び出し、割れたガラスの間を、潜り抜けて見事大空へ飛び出した
ちっちゃなヒレをバタつかせて、風にのり大空へ舞い上がった
空の上から眺める世界は、とても大きく、お陽さまに照らされて、眩しく光っていた

“なんじゃ、ありゃ?”
カラスに見つかってしまった
餡子の匂いに誘われて、カラスの真っ黒な群れが、“たい焼き君”めがけて襲い掛かってきた
飛ぶこと自体、初めてで苦手な“たい焼き君”は、すぐに追いつかれてしまった
お腹にくちばしが刺さるごとに、お腹の餡子が食べられて少なくなっていった
とうとう、お腹の餡子は全部食べられてしまい、餡子が詰まっていない顔と背びれと尾ひれだけの、なんとも不格好な姿になってしまった

飛ぶこともままならず、風の吹くまま流されるしか手はなかった
下を見ると、自分が逃げ出した家の窓が見えてきた
力尽きた“たい焼き君”は、ひらひらと舞い落ちて、もと居たフライパンの上に無事着陸した

御主人は、“お帰り”と優しく迎えいれてくれた
そしてカラス達に食べられてしまったお腹に、いっぱいの餡子を付け足してくれた

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