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小指生活 #春ピリカ応募


俺が何者かだなんて誰も興味がないだろうから
無視してくれていいんだけど
ちょっとだけ聞いて欲しい事があって
そのことを書いてみようと思う。

幽体離脱》を体験したのは中学生の頃で
最初は驚いたけど

イヤなことがあった日には
手頃な気分転換にもなったし
嬉しい体質なんだって感謝した。

といっても
躰を抜け出して自由に行動できるワケじゃない。
女湯なんかを堂々と覗けるワケでもなかったし
ただ、自分の躰を見下ろすように上にいて
そのまま上空に上っていけるだけなんだ。

うんと高い処から見下ろす景色が素晴らしくってさ
気分も高揚するんだ。鳥さんたちもビックリさ。
彼らより、ず~~っと高い処まで上がれるんだ!

そんなことを時々楽しみながら・・・
いつの間にか大人って呼ばれる年齢になって
居酒屋でアルバイトしながらの生活だったんだけど・・・

イヤな出来事があったある日
気分転換にいつも通りの《幽体離脱》の後に
自分の躰に帰ったら・・・
なんか、違和感があったんだ。

あれ?・・・ここって。俺の躰だよな・・・??

違和感はすぐに確信に変わった。
自分のいる場所もわかった。

俺の・・・小指っ?!

俺の躰の右手の小指が唯一、俺が自由にできる場所だった。


じゃ、今
・・・俺の躰の中にいる奴は誰だ?

俺の躰は・・・俺の留守中に誰かに乗っ取られたのか?!



俺の小指生活は続いていた。

慣れてくると不法滞在者に対して俺なりの反撃も出来るようになってきた。
不法・・・いや、侵略者は大概、彷徨える幽体だったのだと思うが、
なんせ俺の躰。自由にさせてなるまじ!と、怒りの声を張り上げたのさ。

「一緒に地獄に行こうか?!」


すると・・・侵略者も 幽霊のような謎の声 》に耐えられずに、僅かな滞在で退散していくってワケだ。そんな奴らが数人、通り過ぎて行ったが・・・
俺はやはり本来の位置に還ることが出来ずに小指のままでいた。


そんなある日。例によって誰かが俺の躰に入って来た。侵略者・・・?
いや、いつもとは違う感覚があった。女性で・・・しかも生きている?

「ごめんなさい。勝手にあなたの躰に・・・!」

彼女の言い訳を聞いてみた。

「・・・そうなんだ。キミも幽体離脱ができて・・・
帰ろうとしたら、すでに誰かに躰を侵略されてたってことだね?」

「・・・・還りたい!」


俺は彼女に協力することにした。といっても、俺の躰を使うのは
彼女だったが・・・そして、彼女の本体と初対面!

俺は慣れた口調で彼女の侵略者に向かって叫ぶ!!

「一緒に地獄に行こうか?!」



《 突然の幽霊 》
?からの怒号に、彼女を侵略していた存在は去った。

めでたしめでたし・・・ 

で?


彼女自身となった凄い美人の彼女と対面したままの俺はというと
何故か正常な位置に還れていて・・・小指生活も終了。
本来の自分に回帰することができた。


期待値が一方的で高めではあるけど

新展開の素敵な春物語を待つばかりだ。



【了】(1170字)




〇初めて参加させて頂きます。
重厚でレベルの高い作品群の中に、軽めのお話で失礼します。
よろしくお願いいたします☆ 😅       

#春ピリカ応募




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