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禅語の前後:知足(ちそく)

 知足ちそくは「足りているのを知っている」という意味合いで、古代中国の老子も「足るを知る者は富む」という言葉を残している。

 足るを知る…、自分がこれ以上には大きくなれないだろうと思うようになったのは、いつ頃からだっただろうか。なんというか、少々経験値を稼いでもレベルが上がらない、ゲームの終盤にさしかかっているような気がする。
 歳を取ることと、足るを知ることは、いくぶんか近しいのかもしれない。歳を取ることで足るを知らざるを得なくなるものか。あるいは、足るを知るとうそぶくことで、歳を取ることをまぎらかしているのか。

 この素敵な言葉について考えていて、そういう諦めや淋しさを感じてしまう、こういう日には、家族がいることを有難く思う。

友がみな われよりえらく 見ゆる日よ 花を買ひ来て 妻としたしむ
(石川啄木)

 伴侶を得たことも、僕が「足るを知る」ように感じている、きっかけのひとつかもしれない。もはや僕は、まだ何者でもない若人ではなくなっていて、それを残念に思うよりは安心に思うのだ。

 まぁそれはそうと。
 われただたるをしる、の4つの漢字を「口」を真ん中にして上下左右に組み合わせるのを、最初に発見したひとは、とっても足るを知った気分になったろうなぁ、などと思う。
 龍安寺のつくばいは水戸のご老公からのものらしいけど、あの組み合わせのオリジナルは大陸からなんだろか、それとも日本が発祥なんだろか。