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『セピア色の・・・』#青ブラ文学部

*セピア色の・・・



久々に【地球】に降り立った。
こんなところに来るのは
今や、余程の物好きな変人くらいしかいない。

地球はすでに数億年前にその命を終えた《死星》となったが
この銀河に唯一ともいえる施設が遺っているからだ。

遥か過去に、地球の広大な死の大地に建設されたその建造物には
銀河中から観光客が訪れたがブームの終焉と共に見捨てられた。

朽ちるままに放置されたその施設は廃墟の外観を晒しているが
実はまだ稼働する装置が現存するという。それが狙いだ。

『時空の旅路写真館』と標示された施設の門柱が遺されている・・・
俺は躊躇することなく目的の場所を目指した。


☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆ 


遠い過去の時代。もっとも安全な《タイムトラベル》の一手段として
その技術は開発された。そして観光目的を含めた候補地として
すでに死星だった【地球】が選ばれたのである。

施設に来た観光客は案内に従い装置で待機する。
希望する時空の座標軸を選んで定められた一定時間、その再現された
映像世界を体感するのである。

記録媒体として抽出された映像世界は、まるで現実であるかのような
《その時》として出現する。
かつて、古典的な【写真】や【録画】された映像を観るように・・・
再生されたその世界では道行く恋人同士の会話さえも聞き取れる。

もちろん《映像》なので実際に触れたりは出来ないが、その時代の
まさに《切り取られた現実》そのものを目の当たりにするのだ。


【地球】に存在したあらゆる現実が時空の座標を選ぶことで体感できる
その施設は銀河内でも一大ブームとなったが、ある時からその映像世界に
バグが発生した。カラーで再生されていたその世界から《色》が失われたのだ。正確には【セピア】一色となったのである。

現実とは少し違う幻想的な世界にも新たな興味は継続されていたが
バグが改善されないことで観光客の足は次第に遠のき・・・やがて
単に銀河の僻地の忘れられた施設となったという。

以来、《セピア》が悠久の過去の代名詞のような言葉になったとか
聴いたが、セピア色に罪はあるまい。

☆☆☆☆


俺が選んだ「時空座標軸」は、地球・原始時代の日本と呼ばれた国。
西暦1970年。昭和45年4月19日。

なんでここを選んだかは・・・
単に俺の好みなんだから好きにさせてくれ。


なるほど、見事に当時のまま再現されているようだ。
カラーじゃなくてセピアだっていいじゃないか。雰囲気もある・・・
場所の標示は《新宿》。若者が多いな・・・

俺は人波を抜って新宿の街中を歩いた。
歌舞伎町? ・・・音楽らしきものが流れている。歌手の声か?

〽15、 16、17 と アタシの人生暗かった~~
過去はどんなに暗くとも~ 夢は夜ひ~らく~~ ♬


ふ~ん。何だか哀しい歌だな・・・・


こんな時代が本当にあっただなんて、楽しいじゃないか!


周りの景色を愉しみながら、舞い散る何かに気付いて
高層ビルを見上げた俺の頬を・・・

セピア色の 桜の花びらが 撫でた。



【了】

(1234字)



*ちなみに4月19日は私の誕生日です。(笑)


*参加させていただきます。😊

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