「根っからのポジティブ」

 名前をぼやかしてもきっとわかる人にはわかってしまうので先に言ってしまうが、スポーツライターの生島淳氏(プロフィールを確認したら、同い年だということがわかった…)がNumberWebにラグビーに関する座談会の様子を寄稿していた。その中で、生島氏は日本のラグビーファンを大きく三つに分類している。
 第一世代は1980年代のラグビーブームを中心にした世代、第二世代は2015年のラグビーワールドカップ以降の世代、そして第三世代は2019年のラグビーワールドカップでファンになった世代。座談会に参加していた糸井重里(第二世代)が、ラグビー通といわれる人たち(第一世代)から、「日本代表にとって簡単な試合は一つもない」と言われたことに端を発する生島氏のファン世代の分析である。曰く、「145点の惨敗」(ブルームフォンテーンの悲劇)の記憶がある世代は非常に慎重だが、第二世代以降は「日本は強い!」というポジティブなマインドで見ているというのである。
 例として、2018年秋に日本代表が東京・味の素スタジアムでオールブラックスと対戦したときのことが挙げられている。第一世代からするとオールブラックスには勝てるわけがない相手(1987年には4対106、1995年には17対145で敗れている)なので最初から負ける前提で試合を見ている。しかし、そのときの味スタは後半7分にトライを奪われ19対43となった時点で観客が負けを悟った雰囲気になったという(最終スコアは31対69)。つまり、後半7分になるまでは「勝てるかもしれない」と思っていたことに、生島氏は驚いている。

 さて、私はもろに「第二世代」である。ラグビーの経験は全くない。
 ブライトンの奇跡が起きた日の朝、妻と私は息子の高校の体育祭に出かけた。ただ、どうやら大変なことが起きたらしいというニュースは目にしたので、なんとはなしに日テレの放送を録画予約しておいた。息子の体育祭はほどほどに見て、早々に家に帰ってくると、録画した日本対南アフリカ戦を見始めた。楽しみにしていたとかそういうのでもなく、何も見るものはないしなんとなく見てみようか、レベルの観戦だった。
 見終わると、夫婦ともに興奮していた。息子が体育祭から帰ってきたら、また一緒に録画を見た。息子も当然のように興奮した。一家全員がラグビーファンになっていた。ワールドカップの日本戦は全部見たし、J SPORTSにも加入したし、日本ラグビー協会のファンクラブ会員にもなった。トップリーグの試合を見に、サンウルブズの試合を見に、何度も秩父宮に足を運んだ。ワールドカップ日本大会では4試合観戦することができ、現地でベスト8へのカウントダウンを一緒に叫ぶ幸運にも浴した。今年は釜石に行ってトップリーグを観戦したあと宝来館に泊まる予定だったし神戸で日本代表戦を観戦した翌朝は世界一の朝食を食べる予定だったがコロナのせいでキャンセルになった。

 2018年秋のオールブラックスとの試合はこれも現地で見ていた。その直前に横浜で行われたブレディスローカップ(オールブラックス対ワラビーズの定期戦)ではオールブラックスはフルメンバーだったが、日本を相手にしたのは2軍か3軍かというような若手中心だった。せめてダミアン・マッケンジーくらいはいてくれないだろうかとほのかな期待を抱いていたが、それもかなわなかった。それでも、冷静に考えれば日本代表はオールブラックスには勝てないだろうということもわかっていた。
 でもたぶん、後半7分にがっかりした人間の一人だ、私は。

 いやね、わかってるんですよ、第二世代も。だって、2015年からこっち、代表の試合とサンウルブズとでどれだけ負けてきたことか。代表は、スコットランド代表にもアイルランド代表にも全く歯が立たなかった。サンウルブズはライオンズに90点以上とられて負けて南アの協会から「真面目にやれよ」的に怒られるし、秩父宮で見たサンウルブズ対チーフスは確か50対3くらいだったが、点差以上に手も足もでなくて一番がっかりしたことを覚えている。キックを蹴っては相手にボールを渡すし、いい攻めをしていると思ったらポロポロとボールをこぼすし、ラインアウトはボロボロだし…。第一世代ほどではないけれど、第二世代もちゃんと見続けている人は結構しんどい思いをしてきたつもりだ。
 でも、代表やサンウルブズの試合を見るときは、必ず「勝つ」つもりで試合を見る。もちろん彼我の差は十分承知しているので、負けて当たり前だが、それでもよい戦いをしていれば満足する。次につながる戦いをしてほしいと思う。2019年のワールドカップはベスト8に進出することができたが、これがプールB(ニュージーランドと南アフリカがいる)だとさすがに難しかっただろう。それでもいい戦いをしてくれていれば満足はしたと思う。そして、目標達成は2023年に持ち越しだね、とまた秩父宮に通っただろう。

 どんな強敵だろうが、「勝つ」つもりでやらなければ本当に勝つことはできない。どんな困難だろうが、乗り越えられるつもりでやらなければ克服はできない。敗れたら何がダメだったかを分析し反省して、はい、次。その繰り返しで、いつか「勝つ」。

 ラグビー日本代表は、見事な改革をやってのけた。実績をあげ、結果国内の組織体制の改革にまで導いた。今後どうなるかはわからないが、でも、もしかしたら世界のラグビーの枠組みすら改革していけるかもしれない。すごい。
 日本のラグビーに関わる人たちが、そういう存在であり続ける限り、私はラグビーを応援すると思う。応援といってもラグビー場で声を枯らしたり、チケットやグッズを購入して幾ばくかの支援をすることぐらいしかできないが、応援したいと思う限りはそれを続ける。そう考えている第二世代の人は多いのではないかと勝手に思っている。
 それを、「根っからのポジティブ」と言われることは違和感。

 いや、生島氏の書いていることはほぼその通り。好きなライターの一人だし、今後も生島氏の書いたものは楽しく読むだろう。それに、生島氏はちゃんと気づいているし、変化を歓迎してくれている。うれしいと思ったからあんな記事を書くのだろう。
 でも、一方で、変化を歓迎しない昭和世代はいまだに多いし、それなりの立場で実権を握っていたりする。変化を提案しても「そんな簡単にいくわけないだろ」と却下する。きっと、あいつ「根っからのポジティブ」だなと思われているのだろう。そうじゃねえわ、と怒鳴りつけたい気分だが、こちらも目上の人に無礼な態度をとれない昭和世代ではある(いや、平成世代でも同じか)。結果、フラストレーションばかりがたまっていく。

 結論。単なる愚痴でした。
 ああ、早くラグビーを観に行きたいなあ…。

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