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砂絵 #8_13-14

「消防署のオルゴールにいた子だよ。点検に行ったら、排気ガスで真っ黒だ。かわいそうになってな」黒ずみ色褪せた、白い、いや灰色に変わった制服を着た人形。泰造は、人形の顔を愛しそうに磨き上げる。 
「設置して、間もないんでしょう?それが、もう真っ黒」
「あんな交通量の多いところじゃ、すぐ煤だらけだ。一体づつ磨くことにした」
「七体すべてじゃなく?」
「いっぺんに居なくなって、捜索願でも出されたら困るからな」顔を上げ、泰造はニヤッと笑う。
「そうだね・・・」
 砂絵は自室に入り、灯を点ける。壁一面に貼られた写真が鈍く光る。フラワーアレンジを撮ったものだ。砂絵はベットに座り、壁をじっと見つめる。

六 ブツ
 燃料工場、従業員食堂。作業服の二人の男が食事を採っている。その二人と背中合わせに椎衣が座る。
「ブツが足りない。ブツが」と、赤い作業着の男。
 椎衣は食器の中のペーストを掻込みながら、男達の会話に耳を傾ける。
「今の時代、自然死を待つしかないからな。昔みたいに戦争や疫病が、交通事故だって頻繁に起こるわけじゃない。何せ、モノを動かすの燃料がないときている」と、片割れの青い作業着。
「健康長寿時代っていうのも、今の燃料政策にとっては皮肉だ。こればっかりは、無闇につくりだすわけにもいかない。そろそろきつくなるぜ。下期の計画には、まるっきり足りてない」
「そんなに増産して、どうするつもりなんだ?」