理知を継ぐ者(61) 正義とは③
こんばんは、カズノです。
【人を裁く正義】
「義」とはそもそも「姿形の美しさ」を指す言葉で、その美しさとは機能美を指していました。つまり機能的な「正しさ」を指していた言葉で、ゆえにこの言葉は「理に適った振る舞い」という解釈がなされ、今現在のような「理に適った考え方、理屈に適う判断」のように使われるようになります。
そこらへんもあって、英語の「justice」が「正義」と訳されるんでしょう。「justice」とはそもそも「神の意に沿う振る舞い、考え=んもう神の意にジャスト!」という考え方/意識から来ているはずですが、これがきっと日本的な「理に適ってる考え方、判断」という考え方と合致すると思えたんだろうと。
とはいえ日本の「正義」とは、神の意志かどうかは関係ありません。キリスト教やギリシア神話のような神様は日本にはいません。つまりそもそも人間のものです。ゆえにもっと現実的で即物的で、身体的で感覚的で動物的で、自然に近いものです。姿形が美しいかどうか──姿形が美しいものにはそれを美しいと思わせる何かがあるはずだという、これが日本語の「正義」の感情ですね。
*
さてそこまで分かってもらったところで、本題に戻りましょう。
橋本のいう「人を裁く正義は二流」とはどういうことでしょう。たぶんそれは、「正しいか間違いかだけで人を区別し、処断する正義は二流」だということです。
罪も人もいっしょくたにして、「おまえは間違ってるからもうダメ」と切って捨てるようなものは二流の正義だということです。では例えば、人を「正しいか間違っているか」だけで切って捨てるのは誰でしょう。あるいっときの「間違い=罪、落ち度」を「人」と同じだとするものはなんでしょう。
そうですね。誰もにいちばん身近なのは、学校です。
学校には「正しいか、間違ってるか」の二択しかありません。○か×か、それだけです。○が多いコは偏差値が高い、×が多いコは偏差値が低い、偏差値が低いコはバイバイ、それしか学校にはありません。成績の優劣だけで人まで裁いてしまう。そこで裁かれた人は、一生、うだつの上がらないままになってしまう。
つまり社会もまた、「正しいか間違ってるか」だけで人まで測っている。罪、あるいは落ち度、あるいは今の社会に適応していない性質だけで、もう一生、底辺の生活になってしまう。
あるいは業績の大幅な落ち込みや、倒産や離職や、極端な場合には自殺にまで追い込まれてしまう。
その判断って、ほんとうに正しいのでしょうか?
まあ正しいのでしょうけれど、でもその正義って、かっこいいですか?
【人を裁かない正義】
橋本のいう「人を裁く正義は二流。本物の正義は人を笑顔にする」とは、
「学校のように、正しいか間違いかだけで人のランクを決めるような制度は二流。そのランキングによって人を測ってる社会も二流。その上に行ってこその一流で、『その上』とは全員が笑顔になっている社会をつくり、おさめ、その社会に貢献していくただしさをいう」
そういう意味です。
・正しいか間違ってるかで判断するのは二流
・かっこいいかどうか、美しいかどうかで判断するのが一流
・なぜなら、機能的な恰好のよさ、美しさにはすでに「正しい」が含まれているから
これまでの話に合わせて話すとそうなります。
世の中には正義の議論がたくさんあります。アメリカが正義だ、ロシアが正義だ、保守が正義だ、フェミニズムが正義だ、民主・人権こそ正しさの尺度、ほかほかほか、たくさんあります。
それぞれは、それぞれの正義に従って自分を誇示し、相手を卑しめます。こちらのほうが民主化の偏差値が高い、あちらは低い、ランキングでいえばこちらが上だ。
一方で、そういった議論から一歩引き、そもそも正義などウソだとか、正義を名乗る人間こそ悪なのだとか、そういう話し方をする人もいます。
ただいずれにしろ、そういった議論のまずほとんどは、二流の正義に関する議論だということです。
言い換えれば、なぜ私たちがいま「正義について」語るとき、あるいは「現状で正義とされるもの」の姿をみるとき、あれこれ難しい気持ちになってしまうのかをいえば、彼らの正義に美しさがないからだということです。
ぜんぶが丸くおさまってほっとする、この「ほっとしたとき」に出る人間の笑顔を、今のどの正義も生まないからです。
生むのは、本人が信奉している正義が勝利を収めたときのヒステリックな嬌声か、敗北したときの目も当てられない落胆です。
そのような正義の姿しか見ることが出来ない部外者は、だからとうてい手放しで喜ぶことができず、「…ほんとにこれでよかったのかなあ」と思うしかないんですよね。
そうしていつか、正義とも不正義とも無関係なところにいようと思ってしまう。「もうあまり、正義とか不正義とか、そういうものとは関わりたくないなあ」と思ってしまう。
そういう「分断」もあるということですね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?