させていただきます


何かと耳にする「させていただきます」。最近やたらと聞くようになった気がします。正しく使われた謙譲語はとても耳障りのいいものです。しかし、過剰な使用は卑屈な印象を与え、不快感すら招いてしまいます。そもそも「させていただきます」とはどんな時に使うべきものでしょうか。

そこには条件が必要となります。一つは自分が得をする場合。もう一つは相手の許可が必要な場合です。「打ち合わせを始めさせていただきます」と言う時は、始めるのが自分に都合が良く、相手の許可が必要な場合であったために使われた言い回しです。例えば「履歴書を書かせていただきます」。この言い方はどうでしょうか。履歴書を書くのに許可は要りません。好きな時にいつでも書けます。だからとても違和感を覚えますね。

オリンピック選手が「金メダルを取らせていただきました」と言ったらこれも違和感。
メダルを取るのに許可は要りません。もちろん、コーチや家族のおかげという思いもあるでしょう。けれどメダルを取れたのは間違いなく本人の努力のはずです。

若手アイドルがコメントを求められて、「~させていただきます」となんでも最後につけているのはいかにも不自然。事務所に言われているのだろうか。好感度が上げる狙いか。といぶかってしまいます。

ビジネスの現場でも「させていただきます」の連発を耳にします。不自然にしか聞こえませんし、活舌が難しくなるので聞いている方が苦しくなってきます。

「今日、ここに来させていただいたのは、皆様に会わせていただき、ご挨拶をさせていただくことのお礼を言わせていただきたかったからに他なりません。」ここまでくると頭痛がしてきます。それを行うためには誰の許可も要りません。勝手にやって大丈夫です。

日本語は美しい言葉です。美しさの一つのもとが謙譲語だと思います。一歩下がって相手を思いやる言葉。それが正しく使いこなせれば美しい日本人だと言えるでしょう。しかし、何にでもつけてしまうのは、何も考えていないことと同じです。考えていないのは相手を思いやっていないということ。非礼にあたりさえします。

今年、大谷翔平は賞を取るでしょうか。もし取ったら彼は何というでしょうか。
「させていただきました」でしょうか。いやいや、堂々と「取りました」と言うはずです。

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