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その売上KPI、触れたら温かいか? 前田裕二×野呂エイシロウ×尾原和啓鼎談②

拙著「あえて数字からおりる働き方」の出版記念として、「鉄腕DASH」などの人気番組を手掛けられてきた放送作家の野呂エイシロウさんと、ベストセラー「メモの魔力」でおなじみSHOWROOM・前田裕二さんとともに、本書をテーマにした鼎談をお送りします。

「好き」でとるバランス

尾原 :お2人のすごいところは、愛あるものづくりと数字を両立させてきたことです。決して真心だけに寄るわけでも、数字だけ追っているわけでもない。

例えば、野呂さんは視聴率という、数字に縛られざるを得ないところで勝負されてきている。例えば番組会議などでも、どうしても数字を追いかけるような話は避けられないと想像するんですが。

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野呂 : そうですね、会議では、やっぱりまだ世の中にマーケティングあるんだなって思わざるを得ない節はあるかな? また、テレビは一度当たったものにコンテンツが集中してしまう傾向はあるかもしれない。「流行っている方に行こう」と。

でも、僕はひたすら「これが好き」と思うものを追い続けた方がいいと思いますね。僕の場合は、やはり純粋に「テレビが好き」という気持ちに、バランスの取りようがありますから。

だから、鮨屋はずっと鮨屋をやった方がいいと思います。そのうち寿司の時代が来るから。まあ、今パスタが流行ってるからパスタやろう、ハイボール流行ってるならハイボールねってポンポン行くのも手なんだけど。

それより、1つの好きを追うと時代がついてくるから、時代がついてくるまでやり続けるのが僕はいいんじゃないかなと思います。

前田 : 面白いですね。気持ちと数字のバランスをどうつけているのか、というお話ですね。気持ちを追求すると結果それが、数字の追求につながるという。

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具体的にSHOWROOMの例で言うと、視聴者視点で「演者の夢を応援したい」、演者視点で「ファンに感謝を示したい」といった、それぞれ相手を思いやる気持ち、“利他の気持ち”高まった時に、サービスのKPI、すなわち数字が伸びるようになっています。数字よりも、気持ちが前にきているのがポイントです。

例えば演者はファンの応援の熱量に対して、「こんなにも応援してくれているんだ」と思う。僕も「メモ魔塾(オンラインサロン)」の中心にいて、「こんなにも一生懸命やってくれているのに、僕はみんなに何にも返せてないな」って思うんです。メンバーのみなさんに。

だからもう、心から「みんなのために」って思うようになる。利他の応酬が起こるわけですね。

ファンは、演者の挑戦を応援していく中で、自己の必要性に触れ、それが滞在時間やギフトの数、という目に見える形で現れてくるわけですよね。つまり演者側がみんなのために、ユーザー側も演者のために本気で思えるような。その両者の熱が高まった時のアウトプットとして、数字がでるようになっていれば、気持ちと数字は一本の線で繋がります。

尾原 :今、前田さんが言った「数字」は、次の世代に何かを渡したいとか、応援してくれる相手、したい相手に何かを渡したいっていう、本当に大事なものを貫くための数字。だから、今言われたように利他が起きる瞬間をどう起こすかが大事なんだと思います。

本当に大事に育まなきゃいけないものを数字化して、その数字を追いかけていれば結果として後から売上だったり、フォロワー数がついてくるってことですね。

前田 :まさに。あとは単純に経営を「数字から始める」というのは、ちょっと息苦しさがあるかなとも思います。利益率をあげる、その為にロスをなくす、単価を上げる、お店の回転率を上げる、etc..というような発想も、商売の上では極めて重要ですが、それらの前に、「このお店でお客様にどんな幸せを提供したいか」っていう本気の気持ち・心が敷き詰められていて欲しいですよね。僕がお客様側の立場になったとしても、そういうお店で食事がしたい。数字の追いかけっこ、ではなく、愛の発露としての数字かどうか、を意識したい。

尾原 : カレー屋で例えるなら、毎日食べたくなる人が何人いるかとか、「野呂さん一緒に行きましょうよ」って何人の人がおすすめしてくれるか、というパーセンテージが愛の発露としての数字。

逆に、お店をどんどん回転させるために、例えば椅子をちょっと居心地悪くして、滞在時間を10分短くすることがいい、みたいなことが奴隷になる数字。

野呂 : 僕もPRとか店舗戦略を考える仕事をしていて、ある飲食店で、「あえてPR辞める」という戦略を出した。「俺のフィーを半分にしていいから、PRを辞めましょう。それが戦略です」って言って。そしたら、みんなが怒り出して。何言ってるんだって。

尾原 : 俺たち食えなくなるじゃないか、みたいな。

野呂 : 要は、PR費を教育費に回してくれと。その代わり、インスタとか全部やめてくれと。観光客は来なくていいから、今来てくれるお客さんをすごく大事にして、名刺を配ろうとか、アルバイトにも名刺渡してくれとか。

ちゃんと挨拶しよう、お客さんの名前をちゃんと覚えようって。最初はみんな嫌がっていたんですけどね。

でも確かに、インスタで写真を撮りたいだけの一回限りのお客さんに来てほしいかと言うと、そういうわけじゃない。それよりも、例えば僕のつながりでお客さんを紹介したりする。紹介だと、何かあったら僕のところにクレームが双方からくるから、結果的にいいお客さんだけがきてくれる。

だから無理にPRするんじゃなくて、丁寧に接客して地道に人の縁で繋げていこう、ということをやっていたら、このコロナでも、ちょっと売り上げが下がったくらいで、全然大丈夫だった。

尾原 : つまり、愛の発露の数字にフォーカスすれば、今みたいなつらい状況でも「この人は支えよう」というふうになるから、変化の時代は愛の発露の数字が強いってことですよね。

野呂 : その店はワイン屋さんなので、みんなでボトルいれたりしてね。「いつか飲むからさ」って、ボトルキープを大量にした。そうすると、売上だけ立つじゃない? そういうことも考えられて、ちょっとおもしろかったんですけどね。

逆に、数字を追うだけの話だと、例えば某栄養ドリンクで、タウリン1000mgとか言うでしょう。ただそれは、数字を言えばいいっていう発想かもしれなくて。

尾原 : 数字で元気になる感じがしますよね。

野呂 : だけど、レッドブルさんは「翼を授けよう」って言う。数字でアピールしないでしょ。それで売上が20倍以上違うわけです。

尾原 : そうですね。つまり、「タウリンという1000mgという数字」を飲むのと、翼をもらうっていう物語を飲むのとどちらがいいか。

野呂 : そうそう。それでレッドブルのシールを車とか、ヘルメットに貼って応援し始めるという、ファン心理がいつの間にかできちゃって。それが僕はすごいなと思ったんですよ。

降りるべき数字と、登るべき数字

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尾原 :いや、お二人のおかげで「あえて数字からおりる」の先の、「登るべき次の数字」が見つかってしまいました。

結局、みんな売上とかフォロー数とか、いいね数とか、分かりやすい数字ほど追いかけたくなって、数字の奴隷になっちゃうんだけど。やっぱり変化の時代では、人との繋がりや意味のあるものを重ねていく方が強くて。

それでも数字を追うのであれば、いっそ愛の発路を数字化すれば、その数字と一緒に育っていけると考えることもできる。これはちょっと新しい章を足したいなあと思いました。では最後に、読者へメッセージをいただけますか。

その数字は、触れたら温かいか?

野呂:やっぱり「数字は一体、何のためにあるのか」というところに戻ったわけですね。食料を分けるために始まったわけじゃん、もともと。

尾原 : みんなが支え合うための基準として、数字が生まれたわけですもんね。

野呂 : そうそう。農作業を始める時期とかを計算するためにできたものだから。そこに立ち戻ってみたらいいのかな。ただ数字に踊らされるんじゃなくて、「数字って俺たちのためにあったんだよね」っていうことを尾原さんの本で僕は気づかされたので。

ぜひとも、斜め読みでもいいから読んでみてほしい。僕はもうタイトル見た時に「やばっ」て思ったから。

尾原 :ありがとうございます! 数字に立ち戻る、何のための数字なんだっけってことですよね。前田さんどうですか?

前田 : 僕からは、2つメッセージがあります。

一つは、「”知る”という最も簡単なギブからはじめてみよう」という話。

例えば僕らが、「ギブしよう、そしてその過程で幸せを見出そう」と発信すると、「そりゃあ、前田さんも尾原さんもいろいろ満たされてきたからそう言えるよね」ってつっこみが必ずあるじゃないですか。

尾原:はい。

前田:それもすごくわかるなと思うんです。なんで自分がそんなに誰かに愛情をふりむけられるかって、それはコップから泉のように水が湧き出しているからかな、と感じています。この愛の水を、どこかに分け続けないと、溢れかえっちゃうから。その状態になっていたら、自然と利他的になる。だから、まず自分が満たされる為のアクション、つまり、「超利己」に立つ、というのも、利他を目指す上で重要だなとは思っています。

でも、かといって、「利己」が必ずしも本当に最初から利己だけで形成されているかというと、怪しいんです。利己的な幸せを追求する上でもやはり、まず利他的なギブからはじめることが大事だって尾原さんはおっしゃってて。これは凄く共感します。

しかし、それでもなお、「愛なんて持てないよ」という人もいると思うんです。だから、愛なんて壮大なことじゃなくてもいいから、本にあるように、すごくライトに、でもいい、まずは相手の好きなことを知って、それに関係する何かを、自分の心を載せてプレゼントしてみる、というのも、誰でもすぐに簡単にできるギブという観点で、良いなと思いました。

相手を「知る」って、愛とかそんな抽象的で難しい話ではなくて、極めて具体で、テクニカルなことだな、と思うんです。例えば今尾原さんが一番楽しみにしていることなんだろうなぁとか。それは想像力といってもいいい。

とにかく第一歩として、知ることからはじめると、それが自然に、利他的な行動や、数字からおりる行動につながる気がしました。

尾原:実は種明かしすると、僕は、前田さんが箕輪さんと「メモの魔力」を作っているときに、語り下ろしの議事録を書くボランティアをやらせてもらっていて。

あのとき、箕輪さんに「メモ魔力抽象化横展開」というクリティカルな言葉がおりた瞬間、僕あまりにも興奮して「ごめんおれもうこの手の本かけない」っていったんですよ。

前田:おお、覚えてます!

尾原:でも「メモの魔力」が出て1年たったときに、メモを書くことを通じて、知る楽しみが増え、どんどん外に興味が湧いていく人が増えた。

すると今度は、相手を知ることで接点が生まれるから、今度はどんなギブをすれば相手から「ありがとう」って言ってもらえるかを考えて動いていく。

そのつながりのなかで、彼らにとって何者かである自分を発見していく。そしてギブが愛の発露につながるから、愛の発露の数字のなかできちんと体温を感じられるお金が回って、営みを続けていけるといいなって。

まさに知る喜びからはじめようっていう「メモの魔力」の続きとして、実は「あえて数字からおりる」を書いた、というところがあるんです。

前田:なるほど!なんだか、嬉しいです。

そして、今回の「あえて数字から降りる」に絡めた、僕からのメッセージ二つ目ですが、それは、「その数字は、触れたら温かいか?」ということ。

常々思っていることなのですが、世の中の数字には、血の通った、いわば「体温を持つ数字」と、触ったらめっちゃ「冷た!」みたいな、ドライで乾ききった数字があるってこと。だからまず、数字を触ってみるという癖をつけるといいんじゃないかなって思いました。手で触ってみるみたいな。あくまで感覚論なので、抽象的で分かりにくいですかね(笑)

尾原 : 愛の発露としての数字は、触ると温かいってことですね。

前田 : まさに、そうです。例えば、SHOWROOMの収益が伸びている、と言った時に、その裏側には、当然演者の収益がも同時に伸びている、という事実がある。

尾原 : 売上って普通に言っちゃうと冷たい数字のように見えるけど、SHOWROOMにとっては温かい動脈だもんね。演者の。

前田 : そう、いわばこの数字は、「夢の集積」です。そういう売上って、手で触れたら温かいはずなんですよね。だから、自分が日々向き合っている数字は、触った時にどういう完食がするか、それを意識していくといいんじゃないでしょうか。

先日、タクシーの運転手さんに僕が目的地を伝えたら、「よっし」って小さくつぶやいて、心で腕まくりするのが見えたんですね。

それで興味が湧いて、「このお仕事、長いんですか」って聞いたら、もうかれこれ25年やってて、実は、元々はF1レーサーになりたかったんだと。でもレーサーって凄くシビアな職業で、自分は体格面など先天的な才能において向いてないから、諦めたと。そこには凄く悔しい、やりきれない想いもあった。

でもいま、幸せなんだ、この仕事に魂注げていて嬉しい、って言うんですよ。お客さんに「思ったよりも早く着いてうれしい」とか、「運転が安定してて上手」っていわれるのが、何よりも生きがいっていってて。なんだか、物凄くいいなぁって、涙出そうになって。

それこそ、タクシーって目の前にメーターという目に見える「数字」があり、どうしてもその数字に捉われざるを得ないイメージが強かったので。いかにこの数字を上げるか、といううことを考えて、日々、ただ車を転がしているような。

だけど、彼の車のメーターを触ったら、なんだか少しあったかそうな気がした。彼は、F1レーサーになりたかった若かりし頃の夢を、今、とにかくはやく居心地よくお客さんを届けるというタクシーの仕事に重ねて、同じく人生をかけているな、と思ったんです。運転手さんの熱弁、あまりに感動したから動画で撮らせてもらって、本当はみんなに見せたいんだけど(笑)

この働き方は、明確に、数字からおりてる。そう思います。もちろん、商売を持続していくためには、一定の数字を出さないとだめだし、数字を出してこそ、プロなんですけどね。

かといって、冷たい数字で固められた仕事になると、いつか、どこかで成長がストップしてしまうような、そんな気がしています。あと、数字の温度によって、人生の幸福度も変わってきそう。だから、時々自分に、「その数字触ったら、どう?」と、問いかけるのも重要なんだろうなと思います。

尾原:つまり、いまからできることは、まず日々の仕事のなかに愛の発露、あったかい数字はあるから、それを見つけて大きくつなげていくということですね。お二人とも、ありがとうございました!

[前田さん、野呂さんの動画で見たい方]
尾原のオンラインサロンにて先行配信、動画は限定配信中です。
初月無料で、コルク佐渡島さん、前田裕二さん、箕輪さん、けんすうさんとなどつながる時代の天才との対談や
元Google、モチベーション革命著者の尾原による10分動画解説など
楽しんでいただけたら


本鼎談の枕となった「あえて数字からおりる働き方」は
西野亮廣さんのブログでて「はじめに」がよめます
西野さんとの対談動画もブログから見られるのでぜひ


お二方のプロフィール

野呂エイシロウさん
1967年愛知県生まれ。大学時代に学生企業集団「メルブレインズ」に所属、学生マーケティングに携わる。大学卒業後、出版社を経て『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ)で放送作家に転身。現在は、放送作家として培ったノウハウをベースに戦略的PRコンサルタントとしても活躍。著書に『「話のおもしろい人」の法則』(アスコム)、『稼ぎが10倍になる「自分」の見せ方・売り出し方』(フォレスト出版)、『毎日○×チェックするだけ! なぜかお金が貯まる手帳術』(集英社)など多数。

前田裕二さん
SHOWROOM株式会社 代表取締役社長。1987年生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、UBS証券会社に入社し、11年にUBS Securities LLC(ニューヨーク勤務)へ異動。13年、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。”夢を叶える”ライブ配信プラットフォーム『SHOWROOM(ショールーム)』を立ち上げ、15年に当該事業をスピンオフさせSHOWROOM株式会社を設立。ソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受けて合弁会社化。著書に『人生の勝算』(幻冬舎)『メモの魔力』(幻冬舎)がある。

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