ChatGPT/生成AI全盛期における日本のスタートアップ/事業者の選択肢【朝倉裕介さんx尾原和啓】
元ミクシィCEOでベンチャー投資・アニマルスピリッツ代表パートナーの朝倉 祐介さんのPodcastで 生成AIの事業活用に関しての対談を書き起こしです
(Thanks to Kumiko Hashimoto -san)
◆朝倉 祐介「論語と算盤と私とボイシー」
◆日時:2023年6月23日
◆音声リンク:https://r.voicy.jp/LMKx2Yez9yo
◆目次
生成AIのインパクト
日本のスタートアップにおける生成AIの可能性
LLMの使用とビジネスへの影響
既存のAIモデルか独自開発か?
スタートアップの勝ち筋
生成AI導入の切り口
生成AIとクリエイティビティ
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生成AIのインパクト
朝倉祐介氏(以下、朝倉):今日はゲストにお越しいただいています。みなさんお馴染みかと思いますが、尾原和啓さんです。どうぞよろしくお願いします。
尾原和啓氏(以下、尾原):よろしくお願いします。
朝倉:今日はお越しいただきまして、ありがとうございます。先日、尾原さんとは別の場で、ジェネレーティブAI(生成AI)のお話をうかがう機会がありました。その延長線上で、ぜひまたVoicyを撮りましょうという話をしていたんです。
尾原:そうですね。ありがとうございます。僕の自己紹介は、Googleやリクルート、ドコモのiモードでプラットホームの立ち上げなどをお手伝いしたというものが多いのですが、実はバックグラウンドがAIなんですよね。
大学では、まさに今のGPTのベースとなっているTransformerや、ディープラーニングの中心となったニューラルネットワークなどを研究していました。実は本業の場所なので、こうして朝倉さんとお話しできるのはうれしいです。
朝倉:ありがとうございます。30年越しの春が来たということですね。
僕のVoicyは、スタートアップ関連の方々が聞いていらっしゃることが多いと思うのですが、ここに来て一気に生成AIの波が来ていますよね。アメリカでもY Combinator(以下、YC:スタートアップの加速を目的としたアクセラレータープログラム)で生成AIの会社がものすごく増えたという話を聞きます。
尾原:そうですね。今回、YCの約30パーセントが生成AI系だったし、その半分くらいは、アクセラレータープログラムの途中でピボットして生成AI系になったくらいの衝撃があるようですね。
朝倉:それはすごいですね。
尾原:実はけっこうあるんですよ。プログラムに応募した人同士でメンバーを入れ替えることもあるくらいなので。そのくらい生成AIのインパクトは大きいです。
日本のスタートアップにおける生成AIの可能性
朝倉:その中で、尾原さんにうかがいたいことがあります。生成AIが盛り上がっている中、日本で生成AIの会社がどんどん出てきているかというと、そういう感じはしないんですよ。
すでに先行しているプレイヤーも相当いて気遅れするような状況で、今から日本でスタートアップを立ち上げる人たちには、何か切り込む余地があるのか?
あるいは、すでにスタートアップを立ち上げて「シリーズA」手前まで行っている人たちが、ピボットするなどして生成AIを取り込んで、何か新しいものを作っていく余地はどの程度あるのか? 今日はこの切り口でお話をうかがえればと思います。
尾原:まずは生成AIのベンチャー、スタートアップという観点でお話しします。
コアになるLLM(Large Language Models:大規模言語モデル)やDiffusion Model(拡散モデル)など、AIモデルを独自で作らなければならないのか、GPTや「Bard」、メタ社の「LLaMA」など、既存のものを利用しながらやっていくのか。どのレイヤーでビジネスに参入するのか。
AIを利用する時には本格的にチューニングまでするのか、「プロンプトエンジニアリング(プロンプトの開発・最適化)」までするのか。「深さをどうするか」という観点が1つです。
もう1つは、「AIそのものを競争優位性のコアに据えるのか、AIはコモディティ化していくものだから、ライバルも装着する前提で別のところに競争優位性を作りに行くのか」という観点です。おそらく、この2つが論点だと思うんですよね。
朝倉:なるほど、おもしろいですね。素人考えですが、1点目のところで言うと、例えばLLMを作るにしても、すでに先行してるプレイヤーがたくさんいるのに今さら太刀打ちできるのでしょうか?
また、ファインチューニングするのかどうかはわかりませんが、既存のものを使うと、日本のスタートアップがプラットホームに依存しすぎたが故に危うくなった歴史を繰り返すのではないか、という危惧があります。
ポジティブな面とネガティブな面があると思うのですが、このあたりはどう捉えればよいのでしょうか?
尾原:まず、前者に関して1番よく言われるのが、「自分たちで立ち上げないと、OpenAI、Microsoftが独占状態に入って、独占したプレイヤーの言いなりになっちゃうんじゃないの?」という危惧の話ですね。
現状で言えば、僕は現在のクラウドのような状況になると思うんですよね。クラウドも最初は「Amazon一強」というかたちでしたが、MicrosoftもGoogleも提供しているし、中国で言えばアリババもテンセントもファーウェイも提供しています。三者鼎立状態にまでいけば、独占というよりも企業同士が競争し合います。
例えば、スタートアップの事業をコピーして装着し続けたり、ユーザーに不利なことをしすぎたりすると、敵に回されて競争で負けてしまいますから、そこまではしてこないと思うのですよね。
朝倉:なるほど。
尾原:さらにアメリカの大きい巨頭で言えば、OpenAI、Microsoft、Google、メタ社ですが、メタ社が「LLaMA」をオープンソースで提供しようとしています。OpenAIのGPT-4は、単純に規模を上げればいいという勝負ではなく
チューニングの塊で、チューニングのところに秘伝のタレがたくさんありそうなんですね。
Googleの「Bard」などは、検索に対して非常に相性がいいという独自性はあるものの、GPTのようにものすごく深い、論理ステップのかたちではありません。このようにかなり競争差はあるんですけど、オープンソースの画像AIの進化はすごいじゃないですか。
朝倉:そうですね。
尾原:それと同じようなかたちで、結果的にはオープンソースが圧倒するのではないかという......Googleのレポートがリークされていましたが(笑)。
結論から言うと、LLMに関してはそこまで独占性を心配する必要はないので、現在のクラウドのような感覚で、大型LLMを使っていてもいいのではないか、というのが1つ目ですね。
LLMの使用とビジネスへの影響
尾原:その一方で、「LLMを使うのって、too muchじゃない?」という話もあります。例えば、現在のGPT-3.5で言えば、1回の会話で3円、うまくチューニングすると1円を切って使えるわけです。だけどGPT-4になってくると、1回の会話だけで300円くらい使ってしまうわけですよね。「これってビジネスに導入した時に、割に合うんですか?」と。
もちろん、GPT-3の価格は2年で30分の1程度にまで下がっているので、おそらくGPT-4も2年後には同様の価格帯になります。また、GPUも現在のLLMに適したチップではないので、おそらくNVIDIAやインテルが最適化したチップを提供すると思います。
ニューロチップや量子コンピュータの登場により、5年間のスパンで考えれば、価格は100分の1、1,000分の1にまで下がってきますが、ビジネスとして割に合うのかという部分があるわけですよ。
朝倉:そうですね。
尾原:そうすると、「自分の事業に特化したものだったらGPT-3でよくない?」「自分の事業に特化したLLMを作って、プロンプト化したものをアウトプットするところだけGPT-3.5に頼ればいいんじゃない?」と。
ビジネスに導入するためには費用対効果が見合わないと難しいので、適切な専門のLLMを作る判断は、これから成熟化する議論だと思うのですね。
(↓この辺の実ビジネスにあうLLMについては下記の記事も参考になります)
既存のAIモデルか独自開発か?
朝倉:今のお話をうかがっていると、現時点においてはどちらにも可能性が開かれているのかなと感じますね。
独自でLLMを構築するのも荒唐無稽な話ではないし、既存のものを使うのも、「そこまで深刻にプラットホーム依存を考えなくてもいいんじゃないの?」と。逆に言うと、既存のものを使うとすごく便利なんだけど、プロダクトとして差別化は難しそうな気がします。
尾原:おっしゃるとおりですね。GPTの衝撃は、一般的な言葉で入力すると、適切な言葉でズバッと返答してくれるところです。しかしそれを業務SaaSに導入する場合、基本的にはSaaS内のデータが入力されて、「次にやりたいことはこういうことですよね?」といったかたちのものが多くなりますよね。したがって、GPTのような大型エンジンを使う必要性の判断は、そこで行うことができるわけですよ。
朝倉:なるほど。
尾原:例えば、建築業界で業務システムに導入する時に、次に取るべき行動を判断するための材料と、その判断の難易度を考えると、GPT-3.5の1,750億パラメータを使わなくても70億パラメータくらいで十分な結果が得られます。したがって、議事録の要約など、言語加工が必要な時だけはGPT-3.5を使うということです。
専門的な判断が必要であれば業界特化のLLMを作ればいいと思いますが、ユーザーにとっては、言語で入力・出力ができると便利です。
すべてのUXにはAIが含まれているし、人とAIよりもAI同士がやり取りするようになっていきます。AI同士がやり取りする時には、そんなに丁寧な言語を使う必要がないので、業界特化型のLLMでもかまいません。
人とAIがやり取りする時に、より丁寧なプレゼンテーションやUXが必要なのであれば、汎用のGPTや「Bard」を使っていきましょう、という役割分担ですね。
朝倉:「自社のものと組み合わせる」というのはあるかもしれないですね。
尾原:そのとおりです。
スタートアップの勝ち筋
朝倉:尾原さんに論点を2点整理していただきましたが、2点目の「AIそのものが競争力なのか、別のものが競争力の源泉になるのか」についてです。
別事業なのかセクターなのかはわかりませんが、そこで軸を立てて差別化の要素を作りつつ、自動生成AIを活用する余地というのはたくさんある気がしますよね。
尾原:そうですね。AIは何のために使うのかというと、リアルの業務への接続じゃないですか。そうすると、ホワイトワーカーの仕事はほとんどが言語の加工業なので、 その部分はAIにほぼ置き換わっていくわけです。でも、どこかにフィジカルな接点が生まれますよね。
朝倉:ええ。
尾原:フィジカルな接点に関して、AIをロボットに組み込むのには技術的にも時間がかかります。また、言い方は悪いですが、ロボットの開発には費用がかかるから、しばらくはロボットのほうが高いというシチュエーションが続くと思います。
朝倉:変な言い方ですが、人間って、すごくよくできたマシーンだと思います。
尾原:ものすごく汎用的ですよね。
朝倉:こんな高度なマシーンを作るのって、大変だと思いますよね。
尾原:そうなんですよ。したがって、フィジカルな接点の部分に構造的な優位性を埋め込んでいくことが大事です。
「ペイパルマフィアのドン」と呼ばれるピーター・ティールが『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』という本を書いています。これは企業家の姿勢本だと思われがちですが、彼の強めの言葉で言うと、競争優位性の担保は独占をすることで、独占は4つだと言っているんですよね。
1つ目が「プロプライエタリ・テクノロジー(Proprietary technology:先行優位期間のある独占的技術)」。要は、他ではマネできない技術です。コモディティ化する前のAIのようなかたちですね。2つ目がネットワークエフェクトです。 「売り手が買いを呼んで買い手が売り手を呼ぶ」というものや、LINEグループのように「仲間外れにされてしまうからそこに入らざるを得ない」という、ネットワーク外部性みたいな話です。そして3つ目がスケールメリット(規模の経済)、4つ目がブランディングです。
そうなった時に、フィジカルな接点として、例えばAmazonの物流施設の自動化への投資など、いくらでも規模の経済が効く部分があります。ネットワーク効果の話で言うと、AIはデータがあるから有効に動くので、データを提供する人と、データを使ってお金を払いたい人とのネットワーク効果を作ると屈強なものになりますよね。
朝倉:なるほど。
尾原:また、BtoBやBtoCにおいて集客コストや営業コストが多くかかるのはリアルビジネスの特徴だし、ブランディングは単純に言えば、これらのコストを劇的に削減する手段になります。そのため、このようなAIをコモディティ化して、ネットワーク効果・規模の経済・ブランディングにどうスライドさせるかが大事です。
朝倉:フィジカルな接点、データ、ブランディングですね。
尾原:特に、フィジカルな接点における規模の経済が効くところはどこかです。
朝倉:これはAI云々というよりは、スタートアップの勝ち方そのものの話ですね。
尾原:はい。しかも生成AIだと開発コストが劇的に下がるので、プロプライエタリ・テクノロジーとしての先行優位期間を長めに取れる可能性があるわけです。
なので、まずはAIを導入して業務効率化を図り、劇的なコスト削減効果をもたらします。そうすれば他社よりも安く提供できるし、AIの導入によってコスト効率が改善したところで、先行優位期間で他社との差を広げて、その間にフィジカルな接点に変えていくスケールメリットを活かします。
また、他社より広告コスト・営業コストがかからない先行優位期間にブランディングを確立して、どんどん規模を追求して、最終的にはネットワーク効果が効くように持っていくということです。
(↓この辺の生成AIをライバルも装着する前提での戦略優位性の確立については下記の講座もご参考に)
生成AI導入の切り口
朝倉:そうなると、最初の切り口としては、「BtoB向けのコスト削減ソリューション」のような入り方になりやすいのでしょうね。
尾原:それが手堅いですね。YCのジェネレーティブAI系も、アカウンティング、マーケティング、セールス、カスタマーサクセス、ナレッジマネジメント、メディアが少しあったかたちで、9割がBtoB、SaaS系でした。
朝倉:そうでしょうね。
尾原:特にYCはスタートダッシュでブランディングがついてくるわけです。
そうすると、AIがコモディティ化するまでの先行優位期間をダッシュでゲットできる場所だから、頭がいい人だとそこに行きますよね。
朝倉:日本においては、いわゆるDX系の延長線上で捉えられるというか、それが最初は旗を立てやすいでしょうね。
尾原:満足している会社の産業が変革する時は、現状でもそこそこ生き残れているから、恐怖から入らないと動かないわけですよ。そうすると、DXよりも今回のAIのほうが、対応しないと死ぬかもしれない感は強いじゃないですか。なので、「対応しないと死ぬからこれを導入しましょう」ということです。
また、初期開発のコストが低く抑えられるので、個社のカスタマイズコストも低くなりますよね。まずは導入する会社の20パーセントのビジネスプロセスを入れてみて、コスト削減が実現できたら100パーセント導入する。このようなアプローチができるのも、BtoB、SaaS系においては強みなのかなと思いましたね。
朝倉:なるほど。
生成AIとクリエイティビティ
朝倉:とはいえ、大企業コスト削減というと、ワクワク感はないじゃないですか(笑)。手堅いし大事なんだけど、別におもしろくはないなと思って。
尾原:(笑)。
朝倉:逆に、「それクレイジーだね。だけど何かあるかもね」みたいな方向性はありますか?
尾原:みんな忘れがちなんですけど、MicrosoftもGoogleも「プロダクティビティとクリエイティビティに効く」と言っているわけですよ。だから、手堅く勝つんだったらプロダクティビティなんですけど、ワクワクするのはクリエイティビティですよね。
朝倉:なるほどね。
尾原:僕は10年単位で社会をどう変えるかという時に、よく言っている話があります。Instagramのおかげで、この10年で写真のセンスがめちゃくちゃよくなったわけですよ。そして、TikTokで動画のセンスがめちゃくちゃよくなっているんですよね。だとしたら、このジェネレーティブAIで何がよくなるかというと、僕は2つだと思っています。
1つは、問題を設定すれば解答のラフ案を作ってくれるから、問題設定のセンスがよくなるということです。でも、もっと大事なことがあります。お絵描きAI・音楽AIは、自分が望んだ絵や音楽に包まれるじゃないですか。なので、この10年で上がるもう1つのセンスは妄想のセンスなんですよ。
朝倉:妄想のセンス。
尾原:妄想のTikTok、妄想のInstagramになるというのは、1つの大きい場所だと思います。実際にStable Diffusionだと、理想の嫁をみんなが磨きあって、たった3ヶ月で各国の美女が生成できるようになっているわけですよね。
そこからクリエイティビティをどう具現化するかなので、その中で妄想のセンスがどう磨かれるかは、フロンティアだと思いますけどね。
朝倉:SFが劇的に発展するかもしれないですね。
尾原:しますね。しかも「Apple Vision Pro」になると、その空間の中で生活することもできるし、日常も妨げず行ききできるようになるわけなので。
クリエイティビティの非連続変化にどうチャンスを見出すかというのはワクワクするけど、ご存じのように、こっちの領域は博打みたいなところもありますからね。
朝倉:そうですね。
尾原:そのあたりをどうやっていくかという話ですね。
朝倉:ありそうだなと思いつつ、何をすればいいかまったくわからないですけど(笑)。
尾原:そうなんですよね(笑)。
朝倉:とりあえず「みなさんSFを読みましょう」という話ですね。
尾原:そうですね。それは絶対にあると思います。
朝倉:プロダクティビティに振ってコスト削減、コツコツtoBをするもよし、思いきり振って、toC向けのSFの世界を実現しようと思うもよし。いろいろ工夫のしがいがあるということかなと思います。
尾原:そう思いますね。
朝倉:ということで尾原さん、今日も短い時間でしたが......。
尾原:ありがとうございます。いつもながら濃い会話でした。
朝倉:楽しかったです。ぜひまた出ていただければうれしいです。
尾原:ぜひ、よろしくお願いします。
朝倉さんのPodcastでは、こういった役立つ情報が満載、ご興味ある方は是非、他のエピソードもフォローして聞いてみてください。朝倉さん貴重な対談の記事化ご協力ありがとうございます。
尾原もChatGPT/生成AIなど テクノロジーによるDX/起業/新規事業のオンライン講座をしており、朝倉さんやnote深津さん、LINE AIトップ砂金さんなどの講義対談、尾原の講義など300本ご興味あればこちらも
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