ストレス対処法


ストレスはそもそも生きるために必要なものですが、過度だったりいたずらに長引いたりすることから好ましくない副作用が起きます。それが体や心へダメージを与えるわけです。

特に問題なのが自律神経への影響。自律神経とは血管や内臓など無意識に制御している神経システムのこと。刺激が加わると脳下垂体から副腎皮質ホルモン(ストレスホルモン)が分泌されます。刺激を最小限にするためにこのホルモンが自律神経を通して防御反応が働きます。これが過度に続くと血圧の上昇や心拍数の増加を招き、ひいては不眠、イライラ、憂鬱、疲労感などのストレス反応として出現するのです。

このストレスから心を守らなければなりませんが人はそのための心理メカニズムを備えています。フロイトによって提唱されたこの力は防御機制と呼ばれます。覚えにくい名前ですが英語のdefence mechanismを直訳したものです。フロイト没後も研究は進み、現代心理学では20種類以上を数えています。そのうち代表的なものを挙げてみましょう。

合理化
自分の行動を正当化しようとする心の動きです。誤りを指摘された時、人間は正しいとするための理屈を作ろうとします。何かと問題になる「上から目線」という態度を考えてみまししょう。これがなぜいけないのでしょうか。攻撃だと受け止めた相手は瞬時に防御に入ります。上から目線でものを言えば本来の目的であるはずの納得は得られません。得るのは反発だけ。合理化のために作り出された理屈の群です。大切なのはそれが防御であると理解することです。

知性化
感情を直接表現やしたり行動したりすることを避けるために理論化しようとする心の働きです。
例えば片思いをしている青年がいたとします。「あなたが好きだ」と相手に告白することに不安や恐怖を覚えた場合、心理学書や恋愛本を読んで自分の熱情を満足させるかもしれません。これも一つの防御です。

逃避
明日、試験だというのに無性に映画を見たくなる。病気を治すために手術を受けなければならないのにその日を先延ばししてしまう。電車の中で痴漢を見かけても見なかったことにする。困難や危険を感じる状況から安全な状態へ移ろうとする心の働きです。

否認
現実を認めないこと、受け入れないことで身を守ることです。例えば愛する人の死。その衝撃を受け入れれば心は破壊されるかもしれません。否認することで守り、時間をかけて徐々に受け入れていく。人はそうした方法を無意識のうちにとっているとされます。

このように防御機制は数多く分類されていますが。その中に私が最も重要視するものがあります。それが「昇華」です。

ドラマ「半沢直樹」では「倍返し」「10倍返し」という言葉が流行しました。やられたらやり返すのは受けたストレスを胡散無償させる確実な方法です。

けれど現実にはそうしたことはできません。昇華とは反社会的な強い思い(攻撃的な性欲・欲求、排他的な思想など)を社会に認められる形に変えてしまうことを言います。仕事に熱中することで解消する、スポーツや勉学で解消する、といったことです。

ゴッホは自分の中に潜む狂気をキャンバスにぶつけました。太宰治は苦悩をペンに込めました。作家の村上龍はこんなことをインタビューで答えています。

小説を書くのは自分を掘り下げていく行為である。しかし掘り尽くしてしまうと、もう何も出て来ない。何が苦しいのか。何を悩んでいるのか。何が理不尽なのか。創作の原点を自分の中に探すが見つからない。そんな時、何かにストレスを感じればそこに光明を見出せる。

この見方、うらやましい気がします。人はストレスの無い生活を夢見ます。なのに、ストレスを待ち焦がれるというわけですから驚くほかありません。

エネルギーは燃焼されなくてはなりません。溜め込まれて行き場を失ったエネルギーは害毒になります。しかし、正しく燃焼すれば健康を保てるどころか、素晴らしい結果を残すことにもなります。

世界遺産巡りは楽しいものです。タージマハール、アンコールワット、万里の長城、ピラミッド・・・。その前に立つとその壮麗さに圧倒されます。しかし根源にあるのが人間のストレスだと思えば違ったことが見えてきます。

ストレスは活力の源。その解消のために人は様々な行動をしてきました。古今東西の営みが文化となり、文明になり、今の人類の姿があるのだと思います。

ストレス対策決定版!手軽にスッキリおすすめ解消法!ストレス対処3つの切り札!など、
世の中、対処や軽減法を訴えるコピーに溢れています。しかし語られるのは、エネルギーをつまらない方法で消費してしまおうということにも思えます。もし仕事の活力に振り向ければどれほど大きな力になることでしょうか。

ストレスの害は溜め込むことによっておきます。ストレス解消法とはエネルギーとして燃焼する先を見つけることです。人は誰でもやりたいことがあるはずです。それをやり遂げるにはエネルギーが必要です。ストレスエネルギーをそこに振り向けることができたら、素晴らしい仕事結果が得られるはず。

それが本来のストレスがあるべき姿ではないでしょうか。心や体にダメージを与えるためのものでは決してありません。解消のために倍返し、10倍返しという考え方をやめることです。使い方を考えること、向ける先を考えることがすべての始まり。ストレス対処とは、ただの健康法ではなく、人生を輝かせるための重要な処方箋なのだと思います。


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