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砂絵 #34_50

 暫くして、船が浜に近づいてくる。船は波打ち際まで近づき、勢いよく浜辺に乗上げる。後ずさりする須恵。
「沖が時化てね」船縁から男が顔を出し、苦笑いを浮かべる。
「今、梯子降ろすから」男は舷側に回り梯子を用意する。
 須恵は、立ち尽くしたまま男の様子を眺める。
「さあ、気を付けて上ってきて」降ろした梯子が砂浜に突き刺さる。
 首を横に振る須恵。 
「急いで!」男が辺りを警戒するように声を絞り出す。
 須恵は船に背を向けしゃがみ込むと、濡れた砂に大きな字をなぞり始める。砂浜に『人ちがい』と描く。上から文字が読めるよう、須恵は身体を横にずらす。
 男は舷側から身を乗りだし、辺りを見回してから砂浜に掘られた文字を見下ろす。