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道具を大切にする

以前、私がいわゆる途上国で野球を教える活動をしていた、というお話をしたことがある。海外では、特に彼らは教育的な要素が考慮しない、「ベースボール」をしているので、道具を大切にするという概念がない。一方、我々日本人になじみがあるのは、教育的な要素も含まれる「野球」である。そこには、野球をプレーすること以外にも、道具を大切にしたり、ゴミを拾ったりなど、精神的な部分も鍛えることが含まれている。
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そのような違いがある中で、実は、私はいろいろな軋轢や抵抗があるにも関わらず、「野球」の文化を「ベースボール」に持ち込もうとした。つまり、楽しむことを主体としている「ベースボール」に、「野球」で教える人間的成長などの精神的要素を取り入れようとしたのだ。
それは、向こうの人からみれば「武士やサムライ」のように見えたようで、奇妙以外の何物でもなかったと思う。そのため、ずいぶん冷たい目で見られたし、反対する人も多かった。

そのなかで、私が力を入れて取り組んだことが、今回のテーマである「道具磨き」である。なぜなら、ただでさえ道具の数が少ないのに、彼らはその道具を大切に扱わないからである。少しでも自分の道具に対して、愛着がわけば、大切に扱うようになり、ひいてはその道具も長く使えることになると思ったからだ。

日本では、グローブを磨いたり、革にオイルを塗ったりするのに、専用の道具がスポーツ用品店などに売っている。値段は数百円から千数百円と他の野球用品に比べれば安いのかもしれないが、総評して野球用品は高いと個人的には思っている。グローブを磨くレザーローションやオイルも「野球用品でなければ」、相対的に高いと思う。そして、そのことが一つの弊害を生んでいる。

それは、サッカーはボールひとつでプレーできるのに対し、(スパイクやユニフォーム、ソックスなどもあるかと思うが)野球はボールに加え、グローブやバット、さらにはベースなど、サッカーに比べ、たくさん揃えるものがあるうえ、それぞれが高価なものである。そしてそのことが、サッカーがワールドスポーツなのに対して、野球が世界的には普及していない原因にもなっているように個人的に思う。

私は、日本から道具を磨くものをたくさん買って用意して行ってはみたものの、この手元のグローブ磨きがなくなってしまえば、この現地には同じ用品は打っていないので、いつかは必ず尽きてしまう。何とかこちらで手に入る代用品のようなものはないか、と思っていたときに、パッと思い出したことがあった。

それは、大学時代にさかのぼるが、すごく仲の良かったスポーツ用品店の方がいて、その方がいよいよお店を閉めるというときに、大・大バーゲンセールをやってくれた。普段ではありえない価格で、タダ当然で学生である我々に還元してくれた。その時に、私は特に差し当たって足りないものはなかったが、道具磨きに関しては「消耗品」なので、買っておこうと思って行った。ただし、やはり同じことを考えている他の選手も多く、すでに売り切れていた。そのときに、その店の店主から、「化粧品とかで代わりになるよ。同じ成分だから。たとえばハンドクリームとかでもいいんだよ」と言われたのだ。

その時は、正直鼻で笑ってしまった。「ハンドクリームとグローブ磨きが同じはずないだろ」、と。ただし、よく考えてみるとハンドクリームは市販でも、そんなに高くない。それに比べて、グローブ磨きは値段がそこそこする。それこそ、そのお金を出せば、人に贈れるような高級なハンドクリームも買うことができるな、とその時思ったのだ。そのことを思い出した。

私が野球の指導をしていたブルガリアという国は、美意識が男女ともに非常に高く、男性でもハンドクリームどころかボディクリームを塗って、いい匂いで異性にアピールしているような有り様だった。
そこで、その身近にあるボディクリームを使って、グローブに油分を与える、そんな方法で、ただでさえ数の少ないグローブを少しでも長持ちさせるような取り組みをしたのだ。この仕掛けは功を奏し、私にグローブの塗り方を教わりに来たり、自分で自発的にグローブにボディクリームを塗る選手も出て来たりした。

私自身、みんなの前でデモンストレーションをしていたので、それからというもの、日本のスポーツ用品店さんには悪いが、自分の大好きなグローブにもいわゆる専門の用具は使わなくなってしまった。それでも、十分効果があることを実感したからだ。もし、あなたも野球用品の値段が気になるようだったら、是非試してみて欲しい。大切なのは、自分の道具に愛着が持てることではないだろうか。

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