見出し画像

理知を継ぐ者(38) 「知らない」と「教えない」①

 こんばんは、カズノです。

【モチーフ】

 2020年末~2021年初頭のことなので、もう2年前になりますが、ある女子高校生たちの抗議運動が社会に波紋を呼びました。あるコンビニ・チェーンの、総菜のネーミングに疑義が呈されたあれです。『お母さん食堂』。
「あー、あったあった」またもやだと思いますが、ここからはこの事件を考えてみます。事件の概要はここで見られます。前半だけ読んでもらえるでしょうか。うちの連載では後半はいりません。

 ⇒事件の概要

 あまりよい記事ではないですけどね。当時のニュース記事がどうも見あたらないので、これにしましたけど、今ひとつ臨場感に欠けています(「よい記事ではない」とはそういう意味です。事実はきちんと伝えています)。
 抗議運動はオンライン署名で行われました。これです。

 ⇒抗議運動

 うってかわってライブ感のあるよい記事です。もちろん全体に抗議文としては「甘い」ものだし、そもそも文になっていないセンテンスすら混ざっていますが、でも、何が言いたいのかはすごくよく分かる、いい日本語です。山本の署名用記事にちょっと似ています。ツッコミどころの多さは負けず劣らずですが、あれも何が言いたいかはよく分かる、いい日本語です。

 それはともかく、『お母さん食堂』というネーミングには「食事を作るのは母親=女性」というイメージが無意識に表現されているのではないか、「食事を作るのは女性」というイメージの刷り込みに加担していないか、と女子高校生たちは疑義を呈します。反対意見も多かったようですが、おれはこの疑義は正しいと思います。CM「私、作る人 僕、食べる人」にケチをつけた年長者より遥かに論理的で実際的です。ただこの騒動/抗議には、気になるところもあります。
 何より、彼女たちが「高校生」だという点です。

【高校生とは何歳か】

 べつに「女子高生」「JK」の話をまともに聞くのはおかしいとか、そういう話ではありません。「女子」だから「女性の問題に過剰反応しているのでは」とか、そういう話でもありません。

 2020年当時、彼女たちは高校生でした。では高校生とは一般に、何歳くらいの人でしょう。だいたい16~18歳の人です。2020~2021年の冬場に16~18歳だった人は、つまりだいたい2002~2004年くらいに生まれた人たちだということですね。その2002~2004年に前後した時期にベストセラーになった本がありました。
 と話せばピンとくる人もいると思いますが、そうなんです、その女子高生の母親たちは、酒井順子の『負け犬の遠吠え』を支持した世代なんですよね。
 正確には、あの本を「おもしろい!」「わかる!」とした世代に属している女性が、その高校生たちの親だということです。

【勝ち犬の子】

 酒井の『負け犬の遠吠え』では、当時の女性の在り方について明確な定義をしています。すなわち、
・社会に出て仕事をし、30すぎで未婚で子どももいないオンナは「負け犬」
・恋愛から結婚を選び家庭に入り、子をなしたオンナが「勝ち犬」
 というやつです。
 当時はどこでもこの定義を聞いたものでしたし、たったこれだけの定義を根掘り葉掘り論証していくのがその本の大部分でしたが、「なるほどこんな生活のディテールにも『これが負け犬、こっちが勝ち犬』と呼べる姿が現われるものなのか(にしても酒井もよくしゃべるな)」というのがおれのその本への感想です。

 ともあれ、当時の「まあそれくらいの歳の女性」にすると、「恋愛して結婚して、家に入って、子どもをつくってやってくのが、勝ち!」だったわけです。
 いえ、もっと正確にいえば、「そういうのがやっぱり『勝ち』だということに、またなった」ですね。
 そのちょっと前までは「女性だって自立して、仕事して、男性と変わらずやっていく! 女性=恋愛から結婚→家なんて、古い!」だったんだけど、いろいろあって、あれよあれよと「やっぱ恋愛から結婚?」に逆戻りし、そうして「女性だって自立して、仕事して…」の酒井たちは負け犬宣言をしないとならくなった、わけです。

 ここらへんもまた「あったあった」系だと思いますが、年長者のかた、こういうのちゃんと覚えてます?



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?