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理知を継ぐ者(59) 正義とは①

 こんばんは、カズノです。

【概要】

 橋本治はこう言っています。
「人を裁く正義は二流の正義。本当の正義は人を笑顔にする」
 どういう意味でしょうか?
 最後にこれを考えましょう。

「人を裁く正義は二流の正義。本当の正義は人を笑顔にする」
 とは橋本の『完本 チャンバラ時代劇講座』にある言葉ですが、タイトルの通りその本は時代劇をモチーフにしています。
 若い人でも分かりそうな名前を挙げるとすると、『遠山の金さん』とか『水戸黄門』とか、『鬼平犯科帳』とかキムタクの『武士の一分』とか、まあそういうのです。そこらへんも知らない人のためにいえば、例えば戦隊ものや『風の谷のナウシカ』や『セーラームーン』とかのヒーロー/ヒロインが、ちょんまげをつけて着物姿でいるのが時代劇です。というか戦隊ものの元祖が時代劇です。ラノベもみんな時代劇の流れにあります。
 要するに、ばーんっと悪を倒してみんなで笑顔になる、ああいうラストになるのが「本物の正義」であると、橋本が言ってるのは実際それだけのことです。

「最終的にみんなが笑顔になるのだとしても、その前に『悪を倒す』をしているのだから、要するにこの正義も『人を裁いている』になるのじゃないか?」と思う人もいると思います。確かにそうです。
 では実際、橋本はどういう状況を「正義」だと言いたがっているのでしょう?

 もちろん「罪を憎んで人を憎まず」というもので、罪は憎むけど人は憎まないなら、裁かれた人だって笑顔になれるというものです。
 じゃあ具体的に、この「罪を憎んで人を憎まず」とはどうすればできるのでしょうか。あるいは、それができる「正義の味方」とはどういう人なのでしょう?

【正義の味方とは】

 橋本によるとこの答えは簡単で、「色気のある人」がそうらしいです。本人に色気があるなら、本当の正義ができてしまう。あ然とするような回答かも知れませんが、まずこれを解説してみます。

 橋本のいう「色気のある人」とは、「魅力のある人」と言い換えたほうが今は分かりやすいかも知れません。そもそも「色気」も「魅力」も性的な価値観を元にした美意識ですが、とくべつ「性的」を意識しないでもらっていいです。むしろヘンに「性的」を意識するとこの存在感は分かりません。とくに「色気」のほうはそうですね。
 これは単純に、遠山の金さんもゼンカイジャーも仮面ライダー・リュウガも、ナウシカもセーラームーンも、みんな、
「かっこいい!」
 という、そういうことです。

「かっこいい!」=「魅力のある人」、そういうものですよね。

 魅力的でうっとりしちゃう人、憧れちゃう人、もうさいこー!な人、つまりはこれが正義の味方の条件だということです。こういう人なら、人を裁かない本物の正義がやれる。
「そんなのコドモの世界観じゃないか、なんでそういうことになるんだ?」
「分断が進み複雑きわまりないこの国情、一触即発の世界状況で、仮面ライダーがどうとかセーラームーンがなんだとか、そういうのの元は時代劇ヒーローだとか、なにを言ってんだ? 正義はそうじゃないだろう?」
 と思うかも知れませんが、まあちょっと聞いてくださいよ。

【正義の意味】

 その橋本の『完本 チャンバラ時代劇講座』には、「正義」とはそもそもどういう意味か、という話もあります。

 まず「義」です。この漢字/言葉はそもそも、「姿形の美しさ」という意味だったそうです。装飾的な美を形容するのじゃなく、もっと機能的で実務的な美に関する言葉です。
 例えば同書で紹介された例でいうと、「舞の名手の舞っている姿」「その美しさ」がこの「義」にあたるものだそうです。その舞を見た、例えば剣術(剣道のことですね)のやはり名手が「…動きに隙がない。すごい!」と感嘆するような、それがこの「義」なんだと。
 今風にいえば、例えばYoutubeとかでよく見られる、「W杯 名ゴール集!」みたいのがそうです。相手方の鉄壁の守りをたくみにかわして、ものの見事にゴールを決める。ああいうパーフェクトなゴールを決めるサッカー選手の「姿形」「動作」「無駄のない美しい所作」を「義」と呼んでいたということです。




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