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(What’s the Cheap Story) Morning Glory?

年明けの少し前に札幌に帰ってきた。
昨日は髪を切った後、友達に連れてもらってススキノのビルの上階にあるクラブに連れて行ってもらい、ほぼ貸し切りの中でスーパーカーや岡村靖幸を聴いてはしゃぎながらお酒を飲んでいた。

気づいたら終電を逃してしまっていた。歩いて家まで帰れる距離だったが、美容室で読んでいたHUNTER×HUNTERがあんまり面白かったせいで、ほぼカップルしかいない深夜のススキノを少し散歩してから狸小路横のネットカフェに泊まって続きを読むことにした。

(いざブースに入ると大画面で見れるエッチなお姉さんの誘惑に負けてHUNTER×HUNTERはさほど読み進められなかったのは恥ずかしい話ではある。)

その日の俺は相当ボケていて、買ったばかりのタバコを喫茶店に置いていき、わざわざ友達に届けてもらったそのタバコをまた失くすというポンコツを発揮していたので、寒い中また新しいタバコを買いに行くハメになった。本日二箱目のタバコを持って喫煙所に入ると、黒いダウンジャケットを着て窓縁に腰掛けた男性が重大そうにスマホを横持ちにして、サッカーゲームをしていた。他の利用者は眠そうな目をしながらビルの7階にある冷え切ったその喫煙所に入ってきて、用を済ませた後は足早にドアを開けて出て行ったが、彼だけは何故かずっとそこにいるような感じがした。

彼はさもそこが自分の部屋であるかのように、プールの底のような色のパッケージに入ったアメリカンスピリッツの煙で喫煙所を満たしていた。
俺は彼がちゃんとした手続きをしないで居座っている人間か、仲間内で泊まりに来たが全く馴染めなかった人間か、めんどくさがりのチェインスモーカーでサッカー好きの人間のどれかかな、と邪推して いずれにしろ穏やかではないな、と思ってしまった。

自分の部屋に戻って少しでも元を取ろうと漫画の続きを読んでいるうちに時間は灰色になっていき、気づけば朝だった。

精算を済ませる前に一服しておこうと思って、無料の紙コップ入りのコーヒーを持って喫煙所に行くとまだ彼はその姿勢のままサッカーゲームをしていた。札幌の朝は寒い。すっかり外は明るくなっていた。彼は身を縮こまらせながらチビチビとアメスピを吸っていた。俺も震えながらハイライトを吸った。俺のイヤホンの中でリアム・ギャラガーが「We were getting high」と歌っている。俺は、1月5日の寒すぎる喫煙所の住民にも、アメリカンスピリッツがあってよかったと思った。熱中できるスマホのサッカーゲームがあってよかったと思った。そして誰かの寒さをいっときでも忘れさせるような何かになれればいいなとぼんやり、その後強く思ってしまった。人通りない朝の大通を見下ろしながら、夜になればここにシャンパンの雨が降ればいいのになと思った。

彼が喫煙所を出た後、オートロックのドアの中にルームキーを置いてきてしまったことに気づいて、フロントにわざわざ行く羽目になった。
リアムは「We were getting high」と歌っていた。

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