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禅語の前後:○(円相(えんそう))

 ただまるを書いてあるだけの掛け軸がある。これで、禅の神髄、悟りの境地、仏性の本質、等々の、言葉にならないものを表すのだという。

 ただ丸を描くだけではちょっと、と思うこともあったのだろう、○の隣に何か言葉を添えるケースも多いという。「円かなること太虚の如し」「天上天下唯我独尊」「花有り月有り楼台有り」…。素人考えだけど、あまり書きすぎてしまうと、円相である意味が無くなってしまうような気もする。
 江戸時代の禅僧、仙厓せんがいは、円相と一緒に「これ食ふて茶のめ」などと書いた。大福か何かなんだろうか。とても、よい。

 手塚治虫は幼少期からフリーハンドで完全な真円を描くことができた、という伝説を聞いたことがある。絵を上手く描くことにつながるらしい。
 禅僧の絵は、上手いというより、味がある、というほうが適切な絵が多い気はする。仙厓さんの円相も、へろへろした〇を描いてあるその横に「これ食ふて茶のめ」という調子なので、うん、とてもよい。

 妻が夜食に、おうどんをぱぱっと作ってくれた。
 丸くて暖かいものは、とてもよい。悟りの境地がどんなものかは分からないけれど、丸くて暖かいものであればよかろうな、などと思う。